私らしく。 by 再春館製薬所

不調を整える薬膳ごはん入門#006

伊藤邦恵さん
ストレスをほどき、春を軽やかに。イカとセロリの炒め物

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「なんとなく調子が悪い」。そんな身体の声はついおろそかにしてしまいがち。でも、毎日をもっと軽やかに過ごすには、小さい不調も早めにケアしたいですよね。心と身体をいたわる食養生法【薬膳】を学ぶシリーズ第6回。今回は【夢みる薬膳研究室のレストラン】の伊藤邦恵さんに、季節の変わり目に揺らぎやすい心と身体を整える方法を伺いました。

気分の落ち込みは
身体が原因なこともある

東京都の西部に位置する府中市は、自然が多く、子育て世代にも人気の町です。
住宅が立ち並ぶ一角に「夢みる薬膳研究室のレストラン」を開いた伊藤邦恵さんも、この町に暮らす3児の母。

現在は精力的に活動する伊藤さんですが、出産後の身体の変化による不調は、いまでも忘れられないほどつらかったと話します。
毎朝だるくて、やる気が出ない。「こんな自分は駄目な母親なのではないか」と、よく落ち込んでいたそうです。

伊藤さんの写真
中医学の基となる「陰陽五行説」をイメージして友人のデザイナーさんにつくってもらったテーブルクロス。視覚からも「薬膳って楽しそう」と思ってもらえるような工夫を考えているという伊藤さん。

「いま思えば、『産後うつ』に近い状態だったのかもしれませんが、当時は原因がわからなくて。そんな時たまたま読んでいた育児雑誌に薬膳のレシピが載っていて、『鶏肉とキノコの茶わん蒸し』を何げなくつくってみたんです。自分のために料理をしたのはいつぶりだろうって思いましたし、それに、びっくりするくらい気持ちが明るくなって、身体が楽になりました」

中医学の観点で見ると、出産後の身体は、全身を動かすエネルギーである「気」と栄養や潤いである「血(けつ)」が足りていない状態。倦怠感や気分の落ち込みなどは症状の一つなんだ。鶏肉とキノコは「気」を、卵は「血」を補ってくれる食材だから、組み合わせもバッチリだったんだね。

この驚きをきっかけに、薬膳に興味を持った伊藤さんは、「本格的に学んでみたい」と学校に通い始めます。そこで出会った人たちが、薬膳にさらにのめりこむ理由になったのだそうです。

「先生が穏やかな方ばかりで。当時は新型コロナウイルスが流行しつつあって、マスクをするかしないか意見が飛び交っていた時期だったんですけど、『どちらか一方が正しい、とかではないよね』というスタンスでした」

「生徒の皆さんも、芯はあるのに、いろいろな人を受け入れる包容力も持ち合わせていて。これは薬膳に何か秘密があるぞ、って思いました(笑)」

実際に、中医学には「中庸(ちゅうよう)」といって、偏りがなくバランスがとれている状態がよいという考え方があります。食べ過ぎない、飲み過ぎないといった食事の面だけでなく、頑張り過ぎない、考え過ぎないなど、日々の心の持ちようも大切なのだそうです。

伊藤さんは、お客さんに伝える時はもちろん、自身も「無理せず、楽しく取り入れられる薬膳」をモットーにしています。

冬のストレスを発散して
春をいきいきと過ごすには?

季節を意識することは薬膳の基本の一つ。旬の食材はそれだけでも気持ちがワクワクするものですが、「旬にはきちんとした理由もあるんですよ」と伊藤さんは話します。

総菜セットの写真
近隣には農家も多く、お店定番の総菜セットには旬の野菜がふんだんに使われています。

「冬は寒さによってストレスを受けやすい季節なんですね。ストレスは気のめぐりを悪くするので、身体を温める力が弱まったり、気分が落ち込んだりする原因になります。例えば、冬が旬の長ネギは身体を温める作用がありますし、気をめぐらせる香りも効能の一つなんです」

香りがいい食材を取り入れる時は、加熱方法にもポイントがあると言います。

「香りが弱まってしまうので、さっと火を通すくらいがおすすめです。でも、くたくたに煮たネギが好きな人もいますよね。食べ方も『こうでないと駄目』はないので、自分が食べたいと思う方法を選べばいいんですよ、とお伝えしています」

「少し気分が晴れないから、今日は長ネギをシャキシャキな状態で食べようかな?」といった工夫をするのも、薬膳を楽しく取り入れる方法の一つかもしれませんね。

お茶の写真
香りのいい柑橘(かんきつ)類も冬から春にかけて出回る食材です。ドライみかん、ナツメ、クコの実、サンザシが入ったお茶は、オンラインショップでも販売。飲んだ後に食べられるので、成分をまるごといただくことができます。

まだまだ寒さが厳しいですが、2月は暦の上では春です。春は植物がぐんぐん芽を伸ばすように、私たち人間の活動も活発になる季節。どのようなことを意識したらいいのでしょうか。

「2月は、冬にため込んでいたストレスや毒素などを少しずつ発散していって、活動的になる身体をつくっていく時季。不要なものを排出する『気』を働かせて、エネルギーの原料になる『血』をしっかり補い、めぐらせることが大切です」

そこで、血を補い、気をめぐらせる「イカとセロリの炒め物」のレシピを教えていただきました。

「血を補ってくれるイカと、気をめぐらせる食材の中でも特におすすめなのがセロリです。暖かくなってくると、身体の中の気が充満して上がりやすくなるんですね。そうすると、顔の火照りや頭痛、イライラなどの不調が出やすくなります。セロリは気を下ろして余分な熱を冷ましてくれる作用もあるので、春にバッチリの食材なんです」

人がいきいきと活動するためには、気と血の両方が全身をめぐっている状態が理想なんだ。この二つが足りていなかったり滞ったりすると、疲れやすい、眠れないなどといった慢性的な悩みにつながることも。そういった日々の不調にも、春の薬膳はおすすめなんだね。

お店の運営に加え、地域の人たちと一緒にイベントを企画するなど、さまざまな角度から薬膳を伝える活動をしている伊藤さん。

「この辺りは、人とつながりやすいなと感じますね。農業、介護、福祉など、いろいろな立場の人が町づくりに参加しているからかもしれません。先日は、本屋さんと一緒に食をテーマにしたトークイベントを開催したんですよ」

地域の人たちが悩みを一人で抱え込まないように、話ができる環境もつくっていきたいと言います。

「身体の悩みは人に言いづらい部分もありますが、誰かに共有して気持ちが楽になることもありますよね。例えば産後や更年期など、共通の悩みを抱えている人たちが集まっておしゃべりすると、『私だけじゃなかったんだ』って前向きになれる方も多いんです。薬膳を通してそういうきっかけをつくっていきたいし、何より楽しい時間を共有していきたいですね」

何を食べるかだけでなく、どのように過ごすのかも同じくらい大切なこと。
いまの自分にはどんな時間が必要なんだろう? と考えることも、すこやかな身体への第一歩かもしれません。

冬にたまった毒素を排出
春にむけて体力を補う薬膳レシピ

発酵の力で、うまみと吸収力をアップ
イカとセロリの炒め物

イカとセロリの炒め物の写真

【材料(2人分)】
イカ.........150g
セロリ.........ひと束(2、3本、葉も含む)
パクチー.........適量(トッピングとしてお好みで)
ニンニク.........2かけ
ごま油.........大さじ2
紹興酒.........大さじ5
塩.........適量
花椒(ホアジャオ).........大さじ1/2
豆豉(トウチ).........大さじ1

【つくり方】
❶イカは一口大に切り、セロリは繊維を断ち切って口当たりがよくなるように1cm幅くらいの斜め切りにする。豆豉はあらみじん切りにして紹興酒に漬けておく(短時間でOK)。
❷熱したフライパンにごま油、ニンニクのみじん切りを入れ弱火で加熱、香りがしてきたら花椒を入れる。強火にし、イカを入れて火が通ったらセロリを入れ、塩を振りかける。
❸豆豉を漬けた紹興酒を(豆豉ごと)回しかけざっと水分を飛ばし皿に移す。
お好みでパクチーを散らす。
※豆豉は、黒豆に塩や麹(こうじ)などを加えて発酵させたもの。発酵食品を積極的に取り入れることで、胃腸に働きかけ、吸収力もアップしますが、醤油または塩のみの味付けでもおいしくいただけます。

夢みる薬膳研究室のレストラン

  • 季節の野菜を中心とした総菜セットや、生薬をたっぷり使った本格的なランチコース、月に1回の薬膳バーなど、さまざまな入り口が用意されているので、気軽に薬膳が楽しめます。営業時間およびイベント情報は下記WEBサイトのカレンダーよりご確認ください。

    東京都府中市栄町3-18-47
    ※店舗の電話はありません。お問い合わせはHPのお問い合わせフォームかInstagram のDM(ダイレクトメッセージ)にて受け付け。

    公式サイト:https://yumemiruyakuzen.com

    お店の内部

文:竹ノ上ひとみ 写真:関めぐみ 薬膳監修:伊藤邦恵

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伊藤邦恵さん

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いとう・くにえ
10年間の専業主婦生活を経て、本草薬膳学院で国際薬膳調理師の資格を取得。イベントへの出店やケータリングなどで実践を積み重ね、2025年に府中市の住宅街に店舗を構える。3児の母。