再春館製薬所 研究開発部

日々のスキンケア習慣と
「重ね塗り」がもたらす、
機能性成分の確かな浸透力

〜肌を傷つけない最新の光学測定が明かした、成分浸透における使用方法の影響〜

2026.06.02

研究

背景と課題:効果的なお手入れ方法を追求するために

化粧品の開発において、健やかな肌を保つための機能性成分を、いかに効率よく肌の内部へと届けるかは、極めて重要な研究テーマです。これまで、成分を浸透させるための技術は、主に「製剤」そのものの工夫に焦点が当てられてきました。

しかし、私たちが日常的に化粧品を使用する環境を振り返ると、肌の状態は一人ひとり異なり、洗顔などの前処理による皮脂の除去や、複数のアイテムを順番に塗布するスキンケア習慣が、成分の浸透に少なからず影響を与えていると考えられます。肌本来の働きと調和しながら、肌と自然に同化していく浸透プロセスを解き明かすためには、製剤の特性だけでなく、受け皿となる「肌の状態」と「スキンケア習慣」に着目する必要がありました。

研究アプローチ:実際の使用環境に近づけるため、人の肌で検証

本研究では、日々のスキンケア習慣やお手入れの方法が、機能性成分の浸透にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、リアルで肌の内部を観察できる「共焦点ラマン分光装置」を用いました。化粧品の成分浸透を評価する際、人工的な皮膚モデルを使用する方法もありますが、それでは長期間にわたる塗布試験や、日々の積み重ねによる肌の細やかな変化を追うことは困難です。「毎日のお手入れによって肌がどう変化していくのかを把握するためには、実際の人の肌で評価するしかない」という想いから、今回の評価手法が実行されることになりました。この最先端の装置は、肌表面から深さ方向に向かって連続的に測定を行うことで、肌を一切傷つけることなく(非侵襲的に)、内部成分の深さ方向への広がりを取得することができます。今回は、肌表面から深さ「6μm」から「20μm」の範囲を解析対象としました。

また、肌の潤いを測る角層水分量の測定には専用機器を使用し、外部環境の影響を排除するため、温度「20℃」、湿度「50%」に調整された環境室内で評価を実施しています。肌の水分測定だけでなく、成分の浸透測定も温度「20℃」、湿度「50%」に調整した同じ環境室で行いました。

浸透の指標となる機能性成分には、エイジングケアなどで広く知られるナイアシンアミド(以下、NA)を用いました。

検証にあたり、特に着目したのは「セット使い」と「日々の習慣」「保湿成分の特性」です。

現在、多くの化粧品ブランドにおいて、化粧水、美容液、クリームといった複数のアイテムを順番に使用する「重ね塗り」が推奨されています。そこで本研究では、こうした実際の使用環境を再現するため、クリーム(NA配合)を塗る前に様々な製剤を重ねて塗布する試験を実施し、成分量の変動や肌状態の推移を比較評価しました。

そして、その場での単発の検証にとどまらず、測定の1週間前から1日2回(朝と晩)、製剤を事前に塗布し続けることで、「日常的にスキンケアが行き届いたリアルな肌状態」を再現しました。

さらに、使用する製剤の保湿成分として、分子が大きく肌表面で潤いのベール(被膜)を形成する「ヒアルロン酸Na」と、分子を小さく分解することで肌への浸透性を高めた「加水分解ヒアルロン酸Na」を用意し、それぞれの特性による違いも比較検証しました。

研究の成果:日々のスキンケア習慣がもたらす「浸透力」の真実 
「重ね塗り」で機能性成分を肌の奥深くへ届ける

複数の化粧品を順番に使用するお手入れ方法について、実際に成分がどの程度肌へ届いているのかを検証しました。その結果、同じ機能性成分を含むアイテムを重ね塗りすることで、肌へ与えるNAの総量(μg/回)が増加し、結果として肌のより奥深く(内部)まで成分が到達することが確認されました。(図1)

これは、化粧水で肌を潤し、美容液とクリームで機能性成分を与えるといった「重ね塗り」の習慣が、単に肌表面を覆うだけでなく、機能性成分を肌のより深い部分へと効率的に送り届けるために、極めて理にかなった手法であることを示しています。段階を踏んで丁寧に肌へなじませることで、成分はより深く肌と同化していくのです。

図1:重ね塗りしたNA総量と到達深度の関係

毎日のスキンケアを継続することで、成分の浸透量が増加

次に、毎日のスキンケアの積み重ねが肌にどのような影響を与えるかを検証するため、「測定の1週間前から1日2回のスキンケアを継続した肌」と「そうでない肌」を比較しました。(図2)

図2:測定1週間前からの検体塗布スケジュール

結果として、事前のスキンケアを継続していた肌は、角層の水分量が高く保たれており、機能性成分の浸透量も多いことが判明しました。日々の丁寧なケアによって肌の水分保持能力が整うことで、後に続く機能性成分を受け入れやすい、豊かな土壌(浸透環境)が構築されていると考えられます。

図3:継続スキンケア(事前塗布)の有無によるNAのラマンスペクトル強度の違い

図4:継続スキンケア(事前塗布)の有無による角層の違い

また、使用する化粧水の保湿成分によっても興味深い違いが見られました。分子が小さく浸透性に優れる加水分解ヒアルロン酸Naなどを用いた場合は浸透効率が大きく向上した一方で、分子が大きく肌表面に留まりやすいヒアルロン酸Naを用いた場合は、角層の水分量は高まるものの、表面に形成された潤いのベール(物理的被膜)が、その後に塗布する成分の浸透を穏やかに制限する可能性も示唆されました。このことは、目的とする効果に合わせて、最適な成分の組み合わせを選ぶことの重要性を示しています。(図3、4)

朝晩「1日2回」のスキンケアが合理的である科学的根拠

さらに、肌の内部に浸透した成分が、時間の経過とともにどのように変化していくのかを最大「8時間」まで追跡しました。(表1)

得られたデータから今後の推移を予測する算出式を導き出したところ、浸透したNAは塗布から約「16時間」経過すると、検出できる限界の量以下になる可能性が示されました。(図5)

私たちが一般的に行っている「朝と晩の1日2回」というスキンケアの頻度は、肌内部の機能性成分を維持するために、非常に合理的で理にかなった習慣であることが科学的な視点からも裏付けられました。

表1:被験者a, b, c, d(4名)の製剤塗布後のラマンスペクトル強度の変化

図5:被験者a, b, c, d(4名)のデータから求められた線形予測式

まとめ

本研究の結果、日々のスキンケア習慣は、角層水分量を向上させるだけではなく、機能性成分を受け入れやすい状態に整え、複数のアイテムの重ね塗りは、機能性成分を肌のより深い部分へと効率的に送り届けることに寄与することが示唆されました。

  1. 1.同じ機能性成分を含む複数のアイテムを用いた「重ね塗り」は、機能性成分を肌深部へより広く深く届けるために有効であること。
  2. 2.毎日の継続的なスキンケアが肌の水分を保つだけでなく、成分を受け入れやすい環境を育むこと。
  3. 3.朝晩1日2回のスキンケア頻度が、肌内部の成分濃度を維持するために科学的にも合理的であること。

本知見は、お客様の肌本来の力を引き出す製品設計や、より効果を実感していただける最適なお手入れ方法の提案に活かされていきます。

今後は、さらに多様な機能性成分や異なる肌状態における浸透メカニズムの解明を進めていきます。

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