おやつの心
パリ在住の猫沢エミさんとラジオに出たとき、猫沢さんのご担当の若い編集者さんたちや、ラジオのプロデューサーやライターの方たちがみんな私より若い年代で、たまにしか帰国しない猫沢さんをわいわい囲んでいてかわいらしかったのだけれど、みなさんがそれぞれに小さいお菓子やおやつや好きなお店のジャムなどを、小鳥にえさを持ってくる親鳥みたいに、口々にかわいい説明をしながら私にも持ってきてくれた。
かわいらしくて、帰宅してにこにこしながら開けた。
あるとき、湘南新宿ラインで奮発してグリーン車の二階に乗り、お昼ごはんは旅の友それぞれが食べてくることになっていたので、おやつだけ持っていこうと思って、甘く柔らかい大福と、カレー煎餅を用意した。
それぞれの飲み物を飲みながら、大都会からだんだんと山に近づいていく車窓を見ながら、甘いものとしょっぱいものを交互に食べて、ほんのりと優しい気持ちになった。
友だちの奥さんが焼いてくれたチョコチップクッキーは、パンみたいに分厚くて、チョコがびっくりするほど入っていて、ちょっと塩味も効いていて、周りはカリッと、中はしっとりとしていた。
ご夫婦の新居の縁側で、めだかを眺めながら大きなカップでコーヒーを飲み、そのクッキーを食べた。みんなで同じものを食べて、同じ陽に当たる幸せ。
おやつって、こんなエピソードたちを日々作ってくれる、すばらしいものだ。おやつの魂が心に映って、忘れられない思い出を彩ってくれる。おやつの多い人生は幸せな人生。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
日々のなかの小さな楽しみ、おやつ。学校から帰った娘がかわいいドーナツによろこび飛びつきました。
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