再春館製薬所 研究開発部

コラーゲンの基礎知識

Basic knowledge of collagen

コラーゲンとは

コラーゲンは私たちの体を構成するタンパク質の一種で、全タンパク質の約30%を占める、最も量の多い成分です。皮膚、骨、軟骨、血管、腱など、全身のあらゆる組織に存在します。

特に、肌のハリや弾力を保つ「真皮」の約70%はコラーゲンでできており、美しさを支える上で欠かせない成分として知られています。またコラーゲンは、真皮にある「線維芽細胞」という工場で、以下の手順で作られます。

  1. 1.食事から摂取したタンパク質がアミノ酸に分解される。
  2. 2.線維芽細胞がアミノ酸を材料にコラーゲンの元(プロコラーゲン)を合成する。この時、ビタミンCと鉄分が不可欠な補酵素として働く。
  3. 3.細胞の外でプロコラーゲンが束になり、頑丈なコラーゲン線維が完成する。

コラーゲンイメージ

コラーゲンの機能

コラーゲンと聞くと、主に美容に関する効果を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
コラーゲンは肌のハリを保つ美容成分というだけでなく、全身の構造と機能を支える極めて重要なタンパク質です。その機能は多岐にわたり、体を形作り、守り、修復する上で不可欠な役割を果たしています。
コラーゲンの最も根源的な機能は「構造の維持」です。細胞と細胞をつなぎ合わせ、組織に強度としなやかさを与える「接着剤」や「支柱」として働き、私たちの体を支えています。コラーゲンの機能は美容の領域をはるかに超え、体の構造、運動機能、さらには自己修復能力に至るまで、生命維持の根幹を支える多才な役割を担っています。
ここでは、コラーゲンの主な機能を説明します。

傷の治癒(創傷治癒)における足場機能

怪我をして皮膚や血管が損傷すると、コラーゲンがその修復プロセスで中心的な役割を果たします。

1.止血
傷口で露出したコラーゲンに血小板が集まり、血液を固めるスイッチが入ります。
2.足場の構築
線維芽細胞が傷口に集まり、新しいコラーゲンを大量に産生。これが新しい組織を作るための「足場」となります。
3.組織の再生
このコラーゲンの足場を頼りに、新しい皮膚細胞や血管が作られ、傷が修復されていきます。

コラーゲンによる傷の治癒イメージ

細胞の活動を制御する情報伝達機能

私たちの体内の細胞は、常に体内を動き回っています。
移動の際にコラーゲンと接触することで、細胞とコラーゲンは相互に情報のやりとりを行い、情報に応じて命令を出し、体内の状況をコントロールしています。

コラーゲンは、細胞の増殖、分化、移動といった様々な活動を制御するシグナルを出す「情報伝達の媒体」としても機能しているのです。

コラーゲンの情報伝達イメージ

医療材料としての機能

コラーゲンはその高い生体適合性(体内で拒絶反応が起きにくい性質)から、医療分野でも広く応用されています。

  • 創傷被覆材: 傷の治りを促進するシート
  • 人工皮膚・人工骨: 再生医療における足場材料
  • 手術用の縫合糸

コラーゲンの医療材料例

コラーゲンの種類と主な働き

コラーゲンは体内に約30種類存在します。
皮膚や骨、関節、臓器など、異なる場所で特有の働きをしており、構造や機能の違いによって分類され、「Ⅰ型コラーゲン」「Ⅱ型コラーゲン」など、ローマ数字で呼ばれます。
ここではコラーゲンの中でも、ヒトに関連し、再春館製薬所研究開発部で主に研究を行っている、代表的なものを紹介します。

種類 主な存在場所 主要な機能 役割の詳細
Ⅰ型
コラーゲン
  • 真皮
  • 靭帯
  • 角膜
  • ほとんどの間質結合組織
  • 美容(肌のハリ・弾力)
  • 骨の健康
全身のコラーゲンの約90%を占める、最も豊富で広範囲に分布するタイプです。主な役割は強度・張力の付与、組織の構造維持です。強靭な線維を形成し、太く強いロープのように組織を支えています。
Ⅱ型
コラーゲン
  • 硝子軟骨
  • 硝子体
  • 髄核
  • 角膜上皮
  • 脊索
  • 関節の可動性サポート
  • 軟骨の維持
軟骨に特化して存在します。柔軟性・クッション性を付与し、細く柔軟な線維を形成し、衝撃を吸収するクッションとしての役割を果たします。
Ⅲ型
コラーゲン
  • 皮膚
  • 血管壁
  • ほとんどの組織の細網繊維
  • 肌の柔軟性と復元力、しなやかさの維持
  • 血管の健康維持
  • 組織の修復と回復
Ⅰ型コラーゲンが存在する場所(皮膚、血管など)に共存し、Ⅰ型よりも細く、柔軟性に富んだ線維(細網線維)を形成します。新生児が多く持ち、加齢と共に減少することから、「ベビーコラーゲン」とも呼ばれます。
Ⅳ型
コラーゲン
  • 基底膜(きていまく)の主成分
  • 細胞の土台・接着面の形成
  • 組織間のバリア機能
  • 物質の選別機能
Ⅳ型コラーゲンは、線維の束ではなく、網目状(ネットワーク)のシートを形成する非繊維形成型コラーゲンです。「基底膜」と呼ばれる、上皮細胞等の下にある組織と接する境界にのみ存在し、細胞を物理的に支える土台の役割を持っています。
Ⅴ型
コラーゲン
  • 角膜
  • 胎児膜
  • Ⅰ型コラーゲン線維の太さや配列の制御
Ⅰ型コラーゲンが存在する組織に少量含まれます。Ⅰ型コラーゲン分子の集合と線維化を制御する役割を担い、Ⅰ型コラーゲンの「質の良さ」を支えます。
Ⅵ型
コラーゲン
  • 血管、筋肉、皮膚(真皮)、肺などの細胞の周囲
  • 筋組織や皮膚の健康維持
  • 細胞外マトリックス(ECM)と細胞との接着を仲介
  • 細胞を守るクッション
細胞の周囲に「網状構造」と呼ばれる、分子が網の目状に結合してできた立体的な構造を作ります。それによって細胞を守ったり、細胞間の信号伝達を仲介する役割を持ちます。
Ⅶ型
コラーゲン
  • 皮膚(基底膜と真皮をつなぐ境界部分)
  • 基底膜の固定
  • 結合の安定化
Ⅶ型コラーゲンは、基底膜をその下の組織に繋ぎ留める役割を担います。Ⅳ型コラーゲンが基底膜を形成し、Ⅶ型コラーゲンは基底膜を真皮に固定する錨(アンカー)のようなイメージです。