私らしく。

この生き方に憧れる#07

坂本美雨さん
素直な自分に出会えた恋愛観。エッセイ『生きていく私』ほか

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

「好き」を貫き、心に正直に生きた2人の女性作家。その生きざまと、エネルギッシュな作品たちが与えてくれた感動について、ミュージシャンの坂本美雨さんにうかがいました。

坂本美雨さん

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さかもと・みう 1980年生まれ。作詞、翻訳、ナレーションなどで幅広く活躍。7歳の長女との日々の暮らしを綴った『ただ、一緒に生きている』(光文社)も好評。

女性として、どう生きるか
ヒントをくれた言葉たち

宇野千代さんのエッセイをはじめて手にとったのは20代前半の頃。当時「女性の生き方」をテーマにした啓発本がたくさん出ていて、本屋さんのコーナーで目にしたのがきっかけだったと思います。

とくに悩んでいたわけではないけれど、これからどう生きようか、背中を押してほしい年頃だったのでしょうか。宇野千代さんの本には、自分に正直に生きてきた先輩の、飾らない言葉がたくさん詰まっていました。

恋愛から見えてくる
「自分らしく」ある方法

それから宇野さんのエッセイは本当にたくさん読みました。とくに共感したのは恋愛のスタイル。

どんどん自分からぶつかっていき、当時の女性にしては珍しいほど自由でおおらかなんです。男性から告白されるのを待つとか、奥ゆかしく見えて実は遠まわしに策略を練るようなところがまったくない。

生きて行く私

『生きて行く私』

宇野千代著/角川文庫

数々の奔放な恋愛遍歴、創作と向き合い、ひたむきに自分に正直に生きた記録。

正直でまっすぐなところが素敵だし、好奇心も旺盛。だからこそ年齢を重ねても少女のままの、チャーミングなおばあちゃんだったのではないかなと思います。

「自分に正直」とは「自分らしさ」を貫くこと。自分が何を好きで、誰を愛していて、何をしたいのか、日々自分に問いかけるしか導き出せないものかもしれません。

迷ったときこそ
自分自身を知るチャンス

もしくは、いまの時代「何がしたくないのか」から考える方が近道かもしれませんね。毎日何時に仕事や学校に行く、という当たり前とされていることすら、一回疑ってみてもいいのではないでしょうか。

本当はやりたくないことを「やらなくてはいけない」とやり続けていると、体を悪くします。自分の心が望んでいること、望んでいないことを、そのつど立ち止まってていねいに考えていきたい。それが自分らしい生き方につながっていくのだと思います。

行動することが生きることである 生き方についての343の知恵

『行動することが生きることである 生き方についての343の知恵』

宇野千代著/集英社文庫

「人生は行動であり、行動が思考を引き出す」という著者が贈る、幸福になるための知恵。

私は昔から、こうしなさい、といわれるとまず、「何でだろう」と思うタイプ。自分にはない概念でも、聞いて納得できたらやるし、理解したうえでやりたいんです。

最近は7歳になる娘が同じ性格で、何をするにも納得しないとやってくれないので、私も「なぜ必要なんだっけ」と改めて考え直し説明する、学びの毎日です。

いつでも、いくつになっても
見つけられる「新しい人生」

もう一冊、こちらも実在の人物で最近画集が出たのですが、画家の塔本シスコさん。50歳くらいから絵を描き始めた方で、昨年展覧会に行って本当に感動して。

塔本シスコ シスコ・パラダイス:かかずにはいられない! 人生絵日記

『塔本シスコ シスコ・パラダイス:かかずにはいられない! 人生絵日記』

塔本シスコ著/国書刊行会

熊本県八代市に生まれ、団地の四畳半のアトリエで、50歳から亡くなる91歳まで膨大な作品を描き続けた塔本シスコ。その作品、人物がわかる一冊。

ずっと普通の主婦として生きてきて、絵描きの息子さんが家を離れたあと、残されていたキャンバスや絵の具を見て「私も本当は描きたかったんだ」と目覚めるんです。

絵の教育を受けたわけでもなく道具が揃っているわけでもない。キャンバスがなくなると新聞紙やダンボール、骨董品など、あらゆるものに描き続けました。

いつも「好き」を思い描いて
人生を豊かに、鮮やかに

シスコさんの絵を見たとき、絵からほとばしるエネルギーに胸を打たれました。人生の後半、91歳で亡くなるまで毎日描き続けたシスコさんの絵から感じるのは「描きたい」という意欲だけ。何のルールも、「こうするべき」も一つもないのです。

自分の中に何が眠っているのか、わからないものですよね。宇野千代さんやシスコさんのように、自分の心に正直に表現する人が私は好き。

お二人のように、自分は「好きなもの」でできていると思いたい。好きなものを選択することで、人生が紡がれていくのだと思います。

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