私らしく。

社会のかけはし#04

山田あかねさん
「保護犬・保護猫のために」
社会を変える、ささやかな行動

relation しあわせの連鎖| # # #

しあわせの連鎖

犬や猫と人間は深い絆で結ばれながら、一方で目をそむけたくなる現実もあります。動物愛護先進国における福祉の実情を知ったことで、日本で医療支援の仕組みを立ち上げた山田あかねさんに、犬や猫と人が共生する、しあわせな未来に必要なことを教えていただきます。

山田あかねさん

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やまだ・あかね 『ハナコプロジェクト』代表理事・映像作家。映画『犬に名前をつける日』監督、映画『犬部!』では脚本を担当。近著は『犬は愛情を食べて生きている』(光文社)。元保護犬の愛犬ハル(上写真)と暮らす。

犬や猫がいなければ
人類は滅亡していた?

はるか昔から犬や猫とともに生きている私たちにとって彼らはとても身近な存在であるだけでなく、大切なパートナーでもあります。

「もし宇宙人が地球に来たら不思議に思うでしょうね。人間は食用でも使役動物でもなく、ただ愛情を交わす存在として犬や猫と暮らしている。しかもそれが世界中にいるのだから」

そう話す山田あかねさんは、これまで保護犬や保護猫のドキュメンタリー番組や映画、著書などを数多く制作。取材をしていく中で、犬や猫によって人間は救われているのだと改めて気づかされたといいます。

頭を撫でられて気持ちよさそうにしている愛犬のハル。

「旭山動物園の元園長で獣医師の小菅(こすげ)正夫さんも、犬や猫がそばにいなかったら、人類は精神的に破綻して滅亡していたかもしれないと話していらっしゃいます」

単なる癒やしではなく、犬や猫の面倒をみることで人間の脳が活性化し、精神的にも安定してしあわせを感じるのではないかともいわれています。実際、犬や猫がいる老人ホームでは、入所者のお年寄りが犬や猫に触ろうと手をのばすことで動く習慣がついたり、認知症の人が世話をすることで明るく元気になったりすることもあるそうです。

動物福祉の現実を知って
起こした「二つの行動」

山田さんが動物福祉に関心を寄せるきっかけとなったのは、2010年の愛犬の死。かけがえのない家族の一員の死から立ち直るために旅したイギリスで、動物愛護先進国の福祉の実情を知り、カルチャーショックを受けたことがはじまりでした。

一方、2011年当時の日本の犬や猫の殺処分数は約18万頭。山田さんは帰国後、まずは保護犬や保護猫の何か助けになることをと、最初はシェルターをつくろうとしました。

しかし敬愛する渋谷昶子(のぶこ)監督から「一頭の犬を救うことも大切だけれど、もっと多くの犬や猫を救う、あなたにしかできない方法がある」といわれ、二つの行動を起こしました。

山田さんの愛犬で右はハル、左は2022年に亡くなったナツ。どちらも保護犬出身。

一つ目が動物愛護の映像作品を撮ること。殺処分数を減らそうと懸命に活動している愛護団体や獣医師などに密着取材し、日本の動物福祉の現状を発信したのです。

そして二つ目は、それらの作品を通じて知り合った俳優の石田ゆり子さんと、飼い主のいない犬や猫の医療費支援をする『ハナコプロジェクト』を立ち上げたこと。

「石田さんとは動物のために何かしたいという想いが同じでした。そこで不幸な犬猫を増やさないよう、保護活動に共鳴する動物病院に協力を得て、不妊去勢手術などの医療費サポートをすることにしたのです」

生後4日目に保護された秋胡(しゅうこ)。ワクチン接種のために『ハナコプロジェクト』を利用し、現在はしあわせに過ごしています。

山田さんが保護犬・保護猫に関する活動をはじめて約10年。この間の日本の動物福祉はまさに過渡期で、状況は大きく前進し、2022年の殺処分数は約1万5,000頭にまで減少しました。

山田さんが考える、犬や猫と人が共生する理想の社会とはどのようなものなのでしょうか。

「収入や年齢などに関係なく、望めば誰もが犬や猫と暮らせる社会になればいいなと思っています。イギリスでは、大きな動物愛護団体が五つあり、運営は年間数百億円の寄付で賄われています。お金がない人も無償または少額で動物医療が受けられるなど、日本にはない犬や猫と暮らせる仕組みがあり、92歳のご婦人でも保護犬を譲ってもらえます。愛護団体が後見人になるなど、社会全体でサポートする仕組みがあるからです」

ささやかな行動が
やがて社会を変えていく

日本でも保健所が"処分する場所"から"譲渡する場所"へと徐々に変わり、家族に迎えるなら保護犬・保護猫からという意識が根づいてきています。それは明日処分される命にも愛情をもって接する愛護団体の人たちの姿に、保健所の職員や世の中の人々が心を動かされ、自分にもできることがあるはずと気づき、行動したからです。

「小さなアクションでも必ず誰かが見てくれている」と山田さんは話します。一つひとつの力は小さくても、私たち個々ができることを続けていけば、いずれ社会を変えることができ、明るい未来が拓けていくのではないでしょうか。

動物愛護先進国から遅れをとっていた日本の動物福祉を、この10年で大きく前進させたのは、一人ひとりのささやかな行動だったんだね。もし保護犬・保護猫にとって「自分ができることは何か」と考えたら、「ハナコプロジェクト」をはじめとした仕組みを利用することで、無理のない支援に参加できるはずだよ。

ハナコプロジェクト

  • 山田あかねさんと俳優の石田ゆり子さんが、飼い主のいない犬と猫の医療費支援のために立ち上げた一般社団法人。
    ホームページで寄付を募り、集まったお金で提携した協力病院での保護犬・保護猫の不妊去勢手術、ワクチン、ノミ駆除などの医療費を支援・補助。個人保護主を対象に、飼い主のいない子犬・子猫の緊急避難的ケアも行います。
    https://hana-pro.com/

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