坂本 彩香 監修
ブロバスケットボールチーム 熊本ヴォルターズ トレーナー
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校アスレティックトレーニング専攻 学士を卒業。
「BOC-ATC (米国アスレティックトレーナー資格認定委員会公認アスレティックトレーナー)」という、
アメリカでは准医療従事者として認定され国家資格の立ち位置にあり、日本国内での保有者はわずかしかいない資格を取得。
現在は熊本ヴォルターズのトレーナーとして、選手のサポートに従事。
「高齢者が効率良く筋肉をつけるために、サプリはどうだろうか?」とお考えの方へ。サプリは小粒で手軽に摂取しやすく、筋肉に必要なタンパク質などが不足しやすい高齢者の方をサポートしてくれる食品です。本記事では、高齢者の方が筋肉をつけるためのおすすめサプリ成分や注意点を解説します。
年齢を重ねてなかなか運動する機会も減ると「少し外出するだけで疲れる」「やっぱり歳だからかな」と感じる方も増えてくるのではないでしょうか。
よく「歳だから仕方ない」という言葉を耳にしますが、実は年齢を重ねたからというだけではなく、高齢になると若いころと比べて筋肉がつきにくくなるからだとされているのです。
ここでは、高齢者は筋肉がつきにくいという話は本当なのか、一体どのような理由があるのかについて解説します。
私たちの体についている筋肉は、加齢に伴って徐々に量が減少していきます。
筋肉量は20代〜30代のころをピークとして、10年ごとに約8%〜10%ずつ減少していると言われています。
個人差があるものの、60代になると若いころの約30%にもおよぶ筋肉量が減少する可能性があります。
筋肉量が減少する理由は、加齢によって筋肉を構成する筋繊維が減少したり、筋繊維が萎縮したりといった原因が考えられます。
加えて、年齢を重ねて外出する機会が減ったり、運動する機会が減ったり、またサルコペニアなどの筋肉量が減少する病気も原因として挙げられるでしょう。
ロイシンとは、必須アミノ酸と呼ばれるアミノ酸の仲間です。
ロイシンは、子どもの成長や、大人の筋肉維持に必要なアミノ酸とされています。
しかし、高齢者はロイシンに対する抵抗性を持っているとされており、若いころに比べると筋肉がつきにくいのではと考えられているのです。
高齢者では、食後(たんぱく質摂取後)に誘導される骨格筋におけるたんぱく質合成が成人に比較し反応性が低下しており、anabolic
resistance(同化抵抗性)が存在すると報告されている
出典:厚生労働省
また、ロイシンを含む必須アミノ酸は、必ず食べ物から補給しなければならない成分で、私たちの体内では合成できません。
ロイシンに対する抵抗性以外にも、年齢を重ねて食欲が低下したり、食事から摂取できる栄養が偏ったりすることも、筋肉がつきにくくなる原因と言えるでしょう。
そのため、高齢者が筋肉をつけるには若いころよりも多くタンパク質や、必須アミノ酸であるロイシンなどの栄養成分を摂取する必要があります。
高齢者は、若いころと比べて筋肉がつきにくいと解説しました。
では、どうやって効率良く筋肉をつけようかと考えたとき「食事量を増やすのは難しいし、サプリのような補助食品が必要ではないか」と考える方もいるのではないでしょうか。
高齢者の方がサプリを摂取することは、不足したタンパク質の補給や、毎日のちょっとした運動による筋力アップをサポートしてくれるため、非常に良い選択肢となります。
食欲低下によって、どうしても栄養バランスを意識した食事が摂取できない場合や、食べることは大好きだけれど栄養が偏っているという場合、サプリの摂取は役立ちます。
また摂取方法も簡単であるため、手間をかけず、効率良く必要な栄養成分が補給できます。
しかし、高齢者の方にとって必ずサプリが必要であるというわけではありません。
あくまで、不足した栄養素をピンポイントで摂取したい方や、日々の生活習慣と合わせて筋肉をつけるサポート的な役割が欲しい方におすすめです。
高齢者の方が筋肉をつけるためには、栄養バランスが良い食事と運動を毎日続けることが大切です。
しかし、年齢を重ねてなかなか栄養バランスが意識できない場合や、若いころと比べて運動する機会やペースが減ったという場合はサプリの活用を検討してみましょう。
ここでは、高齢者の方が筋肉をつけるためにおすすめのサプリ・成分を解説します。
それぞれ解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
タンパク質は、筋肉を作る材料の1つであり、積極的に摂取したい成分です。
日本人の食事摂取量基準によると、一日に必要なタンパク質の推奨量は18歳〜64歳の男性で65g、65歳以上の男性で60g、女性の場合は18歳以上で50gとされています。
数字で見るとイメージがわかない方も多いと思いますので、下に「肉」「豆」「卵・乳製品」「野菜・芋・キノコ」などの食材ごとにタンパク質量をまとめた表を記載します。
①肉
食品 |
タンパク質量 |
---|---|
豚ひれ・焼き 100g |
39.3g |
鶏むね(皮なし)・焼き 100g |
38.8g |
豚もも・焼き 100g |
30.2g |
牛もも・ゆで 100g |
30.0g |
牛かた・ゆで 100g |
27.9g |
鶏ひき肉・焼き 100g |
27.5g |
鶏もも(皮つき)・焼き 100g |
26.3g |
牛ひき肉・焼き 100g |
25.9g |
豚ひき肉・焼き 100g |
25.7g |
鶏もも(皮なし)・からあげ 100g |
25.4g |
焼き鳥缶詰 100g |
18.4g |
鶏ささみ・ソテー 40g |
14.4g |
鶏レバー・生 60g |
11.3g |
ビーフジャーキー 20g |
11.0g |
②魚
食品 |
タンパク質量 |
---|---|
ごまさば・焼き 100g |
31.1g |
まあじ皮つき・焼き 100g |
25.9g |
さけ・焼き 100g |
29.1g |
くろまぐろ・焼き 100g |
29.0g |
くろまぐろ・水煮 100g |
27.2g |
ぶり・焼き 100g |
26.2g |
びんなが・刺身 100g |
26.0g |
かつお・刺身 100g |
25.8g |
さけ・水煮 100g |
25.5g |
くろまぐろ・刺身 100g |
24.8g |
まがれい・焼き 100g |
23.4g |
うるめいわし丸干し 50g |
22.5g |
さば水煮缶詰 100g |
20.9g |
さば味噌煮缶詰 100g |
16.3g |
するめ 20g |
13.8g |
あさり水煮缶 40g |
8.1g |
③豆
食品 |
タンパク質量 |
---|---|
がんもどき 100g |
15.3g |
生揚げ 80g |
8.6g |
凍り豆腐・乾 17g |
8.6g |
納豆 50g |
8.3g |
焼き豆腐 1/3丁(100g) |
7.8g |
きなこ 20g |
7.3g |
豆乳 200g |
7.2g |
木綿豆腐 1/3丁(100g) |
7.0g |
絹ごし豆腐 1/3丁(100g) |
5.3g |
油揚げ・油抜き焼き 20g |
5.0g |
塩豆(えんどう) 20g |
4.7g |
湯葉(湯戻し)30g |
4.7g |
大豆・ゆで 30g |
4.4g |
④卵・乳製品
食品 |
タンパク質量 |
---|---|
低脂肪牛乳 200g |
7.6g |
目玉焼き 50g |
7.4g |
普通牛乳 200g |
6.6g |
ゆで卵 50g |
6.3g |
カマンベールチーズ 30g |
5.7g |
プロセスチーズ 20g |
4.5g |
パルメザンチーズ 10g |
4.4g |
ヨーグルト(脱脂加糖) 100g |
4.3g |
卵黄 16g |
2.6g |
⑤野菜・芋・キノコ
食品 | タンパク質量 |
---|---|
らっかせい・ゆで 50g |
6.0g |
えだまめ・ゆで 50g |
5.8g |
そらまめ・ゆで 50g |
5.3g |
ブロッコリー・焼き 50g |
5.0g |
グリンピース・ゆで 50g |
4.2g |
じゃがいも・電子レンジ調理 150g |
2.8g |
アボカド 1/2個(100g) |
2.1g |
ココナッツミルク 100g |
1.9g |
さといも・水煮 100g |
1.5g |
エリンギ・焼き 30g |
1.3g |
ぶなしめじ・素揚げ 30g |
1.2g |
生しいたけ原木栽培・油いため 30g |
1.1g |
5つの中で、もっともタンパク質量が高いのは肉、つづいて魚です。
一日で50g~65gのタンパク質を摂取するためには、これらの食品をバランス良く毎日の食事に取り入れることが大切です。
必須アミノ酸(BCAA)とは、9つの必須アミノ酸のうち「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」のことを言います。
必須アミノ酸(BCAA)は筋合成の促進や、分解の抑制、筋肉の修復による疲労回復などが期待できます。
筋肉と言えばタンパク質という印象を持つ方もいますが、タンパク質は主にアミノ酸で構成されているため、必須アミノ酸を積極的に摂取することも重要なのです。
HMBとは、必須アミノ酸の1つ、ロイシンから体内で生成される成分です。
HMBには筋肉の合成を促進すると同時に、分解を抑える効果があるため、筋トレと合わせると効果的です。
ロイシンは通常の食事でも補えると考えられていますが、摂取したロイシンのうち、HMBに変換されるのはわずか5%程度と少ないため、積極的に摂取したい成分となります。
また、HMBには必須アミノ酸(BCAA)のような筋合成に必要な原料は備わっていないため、HMBと必須アミノ酸(BCAA)を上手に組み合わせて摂取できるよう意識します。
いずれも筋肉をつけるために必要な成分であり、それぞれが協力することによって、さらに効率良く体内へ必要な栄養成分を届けられるのです。
クレアチンは、運動時のエネルギー生成をサポートしてくれる成分です。
筋トレと合わせてクレアチンを摂取すると、筋トレのパフォーマンスを向上させてくれます。
筋肉をつけるためにウォーキングや軽い運動、筋トレを行う際は、クレアチンを摂取することによって年代を問わず筋肉量の増加に役立ってくれるでしょう。
ビタミンCは、筋肉の材料となるコラーゲンを作るために必要な成分です。
筋肉だけでなく、抗酸化作用による若々しい体を作るためにも役立ちます。
次にビタミンDは、筋肉のタンパク質合成を促すために必要な成分です。
いずれのビタミンも、筋肉、そして私たちの健康を維持するために役立つとされています。
ミネラル(亜鉛、鉄分)は、傷ついた筋組織の修復や新陳代謝を促進する成分です。
高齢者の方は、食欲の低下などを原因として亜鉛や鉄分が不足しやすいと言われています。
亜鉛は、アミノ酸からのタンパク質の再合成やDNAの合成など、年齢を問わず私たちの身体機能や生命維持に重要な役割を果たしています。
一方、鉄は全身酸素を運搬する役割を担っており、貧血予防や、鉄欠乏による筋力低下、疲労感を防ぐ役割を果たしているのです。
いずれの成分も筋肉の維持や向上、そして健康を維持するために大切な成分です。
近年、サプリは比較的安価で購入できるため「そんなにサプリが良いのであれば、ぜひ取り入れてみようかな」と考える方もいるでしょう。
これまでに解説したとおり、高齢者の方がサプリを摂取することはメリットも大きいです。
しかし、サプリを摂取する際は次の点に注意が必要です。
それぞれ解説していきます。
サプリにはそれぞれ1日の摂取量があります。
数回飲みすぎたからといって重篤な健康被害が起こる可能性は低いですが、下痢や発疹などの症状が出たり、肝臓へ負担をかけやすくなったりするため、注意が必要です。
よくある質問に「摂取量より多く飲めば効果も高いのではないか」というものがあります。
結論として、サプリに記載されている一日の摂取量より多く摂取しても効果が増すわけではありませんし、逆に体に負担をかけてしまうことになります。
サプリは継続して摂取することが大切ですので、決められた摂取量を守って飲みましょう。
高齢になると、病院からさまざまな薬を処方されて飲んでいる場合もあります。
サプリと薬の成分の組み合わせによっては、薬の効果を弱める場合や、反対に効きすぎてしまう恐れもあるため注意が必要です。
もし何か薬を服用している場合は、かかりつけの医師や薬剤師にサプリの摂取に関して相談することをおすすめします。
サプリは薬ではないため、そこまで副作用を気にしないという方もいるでしょう。
しかし、一度に摂取量の上限を超える錠数を摂取するなど、適切ではない摂取方法によって何らかの副作用が起こる可能性もあります。
また正しい摂取方法であっても、体質に合わないなど何らかの原因によって異常を感じる場合もあります。
その場合はすぐに摂取を中止して医師に相談してください。
サプリは小さな粒でさまざまな栄養素が摂取できるため、たいへん便利です。
しかし、サプリだけで必要な栄養をすべて摂取しようとしてはいけません。
毎日の食事バランスも見直して、「サプリはサポートとして活用する」という意識で取り入れましょう。
サプリは、栄養バランスを整えるためのサポート的な役割を果たしてくれる存在です。
そのため、サプリを摂取していれば筋肉がつくというわけではありません。
サプリが持つサポート的な役割を存分に発揮させるためには、日々の運動や食事バランスを見直し、健康的な毎日を維持できるよう工夫も必要です。
高齢者が効率良く筋肉をつける方法として、プロテインを検討する方もいます。
結論として、プロテインはタンパク質補給のサポートとなるため、タンパク質が不足して悩んでいる場合であれば、毎日の食事やおやつに取り入れても良いでしょう。
ただし、筋肉をつけるために摂取されることも多いホエイプロテインはお腹をゆるくしてしまう恐れもあるため、摂取量には注意が必要です。
高齢者がプロテインを摂取する場合、最適なタイミングは2つです。
筋肉をつけるためにプロテインを摂取する場合、筋トレなどの運動を行った直後の45分間がおすすめだとされています。
また、プロテインの種類であるソイプロテインやカゼインプロテインは、体へゆっくりと栄養成分が吸収されるため、就寝前に摂取する方も多いです。
特に、睡眠中は成長ホルモンと呼ばれる筋肉の修復や成長にも役立つホルモンが分泌されているため、最適なタイミングに合わせてプロテインを摂取することも良いでしょう。
高齢者に適したプロテインの摂取量は、毎日の食事でどの程度タンパク質が摂取できているかによって異なります。
例えば、60代の女性の場合、一日のタンパク質推奨量は50gです。
仮に毎日の食事で30gのタンパク質を摂取しているのであれば、プロテインで残りの20gを摂取すれば良いということになります。
最近、スーパーやコンビニで購入できる食品にはタンパク質の量が記載されているため、食事で摂取するタンパク質量をある程度把握することもできるでしょう。
また、当記事でも5つの食品カテゴリに対するタンパク質量を解説しましたので、「私は毎日どの位のタンパク質を摂取できているのかな?」と確認してみてください。
高齢者がプロテインを取り入れる場合、次の選び方を参考にしてみましょう。
プロテインには「飲料タイプ」「パウダータイプ」「ゼリーやバーのタイプ」とさまざまなタイプがあるため、毎日の生活に取り入れやすいスタイルを選んでください。
またプロテイン商品によっては、タンパク質以外にもビタミンなどの栄養成分が含まれているものもあるため、積極的に取り入れたい成分を指標にすると良いでしょう。
当記事では、筋肉をつけたい高齢者の方に向けて「おすすめのサプリ成分や、注意点」や、プロテインの必要性について解説しました。
サプリとプロテインを比較した場合、小粒で摂取しやすいサプリの方が取り入れやすいと言えるでしょう。
ただし、サプリは適切な摂取方法を守らないと体調を崩す恐れもあるため注意が必要です。
毎日の生活習慣にサプリを取り入れて、効率良く筋肉をつけていきましょう。
坂本 彩香 監修
ブロバスケットボールチーム 熊本ヴォルターズ トレーナー
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校アスレティックトレーニング専攻 学士を卒業。
「BOC-ATC (米国アスレティックトレーナー資格認定委員会公認アスレティックトレーナー)」という、
アメリカでは准医療従事者として認定され国家資格の立ち位置にあり、日本国内での保有者はわずかしかいない資格を取得。
現在は熊本ヴォルターズのトレーナーとして、選手のサポートに従事。