みそ汁の豆腐をいつもどんなふうに切っていますか。ルーティンの切り方を変えてみて、さいの目ぐらいの角切りにしたり、ざっくりと手で割ってみたり。それだけでいつものみそ汁が変わります。
日々のごはんづくりを楽しくするのは、そんな小さくてささいなことだと教えてくれたのは、スープ作家の有賀薫さん。毎日のごはんづくりがしんどい、そんな悩める人たちの"救世主"として知られる、人気料理研究家です。
朝、昼、晩と1日3食、365日。ルーティンに飽きて、目新しい料理を探しがちですが、いざつくろうとするとそれもまた億劫(おっくう)に。つい「今日、何つくろう?」と、ため息をついてしまいます。
「料理も家事も毎日の繰り返し。習慣化すれば楽なんですが、いつも同じ味だと飽きてしまう。かといって、そのつど違うことをするのは大変。皆さんの悩みはそこにあるんです」
有賀さんがすすめるのは、いつもの習慣をちょっとだけ変えてみる、脱・ルーティン法。
例えば、みそ汁の豆腐をいつもの半分くらいの7㎜角に切ってみる。崩れないように切るには丁寧なひと手間が必要です。心を鎮めて刃先に集中。包丁をすーっと引けば、脱・ルーティン。
ここから先を有賀さんは頭のストレッチと思って、連想ゲームを楽しめばいいと言います。小さく切った豆腐の繊細さが味わえるように、薬味は細かいみじん切りのネギだけにしてシンプルに。具材がシンプルだから、いつもより濃いめのだしにみそを溶き入れます。みそは粒々よりなめらかなタイプを選べば、口当たりがさらにまろやかに。
「豆腐の大きさが変わると、みそ汁の食べ心地や味わいも変わります」という説明は、食べればわかります。お椀(わん)に口をつけてすすると、豆腐がとろけるようにまったりとして、クリーミーでふくよかな大豆の味わいをいつもより強く感じて、新鮮な気持ちになりました。
時短簡単だけじゃない、おなかと栄養を満たして心も楽になる。いまの時代に、有賀さんのレシピが求められる理由がよくわかりました。
スープのレシピを
発信し続ける理由
「スープ作家になって8年になりますが、レシピを通してちょっと変えるとガラッと世界が変わる、心の持ち方を繰り返し伝えるようにしています」
そう話す有賀さんがスープ作家になったきっかけは、受験生の息子さんのためにつくった朝食のスープでした。
2011年から10年間毎日SNSに投稿し続けたスープづくりが反響を呼び、子育てと家事に軸足をおいていた人生から一転、有賀さんは50歳でスープ作家として活動を始めます。
それ以来「いまみんなが食生活で困っていることを、スープが解決できるかもしれない」という思いで、スープレシピの発信を続けています。
中でも人気なのは、最小限の材料で手数をかけず、だしをとらない、ことこと長時間煮込まない、野菜たっぷりのシンプルスープ。今回教えていただいた「ころころゴボウと肉団子のスープ」もその一つです。
「いつもならささがきにするゴボウをころころに切ってみたら、なんだかかわいらしくて。切るのが簡単な上、食べごたえが出て、ゴボウの香りのインパクトも大。ちょっとした思いつきで、ゴボウの存在感がガラッと変わりました」
ゴボウは皮に近い部分に香りや栄養があるので、皮付きのまま1.5㎝幅に切ります。肉団子のひき肉は練る手間なしが有賀流。
パックからスプーンですくって、丸く成形してから鍋の中にぽとり。風味を引き出すように最初は少ない水で蒸し煮にしてから、水、調味料を加えて10分以上煮込みます。
「煮込み時間2~3分のさじ加減で、ゴボウの食べ心地が変わります。ぽりぽりとした歯ごたえに仕上げるのか、くたっとなるまで煮込むのか。大事なことは味見をして、ここって仕上がりを自分で決めること。食べてみてもうちょっとかなって気づく、その感覚を大事にしてほしい」
味見が大事とわかっていてもついつい省いて、レシピに頼りっぱしになってしまいがち。日々のごはんづくりを楽しくするには、レシピに縛られず、脱・ルーティン。自分から楽しみを探しにいく、自分で味を見つけにいくことが大事なんだと有賀さんから教わりました。
野菜の切り方や煮込み加減をちょっと変えると、いつものごはんがガラッと変わる。皆さんも脱・ルーティン、今日から何か一つやってみませんか。
いつもの切り方を変えるだけで
食べ心地が変わる「豆腐のみそ汁」
【材料とつくり方(2人分)】
絹ごし豆腐半分をサイコロ状に切る。
崩さないようにゆっくりと丁寧に包丁を入れるのが肝。
小鍋にだし500㎖をひと煮立ちさせたら火を弱め、みそを溶き入れる。
最後にそーっと静かに豆腐を加えて温めたら器に注ぎ、小口切りの青ネギをのせて出来上がり。
だし要らず、超簡単でこの香り?
「ゴボウと肉団子のスープ」
【材料とつくり方(2〜3人分)】
ゴボウ1/2本をたわしでよく洗い、皮付きのままころころ状に。
長ネギ1/2本も同じ幅に切る。
小鍋にゴボウを並べ、鶏ひき肉100gを小さじ1ずつすくいながらのせる。
長ネギを入れ、ゴボウにかぶるくらいの水を加えたら、ふたをして5分蒸し煮に。さらに水500㎖を注ぎ、塩小さじ1/2、薄口しょうゆ少々を加える。
ひと煮立ちしたら弱火にして10分ほど煮る。
お好みで粗びき黒こしょうをふるとゴボウの風味が際立つ。
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