私らしく。

受けつぐこと・不朽のもの#01

釜浅商店
100年続く料理道具店の製品価値と、時代に即した提案力

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

永く続いている店や企業が大切にしている根幹を掘り下げる新シリーズ。第1回は、プロの料理人向けの店が並び、料理道具の問屋街として栄えてきた東京・合羽橋で創業114年の料理道具店、『釜浅商店』 です。お客様に寄りそい、100年続く製品を提供できるその本質となる理由を、代表・熊澤大介さんにお伺いしました。

釜浅商店

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かまあさ・しょうてん 1908年、東京・合羽橋に創業。鍋・釜・庖丁などを100年以上にわたり販売している。2004年、熊澤大介氏が四代目に就任し、2011年に大々的なリブランディング(ブランドの再構築)をおこなう。2018年パリに出店し、日本の料理道具の素晴らしさを海外にも広めている。

本質が見えないものは置かない
祖父や父から学んだ姿勢

鍋や調理道具が所狭しと積み上げられた店が、通りの両側にずらりと並ぶ合羽橋。その中で異彩を放っているのが『釜浅商店』です。堂々とした外観に黒い暖簾、店内はインテリアショップのように商品が見やすく並べられ、一つひとつの道具に、特長や使い方がていねいに書かれたカードが添えられています。

見やすく、探しやすいディスプレイの店内。「これから先を考えたとき、一般の人にも喜んでもらえる開かれた店に」と熊澤さん。
見やすく、探しやすいディスプレイの店内。「これから先を考えたとき、一般の人にも喜んでもらえる開かれた店に」と熊澤さん。
道具ごとに産地や製造者のプロフィール、使い方などをていねいに説明。
道具ごとに産地や製造者のプロフィール、使い方などをていねいに説明。

「良い道具には良い理(ことわり)がある」=「良理道具」を多くの人に伝え続ける釜浅商店の主は、四代目で1974年生まれの熊澤大介さん。1908年の創業以来、家族経営で、熊澤さんが跡を継いだのは2004年のこと。目まぐるしく変わる時代の中で、100年以上店が続いてきた理由について想うことを伺いました。

昭和20年代の店。この頃、屋号を『熊澤鋳物店』から
昭和20年代の店。この頃、屋号を『熊澤鋳物店』から"浅草の釜屋"の意味をもつ『釜浅商店』に。写真/釜浅商店

「祖父や父に『本質が見えず、自信をもてないものは置かない』『流行に流されない』という姿勢があったことが理由の一つだと思います。子どもの頃からなんとなく感じていましたが、2011年のリブランディングで言語化したことで、この先もずっと見失ってはいけないこととして私も改めて認識するようになったんです」

祖父も父も、ものづくりが好きで、ちょっと偏屈でこだわりの強い料理人の要望に応える道具を楽しそうにつくっていたそう。問屋でありながらオリジナル商品が多い現在の釜浅スタイルはこの頃から始まっていました。

本質は変えず、時代の空気に合わせて
提案を変えていく
本質は変えず、時代の空気に
合わせて提案を変えていく

やがて料理道具もホームセンターやネットショップで大量生産品を簡単に入手できる時代へ。合羽橋もかつての賑わいを失いつつありました。

「また昔みたいに、人がたくさん集まる街にしたいという想いがありました。私たちが扱っているのは手に持つ道具です。触れて、持って、納得して使ってほしいから、実際に足を運んでもらえる店にしなければと」

そのために考えたのが、ていねいに見せる、説明することを徹底し、プロの料理人だけでなく一般の人にも広く利用してもらえる店にすること。そしてお客様の「こんなのがあったらいいのに」の声を形にし、各地のメーカー、職人と商品づくりをおこなっています。たとえば、いま特に職人が激減している南部鉄器でつくった「釜浅のごはん釜」や「南部浅鍋」。

入荷一年待ちという、「釜浅のごはん釜」。羽釜の形を踏襲しつつ、家庭用コンロやIH用に合う平らな形で、かまどに近い熱効率に。本質を守りながら進化する釜浅商店を象徴する一品。
入荷一年待ちという、「釜浅のごはん釜」。羽釜の形を踏襲しつつ、家庭用コンロやIH用に合う平らな形で、かまどに近い熱効率に。本質を守りながら進化する釜浅商店を象徴する一品。

「南部浅鍋は30年以上前に父が『すき焼き鍋』という名前でつくったものなんですが、徐々に売れなくなっていました。実際はすき焼きだけでなく、オーブンでも使えるし、パイも餃子も焼ける、本当に便利な鍋なんです。そこでリブランディング後から名前を変え、レシピブックをつくって添えるようにしたら、とても売れるようになりました」

時代の流れとともになくなってしまうかもしれない貴重な技術も、提案を変えることで多くの人に興味を持ってもらえると確信することに。

「南部浅鍋」(20cm)。日本の伝統技術の中でも特につくり手が激減している岩手の南部鉄器。 幅広い料理に使えると提案の仕方を変えたことでヒット商品に。厚手で蓄熱保温性が高く、毎日使える万能さがいまの暮らしにマッチ。7,040円(税込)。
「南部浅鍋」(20cm)。日本の伝統技術の中でも特につくり手が激減している岩手の南部鉄器。 幅広い料理に使えると提案の仕方を変えたことでヒット商品に。厚手で蓄熱保温性が高く、毎日使える万能さがいまの暮らしにマッチ。7,040円(税込)。
「釜浅の鉄打出し フライパン」(26cm)。鉄板を数千回打ち出すことで、丈夫で蓄熱性の高いフライパンに。柄の位置まで使いやすさにこだわり抜いた釜浅商店のオリジナル。7,150円(税込)。
「釜浅の鉄打出し フライパン」(26cm)。鉄板を数千回打ち出すことで、丈夫で蓄熱性の高いフライパンに。柄の位置まで使いやすさにこだわり抜いた釜浅商店のオリジナル。7,150円(税込)。
オリジナルの「鉄打出しフライパン」の製造風景。フライパンの打出しができるのは国内で1軒、横浜の山田工業所のみ。写真/釜浅商店
オリジナルの「鉄打出しフライパン」の製造風景。フライパンの打出しができるのは国内で1軒、横浜の山田工業所のみ。写真/釜浅商店

「私たちにできることは、その道具がどのようにつくられ、いかにすぐれたものかを伝えていくこと。職人がいて、お客様がいて、真ん中にいる私たちだけが唯一両方の気持ちを理解できる。それぞれの言葉を翻訳して伝えることが釜浅の存在意義だと思っています」

お客様が望むものを一緒に探し、考え、ないならつくり、メンテナンスまでずっとお付き合いする。そんな「お客様と一緒に楽しむのが『釜浅らしさ』」という熊澤さん。商品の本質は変えず、時代の空気に合わせて「提案」のしかたを変えていくことが、この先も100年続くためには必要なことと考えています。それはいまにも消えそうな日本の技術を、未来へつなぐ道でもあります。

釜浅商店

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