私らしく。

間地大輔のゆるっと養生訓#03

間地大輔
江戸の名著に学ぶ健康法。「いつ、何を、食べるか」編

column 心のおやつ| # # #

心のおやつ

平均寿命が50歳だったといわれる江戸時代に、80代半ばまで生きた貝原益軒(かいばら・えきけん)。病気にならない術、長生きする術を書いた『養生訓(ようじょうくん)』の教えを現代人の私たちが取り入れる方法を探る連載の3回目です。今回のテーマは、食べる時間に着目した “時間栄養学”。「令和の益軒さん」こと薬剤師の間地大輔さんと一緒に考えます。(聞き手・臼井美伸)

間地大輔

まぢ・だいすけ 1976年生まれ。再春館製薬所・研究開発領域を担当。「人生の8割を笑顔で」が自身の目標。専門の薬学を生かして「自己回復力を高める養生」を届ける活動を続ける。

食事の内容が重い時
次の食事で意識すべきこと

——貝原益軒の『養生訓』には、「食」について多くの記述がありますが、中でも頻繁に出てくるのが、「食べ過ぎ」を戒める文章ですよね。

そうですね。
例えば、「珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽き満るは後の禍あり(珍しいものや、おいしいものに出合っても腹八、九分でやめること。腹いっぱい食べるのはあとで禍がある)」などと書いています。

——でも秋って、自然の恵みがふんだんにとれる季節ですよね。おいしい野菜や果物が出回るし、暑さで低下していた食欲も回復してきて、つい食べ過ぎてしまいがちです......。

いや本当にその通りです。
私も昨日の夕食のサンマがおいしくて、ついご飯をお代わりしてしまいました!
だから益軒さんの言う通り、今朝の朝食は軽めにしたんですよ。

——益軒さんはそういうことも言ってるんですか?

はい。「朝食、肥濃(ひのう)の物ならば、晩食は必淡薄(かならずたんぱく)に宜(よろ)し。晩食豊腴(ほうゆ)ならば、明朝の食はかろくすべし」と言っています。
これは「朝食がしつこいものであったら、夕食は淡白なものがよい。夕食でたくさん食べたなら、翌朝の食事は軽くしなさい」という意味。

実はここには、最近話題になっている「時間栄養学」の考え方が含まれているんです。

生活が不規則な人ほど
「時間栄養学」が役に立つ

——「時間栄養学」って難しそうだけど、どういうことですか?

「何をどれだけ食べるか」だけでなく、「いつ何を食べるか」に注目した新しい学問なんです。「体内時計」はご存じですか?

——なんとなく。ノーベル賞を受賞した研究ですよね?

そうそう。2017年に体内時計の研究がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、「時間栄養学」も注目されるようになりました。
時間栄養学とは、「体内時計」の働きに基づいて、食事のタイミングや内容を考慮した栄養学のことです。

例えば、活動を始める朝には、卵などのたんぱく質を積極的にとることで、体内時計の調節に役立ちます。
夜は、糖質や脂質が多いものを控え、食物繊維の豊富な根菜類などをとるのがおすすめです。
さらに夜間の消化吸収を妨げないよう、夕食はできるだけ早めに済ませるのが理想的。こんな具合です。

——なるほど。江戸時代からそれに注目していたとは、さすが益軒さんですね! でも、食事の内容とタイミングを両方考えないといけないとなると、なんだか面倒な感じ......。

もちろん、忙しく毎日を送る私たちが、常に「時間栄養学」に沿った正しい食生活を続けるのは難しいことですよね。

たまには朝食がコーヒーだけになってしまったり、会食で夜遅くヘビーな食事をとったりすることだってあるでしょう。
だからといってすぐに病気になるわけではありません。私たちには、体のバランスを整える「恒常性」が備わっているからです。

——それを聞いて少し安心しました。

それに、食べる量ではなく「時間帯」を意識することで、健康になれたりダイエットに役立ったりするんですから、知っておくとお得だと思いませんか?

——確かに。「食べてはいけない」ではなくて、「時間帯を考えて食べよう」と言われると、やってみようかなと思いますね。「時間栄養学」のこと、もっと知りたくなりました!

食事の時間が不規則な人や、つい食べ過ぎる人ほど、「時間栄養学」を知って役立ててほしいですね。

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