

整形外科医・漢方専門医
関 直樹
漢方薬とは、複数の生薬が組み合わされて作られた薬です。
例えば、風邪の初期にとてもよく効くことで有名な葛根湯(かっこんとう)は、7 種類の生薬で構成されています。
その源は中国4000年の歴史にあると言っても過言ではありません。
「この草の根は風邪に効く」とか、「こっちの木の皮は腹痛に効く」といった、長年の経験の積み重ねが漢方の土台となっています。
さまざまな組み合わせがありますから、漢方薬の数は無数にあるといってもいいのですが、よく用いられる漢方薬は、およそ200 種類くらい。
最近では、煎じるヒマもない多忙な現代人向けに、エキス製剤の漢方薬まで登場していますので、便利であると同時にグッと身近な存在になりました。
たしかな効果のみならず、生薬という自然の素材ゆえ、体にやさしいことも評価され、最近では大学病院でも漢方薬を処方する医師が増えています。

さて、漢方医学には、人体の仕組みや働きについて漢方独自の考え方があります。
西洋医学に慣れた私たち現代人にはなかなか理解しづらいのですが、簡単に解説しましょう。
私どもの体のなかには「気・血・水」という3 要素がバランスよく体内を循環していると考えられています。
「気」とは心身機能の基本となるエネルギーです。
目には見えませんが生命を維持するための最も大事な要素です。
「気力」、「元気」、「勇気」など、ふだん何げなく使っている言葉にも「気」のつく言葉は多いですね。ですから、「気」の巡りが悪くなると、疲れたり元気がなくなったりする「気鬱(きうつ)」症状が現れます。
「血」とは文字どおり血液ですが、さらに幅広い概念が含まれます。
この「血」がさまざまな原因で滞ったり古くなったりしますと、「瘀血(おけつ)」といわれる状態になり、いろいろな症状を呈してきます。
冷えたりのぼせたり、肌が荒れたり、目の下にクマができたり、このような症状は「瘀血」のせいと考えます。
「水」とは血液以外の液体で、「気」や「血」をサポートすると考えられています。何らかの原因で「水」が滞ると「水毒(すいどく)」という状態になり、体に異変が起こります。
例えば、むくんだり関節に水が溜まったりというのは水毒のせいと考えます。
このように「気・血・水」が、互いに影響しながら、体内をバランスよく巡っているから健康が保たれる、と漢方医学では考えられているのです。ですから、漢方の治療では、3要素の乱れたバランスをいかによくするかが大事なのです。

数ある生薬には、「気」の巡りをよくするもの、「血」の滞りを解消するもの、「水」のバランスを改善するもの、そのような働きがあり、それらの複雑な組み合わせで漢方薬は作られているのです。
もちろん、「気・血・水」のバランスをよくする働き以外にも、温めたり冷やしたりする作用がそれぞれの生薬にあります。
漢方薬で冷え性体質が改善したり、発熱が抑えられたりするのは、そのためなのです。

とにかく、漢方治療の特徴は、対症療法のみならず、根本的な治療をしていこうという姿勢にあります。
さて、慢性の痛みに関しては「水」がとくに関連がある、といわれています。
そして「水」の滞りがあると、結局は、「血」や「気」にも乱れが生じ、全身のバランスが乱れてきます。
ですから、痛みを緩和するためにはこの「水」の滞りをなくし、「血」の巡りをよくしてあげることが必要になってきます。

いずれにせよ、漢方薬は自然の成分だから、体にやさしくマイルドな分、効果が出てくるまでに時聞がかかることがあります。
ですから「そういえば…」と、いつの間にか体の調子がよくなっていることに気づくこともたびたびあります。
漢方薬が病気になりにくい体づくりを目指すといわれる理由もうなずけましょう。
なお、漢方薬といっても西洋薬と同じ「薬」ですから、他の薬との併用に関しては注意しなければならない場合もありますし、現在の病気や症状によっては漢方も適さない場合があります。
服用前は使用上の注意をよく読むことも大事ですし、少しでも疑問な点があれば、専門家にご相談するのがよいでしょう。
これを機会に、漢方の効果を実際にお試しになったらいかがでしょうか。
- 関 直樹
- 1969 年、東京大学医学部卒。東大病院整形外科、都立府中病院整形外科、都立多摩老人医療センター(現・東京都医療保健公社 多摩北部医療センター)リハビリテーション科、2001年4 月より日中友好会館クリニック所長を歴任。専門のリウマチ外科など、整形外科診療の傍ら、早くから漢方薬の有用性に注目。整形外科疾患のみならず、内科、皮膚科、心療内科、婦人科など、各領域の漢方治療を得意とする疾患を研究し、臨床に応用。(財)日本漢方医学研究所常務理事、日本東洋医学会常務理事を歴任。

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