江戸時代の人は
長く寝すぎていた?
——貝原益軒が「我慢せよ」と言った四つの欲の中には「睡眠」もありましたよね。ちょっと意外です。睡眠を充分とった方が健康になれるのかと......。
『養生訓』には、「ねぶり(眠り)を少なくするべき」と書いてあります。きっと、江戸時代の日本人は、今よりも長く寝ていたのでしょうね。電気もない時代ですから、日が暮れたらすることもないですし。でも、遅くまで起きていなさいという意味ではないようで、「昼寝を長くしないこと」「朝は早く起きること」と書いています。
——いっぽう今の日本人は、世界的に見ても睡眠時間が短いといわれています。
そうですね。ついついテレビやスマホを見たり、ゲームをしたりなど、夜更かしする人も多いのではないでしょうか。とくに夏は日が暮れるのが遅いせいもあり、睡眠時間が短くなる傾向にあります。
——確かに......冬に比べると寝つきが悪くなっている気がします。それに冷房の調節が難しくて、夜中に何度も起きるので、朝起きても頭がボーッとしていて。
ひと昔前は、夏は窓を開けておけば風が入ってきたものですが、今の住宅は機密性が高くなっていますからね。家族によっても快適な気温は異なるので、エアコンの調節は難しいと思います。布団で調節するなど、冷えすぎないように気をつけたいものです。
お風呂を味方につけて
眠るための準備をする
——寝つきがよくなったり、深く眠れるようになるいい方法ってありますか?
よい眠りのカギを握っているのが、「体温のリズム」です。
——ああ! 赤ちゃんが眠たくなると、手足がぽかぽか温かくなる、あれですか?
そう。でも、ぽかぽか温かくなるのは、表面の体温ですよね。問題は深部体温(体の内部の温度)なのです。人が眠りに入る時は、手足から熱が逃げていき、深部体温は徐々に低くなります。実はこの「温度差」が、深い眠りを得るためのカギなんです。よく眠れない人、眠りが浅い人は、深部体温の温度差をつくるために、寝る前にいったん上げる工夫をしてみるといいですよ。
——深部体温が徐々に低くなる時に眠くなるってことですね。でも、深部体温って自分で調節できるものですか?
外から調整しようと思ってもなかなか難しいのですが、たとえば軽い運動をすることで、深部体温は上げられます。私がおすすめしたいのは、お風呂を利用することです。寝る前にぬるめのお風呂にゆっくり入ることで、深部体温が上がります。それにお風呂って、一日の中で唯一、裸でリラックスして過ごせる時間ですよね。水に触れるという〝非日常〞が味わえる時間でもあります。よい睡眠のために、ぜひお風呂を味方につけてください。
——熱いお風呂より、ぬるめのほうがいいんですか?
お湯が熱すぎると、交感神経が活発になってしまいます。眠りやすくするためには、副交感神経を優位にすることが大切。夜になったら、神経スイッチを徐々にオンからオフに切り替えていきましょう。
——副交感神経を優位にするためのコツはありますか?
ゲームやSNSのやりとりのように交感神経を刺激しやすいことは、なるべく早めの時間に切り上げたほうがいいですね。自分が好きなこと、リラックスできることを、寝る前の時間に持ってくるといいですよ。例えば僕は、お笑いの動画を見るのが大好きです。
夜は、電球色の照明がおすすめです。また、まぶしいような明るい光ではなく、おだやかな明るさの中で過ごすことで、リラックス効果を高めることができます。
——照明にも色の種類があるんですね。
色温度を表すケルビン(K)という単位があるのですが、この数値によって照明の色が分類されます。
色温度が5000〜6500Kと高い昼光色は青白い光が特徴です。集中力を高めるため、日中の活動に適しています。いっぽう電球色は2700〜3000Kと低め。温かみのあるオレンジ色の光で、リラックス効果や睡眠ホルモンの分泌を促進する効果があります。
——明るさはどのように調節したらいいでしょうか?
夕食時には明るめの電球色で食卓を温かく照らし、リラックスしたい時には暗めの電球色で落ち着いた雰囲気をつくり、就寝前はさらに光を落とすか間接照明のみ使用する......というふうに、段々と明るさを絞っていくのがいいと思います。照明をうまく使って、体を睡眠モードにしていきましょう。
——へぇー、睡眠の質って、寝る時というより、もう少し前にとる行動で決まるんですね。徐々にスピードをゆるめて、降りていくイメージですね。
その通りです。これからは、自分の体の中の温度や、自律神経のオンとオフを意識しながら、眠るリズムをつくってみてください。
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