再春館製薬所 研究開発部

生体リズム

全ての生物が持っている周期

生体リズムとは

「体内時計」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
体内時計は睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌などの生体機能を調整する、生物が持っているメカニズムのことです。
その体内時計が作り出すものが「生体リズム」で、私たち人間、動植物など全ての生物が持っている周期そのものを指します。
私たち人間は、朝起きて、夜寝るという生活を送っています。この当たり前な生活にも、生体リズムが関係しています。生体リズムを整えることは、本来私たちがもっている力(自己回復力)を高めます。しかし、生体リズムは、不規則な睡眠や食事、平日と休日の生活リズムの違いなど、さまざまな要因によって影響を受け左右されます。生体リズムに影響を与えないためにも、体の内側と外側の両方を意識し、健康な体を作ることが大事です。

約2400年前、西洋医学の父とされているヒポクラテスは、「規則性は健康の兆候であり、不規則な身体機能や不規則な習慣は不健康状態をつのらせる」と述べています。この時代から生体リズムは”健康の維持に関係している”と指摘されており、人間の根本に関わる重要な機構といえます。

生体リズムの仕組み

体内時計は、脳にある「親時計」と、全身の細胞一つひとつに存在する「子時計」から成り立っています。親時計が全体の司令塔となり、全身の子時計をコントロールしています。

生体リズム全容イメージ

中枢時計(マスタークロック):
脳にある最高司令官

生体リズム全体の司令塔となるのが、脳の中心部、視床下部にある視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる神経細胞の集まりです。これが「中枢時計」です。
中枢時計は全身にある末梢時計のリズムを統括し、体全体の調和を保ちます。
中枢時計は約24.2時間という、地球の自転(24時間)より少し長い周期のリズムを自律的に刻んでいます。
このわずかなズレを毎日修正し、地球の24時間周期に合わせる(同調させる)ために最も重要なのが「光」です。
朝、目が光を感知すると、その情報は網膜から視神経を通って、直接、中枢時計である視交叉上核に届きます。「朝が来た」というシグナルを受け取った中枢時計は、ズレていた時計の針をリセットし、再び24時間のリズムをスタートさせます。

中枢時計(マスタークロック)イメージ

末梢時計(ペリフェラルクロック):
全身の臓器に存在する現場監督

中枢時計の指令を受けて、実際に体の各部署でリズムを刻んでいるのが「末梢時計」です。末梢時計は、心臓、肝臓、腎臓、筋肉、皮膚など、全身のほぼ全ての臓器や組織の細胞に存在します。
中枢時計からの指令(自律神経やホルモン)に従い、それぞれの臓器の働き(消化、代謝、修復など)に「活動」と「休息」のメリハリをつけます。
例えば肝臓の末梢時計は、日中の活動時間帯に栄養素の代謝を活発にし、夜間は休息モードに入ります。
また、腎臓の末梢時計は、夜間に尿の生成を少なくするように働きかけます。

中枢時計と同じように、末梢時計にもリセットがあります。子時計は中枢時計からの指令だけでなく、「食事」や「運動」といった刺激によってもリセットされます。
朝食を摂ると、胃や腸などの消化器系の末梢時計が「朝だ、活動開始だ」と認識し、働き始めます。この体内時計の同調が、「朝食を抜くと体がだるい」と感じる一因であり、規則正しい食事が重要な理由です。

末梢時計(ペリフェラルクロック)イメージ

分子レベルの仕組み:時計遺伝子

中枢時計も末梢時計も、その根本では「時計遺伝子」と呼ばれる複数の遺伝子群が、お互いの働きを抑制し合うフィードバックループを繰り返すことで、約24時間のリズムを生み出しています。この発見は、2017年のノーベル生理学・医学賞の対象となりました。
時計遺伝子とは、細胞の核の中に存在し、それ自身が約24時間周期のリズムを生み出すための設計図となる遺伝子群のことです。脳の中枢時計から、全身の末梢時計まで、すべての体内時計はこの時計遺伝子の働きによって動いています。
時計遺伝子の働きは、「アクセル役」と「ブレーキ役」という2組のタンパク質の相互作用によって、約24時間のサイクルで自動的に繰り返されます。
この遺伝子レベルの精巧なリズムが、中枢時計から末梢時計まで全ての細胞で機能し、私たちの睡眠や代謝、ホルモン分泌といった、体全体の壮大な生体リズムを生み出しているのです。

時計遺伝子イメージ

生体リズムの種類

生体リズムは、その周期の長さによって主に3つの種類に分類されます。私たちの健康に最も関わりが深い、代表的なリズムを解説します。

概日リズム
(日周リズム、サーカディアンリズム)

周期:約24時間

生体リズムの中で最も基本的で重要なリズムで、「概ね1日」のリズムのため、概日リズムと言います。私たちの体は、この約24時間のリズムに従って、心と体の機能を最適化しています。
概日リズムの例としては、睡眠〜起床があげられます。夜になると眠くなるのは、 睡眠ホルモンのメラトニンが分泌されて眠くなり、朝になるとストレスホルモンのコルチゾールが分泌されて覚醒します。
また体温や血圧の調節も行っており、日中は体温や血圧が高く、夜間は低くなるように調節されます。このようなリズムがあること、それ自体が概日リズムです。

超日リズム
(超短周期リズム、ウルトラディアンリズム)

周期:約30分〜4時間

1日の中で複数回繰り返される、比較的短い周期のリズムです。「1日に1回のリズムを超える」という意味で名付けられました。脳の視床下部にある室傍核と傍室傍核という領域が、超日リズムの大きな要素を占めている、ということが現在解明されています。
ウルトラディアンリズムの例としては、睡眠時のレム睡眠・ノンレム睡眠のサイクルがあります。眠っている間、約90分周期で浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)が繰り返されます。
また、食事後に数時間立つと空腹感を感じる…というのもウルトラディアンリズムです。

インフラディアンリズム

周期:週、月、年

1日よりも長い周期で変動するリズムです。「インフラ」は「下」を意味し、1日に1回の周期を下回る、という意味で名付けられました。
インフラディアンリズムは、周期により名称がつけられています。

週周リズム(サーカセプタンリズム)
7日、1週間のリズム。【例】月曜日が憂鬱
月周リズム(サーカナルリズム)
約29.5日、1ヶ月のリズム。【例】女性の月経周期など
年周リズム(サーカニュアルリズム)
約365日、1年のリズム。【例】動物の冬眠、植物の開花など

身体の生理的な周期で発生するものもありますが、最も普段の生活が影響するリズム…とも考えられます。

週周リズムを知りたい方はこちら

インフラディアンリズムイメージ

生体リズムが崩れる要因

生体リズムには体内の細胞レベルの仕組みがあり、さまざまな種類があることがお分かりいただけたかと思います。
では、生体リズムはどのように崩れるのか。
生体リズムが崩れる主な原因は、「体内時計」のリズムと、「実際の生活」のリズムの間にズレが生じることです。現代社会には、このズレを引き起こす要因が数多く存在します。

生体リズムが崩れる要因イメージ

すぐに表れる心身の不調

生体リズムが崩れると、すぐに心身にさまざまな不調が現れます。

睡眠の問題
夜になっても寝付けない(不眠)
眠りが浅く、途中で何度も目が覚める
朝、すっきりと起きられない
日中のパフォーマンス低下
日中に強い眠気や倦怠感がある
集中力や記憶力が低下する
気分が落ち込んだり、イライラしやすくなる
身体的な不調
頭痛やめまい
食欲不振や胃腸の不調(便秘、下痢)

生体リズムの乱れの慢性化が
深刻な病気をまねく

生体リズムの乱れが慢性化すると、より深刻な病気の発症リスクが高まることが科学的に明らかになっています。

生活習慣病
ホルモンバランスや代謝が乱れることで、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などを発症しやすくなります。
心血管疾患
血圧や心拍数のリズムが乱れ、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。
精神疾患
気分の調節に関わる神経伝達物質のリズムも乱れるため、うつ病や不安障害との強い関連が指摘されています。
免疫力の低下
免疫システムも24時間のリズムで働いているため、リズムが崩れると機能が低下し、風邪などの感染症にかかりやすくなります。
がん
WHO(世界保健機関)の専門機関は、生体リズムを乱す交代制勤務(シフトワーク)を「発がん性のおそれがおそらくあるもの」として分類しています。これは、細胞の増殖や修復のリズムが乱れることが一因と考えられています。

生体リズムを整えるには

生体リズムはすぐに乱れ、慢性化すると深刻な病気の原因になってしまいます。
生体リズムを整えるには、体内の時計と実際の生活時間を一致させることです。そのためには、「朝の光」と「食事」をスイッチとして活用し、昼と夜のメリハリをはっきりさせることが重要です。

【朝】 体内時計をリセットする

同じ時間に起き、朝日を浴びる
休日でも平日との差を2時間以内にし、毎日決まった時間に起きましょう。
起床後1時間以内に、15分ほどベランダや窓際で太陽の光を浴びます。これにより、脳の親時計がリセットされ、体内では「活動開始」のスイッチが入ります。曇りや雨の日でも、屋外の光は室内灯よりずっと強いため効果があります。
朝食を必ず食べる
朝食は、胃や腸など全身の臓器にある「子時計」をリセットする重要なスイッチです。
体温を上げ、一日のエネルギー源となる炭水化物(ごはん、パンなど)と、体の構成や調節に重要なタンパク質(卵、納豆など)をバランス良く摂るのが理想です。

【昼】 夜の眠りの質を高める

日中に活動的に過ごす
日中に適度な運動をすると、体温が上がり、夜に自然な眠気が訪れやすくなります。
軽い散歩やストレッチをするだけでも効果的です。
仮眠は短く、午後の早い時間に
昼寝をする場合は、午後3時までに15〜20分程度に留めましょう。それ以上長く眠ると、夜の睡眠に影響が出ます。

【夜】スムーズな入眠を促す

夜の光(特にブルーライト)を避ける
スマートフォン、パソコン、テレビなどから出るブルーライトは、睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌を強力に抑制します。就寝の1〜2時間前には、これらの使用を控えるのが理想です。部屋の照明も、暖色系の暗めのものに切り替えると効果的です。
夕食は就寝の3時間前までに済ませる
眠っている間に胃腸を休ませるため、消化の良いものを腹八分目に済ませましょう。
就寝1〜2時間前に入浴する
38〜40℃程度のぬるめのお湯に15分ほど浸かると、一時的に上がった深部体温が下がるタイミングで自然な眠気が訪れます。
カフェイン・アルコールを控える
カフェインには覚醒作用があり、アルコールは眠りを浅くするため、就寝前の摂取は避けましょう。

これらの習慣は、一つだけを完璧に行うよりも、できる範囲で複数を組み合わせ、毎日続けることが最も大切です。
少しずつ生活に取り入れることで、体内時計は徐々に正常なリズムを取り戻していきます。

正常なリズムイメージ