私らしく。 by 再春館製薬所

宇都宮みわさん
「やればできる」から始まる、羊毛フェルト手芸の世界

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ストーリー

いまにも話しかけてきそうな、いきいきとした表情の小鳥たち。見ているだけで笑顔がこぼれる愛らしさや温もりは、羊毛フェルト手芸ならではです。気軽に取り組めて、達成感も味わえる趣味としての魅力や、羊毛がつなぐ人・自然について、羊毛フェルト作家の宇都宮みわさんにうかがいました。

手や目から癒やされる
羊毛フェルトの魅力とは

「手芸は、自分でつくり出す楽しさや、できたときの達成感が得られるほか、『自分もやればできる』という自己効力感も高まります。さらに、集中してつくることで気持ちが落ち着くなど、さまざまな効果があることが、老若男女を惹きつけるのかもしれません」

そう話すのは、羊毛フェルト作家の宇都宮みわさん。自身も、手芸で何かができあがるのがうれしくて、幼少の頃から夢中になっていたそう。かぎ針や刺繍など、さまざまな手芸を経験してきた中でも、宇都宮さんが没頭したのは、羊毛フェルト手芸でした。

「羊毛は、ふんわりとした手ざわりで、色もたくさんあるので、手や目からも癒やされるんです」

必要な道具は、羊毛・羊毛針・マットとシンプル。コンパクトなので、つくる場所も選びません。さらに、「大らか」なところも羊毛フェルト手芸の魅力と言います。

毎年制作している羊毛フェルト小鳥図鑑の1作目。小鳥の愛らしい特徴をとらえた表現は、海外でも高評価。

「工程が細かく、正確さも求められる刺繍や編みものと違い、羊毛フェルト手芸は失敗してもリカバリーしやすいので、初心者でも気軽に取り組めます。細かい作業で集中するとき以外は、わいわい話しながらつくれる楽しさも、羊毛フェルト手芸ならではですね」

一口に羊毛といっても、メリノ種やコリデール種といった羊の品種や染色方法によって、色も風合いも異なります。手芸を深めるほど、その背景を意識するように。

「草木染めかつ国産、さらに無理な負担を強いられず健康に育てられた羊の毛に魅力を感じます」

素材は、「青」だけでもさまざまな色合いが。中央の紺色の羊毛は、十勝の藍染め『工房風色』のもの。

同種の羊毛でも、個体によって色合いが違うことは珍しくないそうですが、「生きものからいただくものなので、それが当たり前なんです」と宇都宮さんは言います。

「だからこそ、羊毛に出合い、触れるたびに自然の恵みとつながっていると感じますし、羊を育む自然や環境も大切にしたいと、羊農家・飼育環境・染色の原料などにも目が向くようになりました」

「端っこ」も無駄にしない
共通の思いを形に

宇都宮さんの作品が増えるとともに、羊毛フェルトの端材も増えましたが、羊からの貴重な贈りものを捨てられず、芯材にするなどで活用していました。ただ、きれいな色合いを見せつつ、リユースできないか模索していたそう。

転機が訪れたのは、神戸市の社会福祉法人『たんぽぽ』との出合いです。障がい者の方々がつくったバッグや帽子などの羊毛フェルト作品を制作・販売している『たんぽぽ』でも端材が大量に出ますが、羊毛を無駄にしたくない、何かに再利用できないかとためていることを耳にしました。

その思いに共感した宇都宮さんは、小作品が多い自身の制作に活かせるのでは、と端材を譲ってもらうことに。届いたのは、段ボール箱いっぱいの端材、“端っこ羊毛”でした。

譲り受けた羊毛フェルトの端材は、色別に分けて新たな作品へ。混ざり合った色合いを活かすことも。

「一人で使いきれる量ではなかったので、羊毛フェルト仲間に端っこ羊毛を分けて作品をつくってもらい、それをお披露目する展覧会を開けたらいいなと思ったんです」

講座の受講生や知り合いの作家に呼びかけたところ、計20名が賛同。各々に作品をつくってもらい、それらをハート形に並べて立体タペストリーを制作。ニューヨークのギャラリーへ出展し、羊毛のアップサイクルを実現させました。

「Art & Craft in NY 2023」に出展したアップサイクル作品。“端っこ羊毛”でつくった20名の作品が大集合。

「羊毛の色や風合いを活かしたアップサイクルができたこともうれしかったのですが、いちばんの収穫は、みなさんに出展を呼びかけた際に『自分でとっておいた羊毛の余りも使っていいですか?』と聞かれたことでした。みんなも余った羊毛を大事にとってくれていた。羊毛を大切にしたいという、自分と同じ思いなんだと実感できたことが何よりうれしかったです」

アップサイクルというと、どこか難しそうなイメージもありますが、仲間たちが「端っこ羊毛は自分では選ばない色があって楽しい」「さまざまな色が混ざっていて、アイデアの刺激になる」と楽しみながら取り組む姿を見て、次につながる自信も持てました。羊毛がアップサイクルできる素材ということを、さらに多くの人に知ってもらうために、今後も活動を続けると言います。

つくることよりも大切
共同制作をして気づいたこと

ギャラリーへの出展は、はじめての共同作品だったため、仲間とのつながりを再認識する機会にも。

「みんなで共通の目標に向かえてワクワクしましたし、完成したときの達成感も、一人で作業するときの何倍にも感じられました」

生徒さんたちと小鳥づくりを楽しむひととき。宇都宮さんのほかにも保護鳥の里親になっている人が多く、羊毛フェルト手芸を通して人・鳥・羊がしあわせに暮らすためにできることを話せるのも醍醐味。

自身が主宰する講座でも、みんなとつくる時間を共有できることが貴重だと実感したそう。「羊毛フェルト手芸を通して、みんなと笑ったりおしゃべりしたりする時間こそが大切」と話す宇都宮さん。

羊毛フェルト手芸は、人とつながるコミュニケーションツールであると同時に、自然への意識を共有する人の輪を通じて社会とも楽しくつながる、豊かで有意義な暮らしをもたらしてくれそうです。

更新

宇都宮みわさん

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うつのみや・みわ 大学で色彩と服飾デザインの基礎を学ぶ。2000年に羊毛フェルトと出合い、独学で創作活動を開始。小鳥モチーフを中心に制作するほか、首都圏で羊毛フェルト手芸の講座を開講中