
1年でもっとも免疫力が低下しやすいともいわれる冬が到来。東洋医学では、冬を元気に乗り切るキーは「寒邪」対策だと考えられています。そこで寒邪の正体や打ち克つためのメソッドを東洋医学のプロに聞きました。
「寒邪」とは
東洋医学では、病を引き起こす外的要因を邪気と捉えるが、6つある邪気のうちで冬を代表するのが寒邪。体を冷やし、気血の滞りをもたらすと考えられている。
鍼灸師・国際中医専門員・国際薬膳管理師。 イスクラ中医薬研修塾にて中医学の基礎を学び、北京中医薬大学、上海中医薬大学などでの研修を経て、現在は漢方薬局・CoCo美漢方(神戸市)に勤務。『こころと体がラクになるツボ押し養生』など多数の書籍も上梓。
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日ごとに寒さが増す今日この頃、体調に変化を感じている人も多いのではないでしょうか?東洋医学で、この時季の「不定愁訴」と呼ばれる体調不良の大きな原因と捉えられているのが「寒邪」。では寒邪は、私たちの心身にどんな悪影響をもたらすのでしょう?
一番代表的な寒邪のしわざといえば、体を冷やしてしまうこと。全身が冷えることで風邪を引きやすくな ったり、頻尿や大量の鼻水などの症状に繋がります。そして2つめが体を収斂させること。筋肉がこわばり引きつることで、肩が凝るほか、あちこちに痛みが生じやすくなります。そして3つめは、気や血の滞り。東洋医学ではこれを「凝滞性」と呼びますが、巡りが悪くなることで、関節痛や女性の場合は生理痛が悪化します。さらに、肌のくすみやシミ・ソバカスの原因にも。また、寒邪には人の陽気を奪う傾向が。そのせいで精神的に落ち込みやすくなったり、腹痛になりやすくなることもあります。
つまり、冬の不調全般の引き金となるのが寒邪。でもそれに拍車をかけるのは、現代人の生活習慣です。例えば、春夏の間にあまり日光を浴びず、冷房の効いた部屋で長時間過ごす生活では陽気を蓄えられず、冬の体は一層冷えやすくなります。また、最近では男女問わずダイエットを行う人や、多忙で睡眠時間が短い人が多いように見受けられますが、食事から摂るエネルギー量不足や睡眠不足も、熱を作って体を温める力を弱める要因です。ストーブで家の中を暖めるとき、室内が冷えているほど多くの燃料が必要なのと同じで、体が熱を作れない状態で冷えているほど、寒邪による影響を振り払うために膨大なエネルギーが必要に。その結果、疲労も溜まりやすくなってしまいます。
そもそも冬の養生は「閉蔵」と呼ばれています。その本意は春夏に収穫したものを蔵に仕舞い込むように、エネルギーを極力消耗せず、気や血を貯蔵するべき季節だということ。省エネの季節だと心に留めゆったりと過ごしましょう。
こんな症状は寒邪のしわざ?
以下の中でひとつでも該当するものがあれば、寒邪の影響かもしれません。以降の対策を実践してみましょう。
寒さを跳ね除ける冬の心得
寒邪によるもっとも強い悪影響といえば冷え。
冷え対策の徹底が寒邪に打ち克つためには必須です。そこでここでは、冬冷えを追い払う心得をご紹介!
現代は暖房過多な風潮も手伝って、冬でも薄着で過ごす人が増えています。過度な暖房は体調を崩す一因になるためほどほどにし、衣類で体温をコントロールしまし ょう。特に温めたいのは首・手首・足首。タートルネックを着用したり、レッグウォーマーやアームウォーマーを取り入れて集中保温しましょう。中でも足首の内側にあるツボ・三陰交(内くるぶしの中央から指4本分上)は、自律神経を司る肝と、老化に関わる腎、胃腸と関係している脾の経絡が交わる場所。ここをしっかり温めることが、心身の健康増進に繋がります。また下に記しているように、自分はどういう理由から冷えるタイプなのか把握し、対策を立てることも有効。そして、どんな体質の人も、体を軽く動かす習慣を持ちましょう。血流を促し、巡りを促進することができます。
中国には〝寒いときは心から温めよう〞という意味の「天寒〝暖身〞先温心」という言葉があります。心を解放するひとときを持つのも冷えない体を作る鍵。まずは大切な人とゆったり鍋を囲む時間などを設けてみてはいかがでしょう。
冬冷え3タイプ
陽気不足
症状:手足が氷のようでお尻・お腹・腰まわりまで冷える。腰痛・頻尿。
●温める力が不足していて強い冷えが生じている。山椒、シナモンなどのスパイスやニラ、エビ、牛肉、羊肉など体を温める食材を。
気血不足
症状:手足は冷えるが暖かい所にいくと戻る。疲れやすい。お腹を下しやすい。立ちくらみがある。
●気血の不足で熱を作りにくくなっている。きのこ、ナツメ、鮭、鶏肉など気や胃を補う食材を積極的に。
血行不良
症状:手足が冷える・肩凝り・頭痛・生理痛が重い。顔色が悪い。婦人科系の悩みが多い。
●血の巡りが悪く冷え症に。体を動かして血流を促すほか、青魚や玉ねぎ・よもぎなど血液サラサラ食材も有効。
寒邪に打ち克つ冬の養生
毎日実践してみたい5つの具体的メソッドをピックアップ。挑戦しやすいものからお試しあれ。
朝ごはんには冷たいものは避ける
ヨーグルトやサラダ、スムージーなどの朝食にはご用心。まだ体温も低い寝起きの状態で冷たいものを摂ると胃腸の負担に。どうしても食べたいときは白湯など温かい飲み物と一緒に摂取しましょう。ちなみに理想の朝食は、ご飯と野菜たっぷりのお味噌汁を中心にした和定食です。
外出前にはカイロをサンドイッチ貼り
まずカイロを貼りたいのはおへその指4本下にある関元のツボ(図)周辺。ここに熱を送ると胃腸が温まって全身が冷えにくくなります。さらにその真裏(背中側)にもカイロを貼ると腎兪や命門といった生命力を司るツボをカバーでき、より確実に温められます。

冷えて帰宅したら首後ろを温める
寒邪は首後ろにある風門(図の下の2つ)から体内に入り込むと考えられています。また大椎(図の上)のツボには風邪を予防する働きが期待できるので、寒気を感じたら帰宅後すぐに首の後ろに熱めのシャワーを当ててみましょう。時間がないときはドライヤーの熱を30秒くらい当てるだけでもOK。

旬のフルーツは焼いて楽しむ
旬の果物は栄養豊富ですが、ものによっては体を冷やすこともあるので焼いていただくのがおすすめ。りんごはスライスし、みかんは皮ごとオーブンに入れて焼くと甘さもアップします。なお、りんごは胃腸にやさしく、みかんは体を温める効果がある点も冬に摂りたい理由。

青竹踏みで腎を整える
生命力や泌尿・生殖器系を司る腎は特に寒邪に弱いことで知られています。青竹踏みやゴルフボール踏みで足裏を刺激すれば腎の経絡のスタート地点である湧泉のツボ(図)を刺激できます。湧泉を刺激すれば全身の巡りもスムーズに。テレビを観ているときやデスクワーク中に5分めどで挑戦を。

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