腸の基礎知識と
腸に良い生活習慣

腸には、摂取した食べ物を消化・吸収する機能と、ウイルスなどの病原体から体を守る免疫機能とが備わっています。身体の免疫機能の約60%は腸にあるといわれています。

腸から吸収された栄養分は、血液により全身の細胞に運ばれるため、腸の不調は、全身にさまざまな影響を与えます。肌荒れや冷え性、疲れやすさ、風邪のひきやすさなど、一見「体質」と思われがちなことも、実は腸が関係していることも多いとされています。

このようなことから、便秘や肌荒れなどの対策として、腸内環境を整える「腸活」への関心が高まっています。(1) (2) (3)

本記事では、腸活を実践するのに必要な、腸に関する基礎知識と、腸に良い生活習慣を中心に取り上げ、ご説明したいと思います。
これから腸活を始める方や、腸活を始めてみたものの効果を実感されていない方は、ぜひご覧ください。


腸の働きを理解しよう

腸活は、やみくもに取り組んでも、効果は期待できません。
腸を“いい状態”に保つには、腸のことを知る必要があります。まずは、腸の働きを理解しましょう。

腸の働きは、次のとおりです。

 ①食べ物を消化し、栄養分を吸収する
 ②水分を吸収して便を作り、不要なものを排出する
 ③外敵の侵入から体を守る(免疫力を保つ)

腸は、大きくは、小腸と大腸に分けられ、①②③の働きの中でも担っている部分が異なります。

小腸は、消化された食べ物から栄養分を吸収し、私たちが生きていくうえで必要なエネルギー源をつくり出します。
大腸は、水分を吸収して便を適度な硬さにするとともに、リズミカルなぜん動運動※1によってスムーズな排出をサポートしてくれます。不要なものが出ていけば、腸内で有害な物質が生成されることもなくなります。

腸には、さまざまな外敵がやってきます。
こうした外から入ってくるさまざまな“異物”を体の中で最初に処理する場所が、腸です。(1)
食べ物と一緒に入ってきた細菌やウイルスなどの病原体は、腸壁を破って体内へ侵入しようと試みます。腸内に病原体が侵入すると、腸壁内部の免疫細胞が危険を察知して病原体を撃退します。このとき、小腸が免疫機能のメインを担い、大腸が免疫細胞の過剰な活動をなだめます。腸の免疫機能に関しては、いわば、小腸がアクセルの役割、大腸がブレーキの役割を果たしています。

※1 腸内の内容物(便)を押し出す際にみられる腸壁の運動


腸は健康や美容と深く関係

したがって、私たちの身体活動の源泉となる栄養分を吸収するのも、病原体といった外敵の侵入から体を守るのも、腸なのです。こうしたことから、「腸は健康・美容の基本」といわれます。

腸は、前述したように免疫系が発達していること、そして、この後ご説明するように細菌が存在することから、肌と似ています。肌(皮膚)は常に外界からの侵入者にさらされているため、免疫系がよく発達しています。また、肌にもさまざまな細菌が住んでいます。
体内に水分を取り入れる大腸の働きを正常に保つことは、体中の細胞を水分で満たすことにつながります。肌が潤いやハリを保てるのは皮膚の細胞が水分で満たされていることに由来します。
再春館製薬所では、肌に関する研究で長年培ってきた知見や経験などを余すことなく腸の働きの改善に活かす取り組みに励んでいます。


腸を“いい状態”に保つには?

では、腸、特に大腸を“いい状態”に保つには、どうすればよいのでしょうか。

結論から言いますと、腸内環境を整え、大腸の働きを本来あるべき姿に戻すことです。

腸内環境を整えるためには、腸内に住む腸内細菌の「善玉菌」と「悪玉菌」のバランスが大事です。腸内細菌のほとんどは、大腸の中に住んでいます。
腸が正常に働いている場合は、腸内は善玉菌が多い環境となります。
一方、腸が正常に働いていない場合は、腸内は悪玉菌が多い環境となります。

したがって、腸内の善玉菌を増やすことが、腸を“いい状態”に保つのに重要となります。


日常の生活習慣が腸の状態に反映

日々の生活習慣の積み重ねは、腸の状態に反映されます。不規則な生活習慣などが原因で、悪玉菌が増えやすい環境になり、腸内細菌のバランスが崩れるのです。

■ 食生活の乱れが腸の状態を悪くする

栄養のバランスが取れた食事をしていない、早食いする、夜遅くに食事をするなど、食生活が乱れると、食べた物が十分に消化されていない状態で腸を通ります。すると、腸の粘膜に傷がつき、炎症が起き、粘膜の細胞に水分が誘導されて腸は膨らんだ状態になります。これを「むくみ腸」と呼ぶことがあります。むくみ腸になると、腸内環境が悪くなり悪玉菌が増え、腸内細菌のバランスが崩れます。むくみ腸は便から水分を吸収しにくいため、便の水分が多くなり、軟便や泥状の便が出たり、下痢になったりします。

また、年齢とともに身体の水分は減っていきます。身体の水分が減ると、腸粘膜の水分もなくなってきて、“かわきやすい腸”になります。これを「かわき腸」と呼ぶことがあります。腸が乾いた状態になると、善玉菌が増えにくく、悪玉菌が増えやすい環境になります。かわき腸は便から水分を多く吸収するため、便の水分が奪われ、硬い便やウサギの糞(ふん)のようにコロコロとした便が出たり、便秘になりやすくなったりします。

■ 良い生活習慣が腸の状態を良くする 再春館製薬所の調査でも明らかに

図.1 再春館疫学調査概要と結果
アンケートから腸状態に関連する項目と体質や生活習慣に関する項目の関係性を調査。対象者は男性14名・女性61名(平均年齢37.7歳)。モニター者ごとに好ましくない腸の状態に関する5項目のチェック数を算出(好ましくない腸の状態5項目には便の状態から連想される肌の状態を含む)。体質や生活習慣に関する25項目それぞれで当てはまる群/当てはまらない群のチェック数の平均値を算出しグラフに示した。
25項目のうち、「ほぼ毎日笑う」「運動習慣がある」「口腔状態が悪い」の3項目については有意差が、「3kg以上の体重増加があった」の1項目については当てはまる群のほうが平均値が高い有意傾向が確認された。(†P<0.1、*P<0.05、**P<0.01)

普段の生活習慣が腸の状態に影響を及ぼすことは、再春館製薬所による調査でも明らかになっています(図. 1)
再春館製薬所は、腸の状態と生活習慣との関連性を探るため、疫学調査※2を実施しました。
その結果、次のことが分かりました。

・毎日笑うことが腸に良い
・1年以上続けている運動習慣が、腸に良い
・虫歯の存在、歯周病の発症、歯茎からの出血などの口腔(こうくう)内環境の悪化は、腸に良くない
・1年間に3kg以上の体重増加は、腸に良くない

上に示した結果からも、「腸は日々の生活習慣を映し出す鏡」といえそうです。
このほかにも、食べ過ぎや飲み過ぎ、睡眠不足、ストレスなどが、腸に負担をかけ、悪影響を及ぼします。
腸活をはじめとする、腸の状態を良くする活動は、日常生活の中でも実践していくことが大事です。
これは、再春館製薬所が創業以来大切にしてきた、漢方独自の「生活の中で生命力、自然治癒力を高める」という養生の考え方につながります。

※2 集団を対象として、健康障害などの原因と考えられる要因と健康障害などの発生との関連性について、統計学的に調査すること


生活習慣を見直し、腸活を実践しよう

腸活を効果的に実践したい方は、この機会に、心と身体をリラックスできる環境をつくる、適度な運動習慣を心掛けるなど、普段の生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
腸活には、規則正しい生活習慣へのシフトが近道です。

生活習慣だけではありません。腸活で特に重要となるのが、毎日の食事です。空腹を満たす食べ物ばかりでなく、腸に必要な食べ物を意識して取り続ける。それが、腸の働きを本来あるべき姿によみがえらせるのです。
次回は、善玉菌が多い腸内環境をつくり出す食生活について、ご紹介していきます。ぜひご期待ください。


【参照】
(1) 江田証. 新しい腸の教科書 健康なカラダは、すべて腸から始まる. 池田書店, 2019, 160p.
(2) 堀田恵美ほか. ダイエットに免疫、生活習慣病、認知症の対策に役立つ 腸活の新常識. 日経ヘルス. 2021, vol. 24, no. 2, p. 32-41.
(3) 工藤あき監修. 身も心も元気になってやる気があふれ出す すごい腸活. 健康. 2021, vol. 46, no. 4, p. 12-57.


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