人生の長さと短さ
素晴らしさを教えてくれる
良い映画か否かは、繰り返し見てしまうかどうか、またヒロインが好きかどうか。そういう意味でヒロインたちがあまりに好きだから、まるでBGMのようにただただDVDを流しっぱなしにしている作品がある。
『また、あなたとブッククラブで』。いわゆる読書会を定期的に開く4人の女性はいずれも70代! まずその設定が感動的だ。人生のセカンドステージを生きる70代の女性の恋愛を何の不自然さも気負いもなく赤裸々に描く、こういう映画が生まれたこと自体に何だか激しく心を揺さぶられた。ついにこういう時代が来たのだと。自分たちにもこういう未来が訪れたのだと。
美しく歳を重ねる象徴、
ダイアン・キートン
ダイアン・キートン、キャンディス・バーゲン、ジェーン・フォンダなど、かつて一世を風靡した女優たちは70代半ばにして驚くべき美しさと魅力を誇っていて、そのつややかな競演を眺めているだけで不思議に力が湧いてくる。
特に、ダイアン・キートンの恋物語は見もの。まず、きっと私服に違いない、彼女らしいフレンチカジュアルのファッションが小気味良いくらい小粋で、ああこんなふうに歳をとればいいのだと、歳をとることへの不安が一瞬で消えていくような正解をくれる。
31歳の時『アニー・ホール』で大ブレイク、でも60代を過ぎてからも彼女を主役とする映画が何本もつくられた。ハリウッドの歴史から考えれば一つの奇跡。老いを描くのではない、年齢など何の意味もないように平然と、幸せの見つけ方を描いているのだ。でもそれも、こんな驚くべき70代が現れたからこその奇跡。
いつもお洒落、いつも溌剌、いつも口角が上がっている。そしていつもキラキラ華やかなのに、清潔感を感じるほど清々しい。その恋の相手はこれまた上手に歳をとったアンディ・ガルシアだったりするのだが、それこそこんな男性がそばにいたら本当に恋をしそう。人生100年時代の健康寿命の鍵はやはりトキメキなのだと確信させてくれるのである。
惑いの時期に必要な
自分と向き合う長い旅
一方に、いわんとすることの理解に時間がかかるから、何度も見ている作品がある。離婚をし、若い恋人ができたのに、それでも自分探しの旅に出ていく女性の物語『食べて、祈って、恋をして』である。
イタリアでは文字通り、みんなで食べながら笑い合い「何もしないことの素晴らしさ」を学び、インドでは、ヨガの施設で集中力を身に付けつつ、人生を俯瞰する術を学ぶ。そしてバリに行くのは、以前旅した時、ある占い師に必ずここに戻ってくるといわれたから。その占い師の言葉に導かれながら真の愛に出会うのだ。
ジュリア・ロバーツ扮するヒロインは、美しく才能にあふれ、何もかも持っている女性なのに、それでも人生に惑い、足りないもの、正しいものを探しに行き、それぞれの土地に住み、新しい人間関係に身を投じる。なるほど長い人生にはこういう惑いの時が必ず訪れ、だから自分だけと向き合う精神的な旅が誰にも必要なのだと気づかされる。でも多くの人は、日々に追われ、そういう旅の意味すら知らずにいるのだろう。
人生100年時代だからこそ
長い旅の必要性
「目的地とは決して場所ではなく、物事を新たな視点で見る方法だ」そんな名言がある。「長生きした者より、旅した者の方が多くを知る」という諺も......。そういう旅をこそすべきなのに、いつかいつかと思ううちに人生は進んでしまう。だからこのヒロインのように、好奇心と、素直な心と、少しの勇気を持って、長い旅に出たいと心から思うのである。
奇しくも人間の寿命が延びて、「いまからではもう遅い」という諦めも言い訳もできなくなった。よく考えたら未だ自分は世の中の多くを知らない、こんなモヤモヤした心のままでは死ねないと、いまつくづく思うから。
『また、あなたとブッククラブで』
『食べて、祈って、恋をして』
写真:Everett Collection/アフロ
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