私らしく。

自然の力を、もっと身近に#010

合同会社三関加敬農園
厳しい環境でこそたくましく。「三関せり」の根の秘密

nature 自然のかけら| # #

自然のかけら

せりの「根っこ」が食べられることはご存知でしょうか。寒ければ寒いほど深いところまで根を伸ばすという、なんともたくましい地域固有のせりが、秋田県湯沢市三関地区で栽培されている「三関せり」。秋田名物のきりたんぽ鍋にも欠かせないという「三関せり」の生産者のご家族を訪ね、厳しい環境がもたらす〝自然の恵み〟について教わりました。

合同会社三関加敬農園

みつせきかけいのうえん 秋田県湯沢市・三関地区にある農園。三関せりとさくらんぼを中心に栽培するほか、採れたての野菜や果物、自社で加工したジャムを販売するショップ『KAKEI坊や』も手掛ける。商品はオンラインでも購入可能。販売時期などの情報は三関加敬農園のホームページから確認を。

白くて長い根っこ
知る人ぞ知る秋田の旬菜

「せりは、根っこがごちそうなんですよ」

教えてくれたのは、秋田できりたんぽ鍋を出してくれた店の女将(おかみ)さんでした。せりの根っこなんて、これまで食べたことがあったかしら? 思いを巡らせながら、鍋の中の、見たこともないほど長い根っこをつまんで口に入れたとたん、目が覚めるようなさわやかな香気としゃきしゃきとした食感に驚かされたのです。

せりの根っこが食べられるなんて。しかもこんなにおいしいなんて。どうしてそれまで知らなかったんでしょう。なんでもきりたんぽ鍋の本場、秋田では当たり前のように根っこまで食べるのだそう。それ以来、「せりは根っこがごちそう」と念じるようになったのは言うまでもありません。

ネギを持っている
奥羽山脈が裾野を引く湯沢市で育てられている「三関せり」。雪解け水と山の伏流水で育まれ、洗われたせりが、泥の中から白く美しい根っこを見せる。

でも近所のスーパーで売っているせりは、たいてい根が短くきれいに切りそろえられています。秋田で食べたあの、白くて長い根っこにはなかなか出合えません。

聞けば不思議なことに、せりは寒ければ寒いほど根っこを伸ばすというのです。そのたくましさに触れてみたい。そう思うといても立ってもいられなくなりました。降り立ったのは、雪景色に覆われた秋田県湯沢市三関。この地区で採れる「三関せり」は、江戸時代から栽培されている在来種野菜の一つです。葉や茎が太く、なにより白く長い根っこが特徴で、秋田の鍋物には欠かせない存在だと言います。

雪の中のビニールハウス

厳しい寒さも大雪も
すべておいしさの糧になる

雪の中に立つビニールハウスでは、収穫の真っ最中。田んぼのように水を張られたせり畑で、農業用のフォークで刺して根を張った泥を20センチ近くも掘り起こします。水の中で泥をざっと洗い落とすと、あの白くて長い根っこが見えてきました。

「1月、2月になると根っこが伸びて抜くのが大変。収穫作業がぐっと腰にくるようになるんですよ」

ビニールハウスで稲を植えている姿
植えられている稲

そう言いながら大きく笑うのは、合同会社三関加敬農園の代表・加藤敬悦さんと長女の智子さん。冬の寒さの中、足は泥に浸(つ)かりながら中腰での収穫作業という過酷さにもへこたれない、明るい笑顔がハウスにあふれます。とはいえ厳冬期の収穫作業は日に2時間が限度。その後は作業小屋に移動して、出荷作業に移ります。

「井戸水で洗って、黄色い葉やゴミを取る。マルって(束ねて)、もう一回洗う。これを夕方までくりかえします」と敬悦さん。この作業には妻・光子さんも加わり、スタッフ総出であたります。洗えば洗うだけ、白く輝くせりの根っこの美しさたるや。

せりの出荷作業をおこなう作業小屋
せりの出荷作業をおこなう作業小屋。園主・加藤敬悦さん、妻の光子さんを中心に、長女の智子さんや従業員の丹(たん)さん、賢持(けんもち)さんら若いスタッフも多い現場は、和気あいあいとした雰囲気。

「地下50メートルからくみ上げた井戸水は、奥羽山脈の伏流水でミネラルが豊富。この豊富で良質な水があってこそ、おいしい三関せりができるんです」と誇らしげに話す敬悦さんですが、今冬のまれに見る少雪にはふと顔を曇らせます。(2024年1月の取材当時)

「湯沢はいつもなら冬になると1メートル以上も雪が積もる豪雪地帯。この夏と冬の寒暖差はせりの『大好物』なのよ。やはり寒い時は寒くなければダメ。それに雪解け水もいずれせりを育ててくれる水になるでしょ」

寒さも、雪の大変さも〝自然の恵み〟と言ってはばからない敬悦さんの強いまなざしに、はっとさせられた瞬間でした。

秋田県南部の郷土料理
せり蒸しを作ってもらいました

せり蒸し

採れたての「三関せり」を使って、『羽場こうじ茶屋 くらを』の鈴木百合子さんに、秋田県南部の郷土料理である「せり蒸し」を作っていただきました。

油揚げ、しらたきを醤油ベースで炒り煮したものに、さっとゆでてから冷ましておいた「三関せり」を和えたもの。しゃきしゃきとした歯触りと香りが身上(しんじょう)です。

せりの葉も根っこも使うこの一品は、「三関せり」のおいしさを丸ごと味わうことができます。

『羽場こうじ茶屋 くらを』の鈴木百合子さん。
『羽場こうじ茶屋 くらを』の鈴木百合子さん。

羽場こうじ茶屋 くらを

  • 大正時代に創業した麹屋『羽場こうじ店』が営むまちの食堂。歴史ある旧酒蔵を活用し、旬の食材と麹をふんだんにつかった料理を提供している。せり蒸しは季節限定。営業日と時間は、事前にInstagramで確認されることをおすすめします。

    秋田県横手市増田町増田字中町64
    TEL:0182-45-3710
    営業時間:10:00〜16:00(定休日:火、水、木曜日)※冬季休業あり
    https://www.instagram.com/kurawo3710/

    羽場こうじ茶屋 くらをの建物

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