私らしく。 by 再春館製薬所

間地大輔のゆるっと養生訓#01

間地大輔
江戸の名著に学ぶ健康法。「夕食後の過ごし方」編

column 連載| # # # # #

連載

平均寿命が50歳だったと言われる江戸時代に、80代半ばまで生きた貝原益軒(かいばら・えきけん)。病気にならない術、長生きする術を書いた『養生訓(ようじょうくん)』は、現代人にも必要な知恵が詰まっていると、再び注目を集めています。益軒のように老後も元気に過ごすために、いまのうちから実践できる方法を、「令和の益軒さん」こと薬剤師の間地大輔さんに聞いてみました。(聞き手・臼井美伸)

益軒さんが「我慢せよ」と言った
「自分の中の四つの欲」とは?

——貝原益軒の『養生訓』は、江戸時代にベストセラーとなった本ですよね。でも正直、教科書に載っていたなぁという記憶があるくらいで、ちゃんと読んだことはありません。時代を超えて読み継がれている理由って、どんなところなのでしょう。

実は貝原益軒は、自身が幼い頃から虚弱体質に悩んでいたといわれます。そこで、医学を猛勉強し、古今東西の健康法を試して、自分なりに病にかからない方法を編み出しました。おかげで、同じく病弱だった妻も丈夫になり、隠居後は夫婦二人で充実した老後を送っていたそうです。ところが元禄時代になり、武家たちは贅沢三昧の生活を送るようになりました。酒や博打、遊郭などを楽しみ、不摂生を重ねた末に病気になって、辛い老後を送る人が多かったのです。それを憂いた益軒が、「いまこそ人々に、健康で長寿に生きるための心得を伝えなければ」と、一念発起して書き上げたのが、『養生訓』です。なんと、80代の時でした。

——すごい! 年をとってからも本当にパワフルだったんですね。そういう人が書いた本だと言われたら、ぐんと説得力が増します。いまは長寿の時代になったとはいえ、益軒のように元気でなければ、せっかくの老後を楽しむことはできません。

その通りです。『養生訓』には、「むやみに薬に頼らない」「食事は腹八分目まで」など、当たり前のようだけれど、どんな人にもあてはまる、養生のための心得が書かれています。なかでも何度も出てくるのが、養生のために大切なのは"節制"であるということ。自分の中の四つの欲を抑え、我慢することが大事だといっています。

——それはどんな欲ですか?

いろいろなものを食べたいという欲、好きなだけ眠りたいという欲、無駄なおしゃべりをしたいという欲、そして色の欲です。

——なるほど......なかなか、我慢するのが難しい欲ですね(笑)。それを全部ダメと言われたら、私には養生はできないかも!

そうですよね。正直、この多様な時代を生きる私たちにとって、そのまま取り入れることは難しい部分もあります。それに我慢ばかりしていると、心が元気でなくなってしまうかもしれません。私だって、体に悪いとわかっていても、欲に負けてしまうことがあります(笑)。益軒さんの教え通りに節制できない自分も、時には「ま、いっか」と許してあげながら、「ゆるっと」養生をめざしましょうよ。

「食べてすぐ寝る」は病気のもと。
じゃあ「〆のラーメン」もダメなの?

ところで臼井さんは、いつも何時ごろ夕食をとっていますか?

——7時くらいには食べたいと思っているのですが、実際は8時くらいになってしまうことも多いです。夫の晩酌につきあって、ダラダラと9時くらいまで食卓に座っています。

そして、寝るのは何時くらい?

——11時くらいかな? でも、疲れると10時に寝てしまうこともあります。

『養生訓』の中にこういう言葉があります。
「酒食の気いまだ消化せざる内に臥してねぶれば、必ず酒食とどこおり気ふさがりて病となる」
食べてから寝るまでの間には時間をおきなさい。十分に消化しないうちに寝てしまったら、エネルギーがなくなって、病気になりますよという意味です。

確かに、睡眠中は胃腸などの消化機能が低下するので、寝る前に食べると食物が胃に停滞して、消化不良の原因になります。その結果栄養の吸収がうまくいかなくなり、必要なエネルギーも得られません。まさに益軒さんの言う通りなんです。

——食べてから寝るまで、どのくらい時間を空けるのがいいのでしょう?

できれば3時間、少なくとも2時間以上は空けるのがいいといわれています。

——そうかー。じゃあやっぱり夕食は早めにとるのがいいんですね。

例えば犬の散歩は食前ではなく食後にするとか、朝のうちに夕食の下ごしらえをしておくとか、工夫できるといいと思います。とはいえ残業があったり、子どもの塾の送り迎えがあったりと、どうしても夕食の時間が遅くなってしまう人も多いでしょうね。もし遅くなってしまうなら、夕食はできるだけ軽めに、消化のいいメニューにしたいものです。

——そうすると、夜中に小腹が空いて何か食べたくなってしまいそう......。実は私、夜はテレビでスポーツ観戦をしながら、ビールとスナック菓子、っていうのがストレス解消法なんですよね。

その気持ちわかります(笑)。時々ならいいんじゃないでしょうか。もし夜遅くに食べるのであれば、できるだけ消化のいいものだといいですね。

——お酒の後の〆のラーメンなんて、絶対ダメってことですね。

まぁ......。ラーメンよりお茶漬けやおにぎりの方がいいけれど、でもたまに食べたくなる時ってありますよね。そんな時は、「今日は誘惑に負けて食べちゃったけど、翌日取り返そう」って思えばいいんじゃないですか。せっかく食べるんだったら、「おいしいなぁ」と思いながら楽しんで食べた方がいいですよ。

——そう言われると、ちょっと気がラクになります。

それに、炭水化物は肝臓のエネルギー源になるので、アルコールを消化するために、炭水化物をとるのはいいことなんですよ。僕も、お酒を飲んだ後は小さいおにぎりを食べます。もちろん、夜遅く食べるのはよくないけれど。

——もし夜遅く食べてしまったら、消化するために運動するのはどうなんでしょう?

夜はだんだん体のスイッチをオフにする時間なので、激しい運動はよくありません。ただ、食後に適度に体を動かすのはいいことです。ちょっと散歩に行くとか、ヨガをするとか。

——なるほど。私はとりあえず、酔っぱらって眠くなってもすぐ横にならないことから始めてみようかな。

あ、いいですね。少し意識しているだけでも、生活が変わってくると思いますよ。

更新

間地大輔

まぢ・だいすけ 1976年生まれ。再春館製薬所・研究開発担当。「人生の8割を笑顔で」が自身の目標。専門の薬学を生かして「自己回復力を高める養生」を届ける活動を続ける。