本質が見えないものは置かない
祖父や父から学んだ姿勢
鍋や調理道具が所狭しと積み上げられた店が、通りの両側にずらりと並ぶ合羽橋。その中で異彩を放っているのが『釜浅商店』です。堂々とした外観に黒い暖簾、店内はインテリアショップのように商品が見やすく並べられ、一つひとつの道具に、特長や使い方がていねいに書かれたカードが添えられています。
「良い道具には良い理(ことわり)がある」=「良理道具」を多くの人に伝え続ける釜浅商店の主は、四代目で1974年生まれの熊澤大介さん。1908年の創業以来、家族経営で、熊澤さんが跡を継いだのは2004年のこと。目まぐるしく変わる時代の中で、100年以上店が続いてきた理由について想うことを伺いました。
「祖父や父に『本質が見えず、自信をもてないものは置かない』『流行に流されない』という姿勢があったことが理由の一つだと思います。子どもの頃からなんとなく感じていましたが、2011年のリブランディングで言語化したことで、この先もずっと見失ってはいけないこととして私も改めて認識するようになったんです」
祖父も父も、ものづくりが好きで、ちょっと偏屈でこだわりの強い料理人の要望に応える道具を楽しそうにつくっていたそう。問屋でありながらオリジナル商品が多い現在の釜浅スタイルはこの頃から始まっていました。
本質は変えず、時代の空気に合わせて
提案を変えていく
本質は変えず、時代の空気に
合わせて提案を変えていく
やがて料理道具もホームセンターやネットショップで大量生産品を簡単に入手できる時代へ。合羽橋もかつての賑わいを失いつつありました。
「また昔みたいに、人がたくさん集まる街にしたいという想いがありました。私たちが扱っているのは手に持つ道具です。触れて、持って、納得して使ってほしいから、実際に足を運んでもらえる店にしなければと」
そのために考えたのが、ていねいに見せる、説明することを徹底し、プロの料理人だけでなく一般の人にも広く利用してもらえる店にすること。そしてお客様の「こんなのがあったらいいのに」の声を形にし、各地のメーカー、職人と商品づくりをおこなっています。たとえば、いま特に職人が激減している南部鉄器でつくった「釜浅のごはん釜」や「南部浅鍋」。
「南部浅鍋は30年以上前に父が『すき焼き鍋』という名前でつくったものなんですが、徐々に売れなくなっていました。実際はすき焼きだけでなく、オーブンでも使えるし、パイも餃子も焼ける、本当に便利な鍋なんです。そこでリブランディング後から名前を変え、レシピブックをつくって添えるようにしたら、とても売れるようになりました」
時代の流れとともになくなってしまうかもしれない貴重な技術も、提案を変えることで多くの人に興味を持ってもらえると確信することに。
「私たちにできることは、その道具がどのようにつくられ、いかにすぐれたものかを伝えていくこと。職人がいて、お客様がいて、真ん中にいる私たちだけが唯一両方の気持ちを理解できる。それぞれの言葉を翻訳して伝えることが釜浅の存在意義だと思っています」
お客様が望むものを一緒に探し、考え、ないならつくり、メンテナンスまでずっとお付き合いする。そんな「お客様と一緒に楽しむのが『釜浅らしさ』」という熊澤さん。商品の本質は変えず、時代の空気に合わせて「提案」のしかたを変えていくことが、この先も100年続くためには必要なことと考えています。それはいまにも消えそうな日本の技術を、未来へつなぐ道でもあります。
釜浅商店
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東京都台東区松が谷2-24-1
Tel:03-3841-9355
営業時間:10:00~17:30 年中無休(年末年始を除く)
https://www.kama-asa.co.jp
https://kama-asa-shoten.com/
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