私らしく。 by 再春館製薬所

不調を整える薬膳ごはん入門#01

山田奈美さん
最初の悩みは“冷え”改善でした。山田奈美さんの定番「生姜粥」

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「なんとなく調子が悪い」。そんな体の声はついおろそかにしてしまいがち。でも、毎日をもっと軽やかに過ごすには、小さい不調も早めにケアしたいですよね。心と体をいたわる食養生法【薬膳】を学ぶ新シリーズ。今回は薬膳・発酵料理研究家の山田奈美さんにお話を伺い、冷え改善のレシピも教えていただきました。

温めるだけでは冷えは治らない
肝心なのは「食材の選び方」

神奈川県葉山町。山と海に囲まれたこの町で、山田奈美さんは薬膳・発酵料理研究家として、教室をはじめ薬膳を伝えるさまざまな活動をしています。薬膳と聞くと中華やカレーなどの料理を思い浮かべるかもしれませんが、山田さんが日々つくっているのは和食やぬか漬けなどの発酵食品。きっかけは、和食薬膳を提唱する武鈴子先生との出会いでした。

古民家維持のプロジェクトを通して出合った自宅兼アトリエにて。台所道具はどれも大切に使いこまれている。
古民家維持のプロジェクトを通して出合った自宅兼アトリエにて。台所道具はどれも大切に使いこまれている。

「20代は仕事柄とても不規則な生活でした。毎晩お酒を飲んだり2日間徹夜で作業をしたり、もちろん食事も気にしていなくて。そんななか、仕事で武先生に出会ったのですが、〝昔ながらの食事が日本人には一番身体にいい、薬になる料理だよ〟というお話をされていて、すごく納得したんです」

しかし、話は聞いていたものの、しばらくは実生活に薬膳を取り入れることはなかったそうです。それが、30代になると身体の変化を感じ、不調が目立つように。その時山田さんが一番悩んでいたのが〝冷え〟の症状でした。

「とにかく身体を温めて、冷やす食べものは一切取らないように決めました」

薬膳は、季節や体質に合わせて食材や調理法を選び、体調を整えていく食事法。それぞれの食材には、人の身体に作用をもたらす力が備わっています。
冷えた身体を温めてくれる食材の一つが生姜(しょうが)。当時、山田さんは生姜を取り入れる方法として、生姜粥(がゆ)を食べ始めました。しかし、改善されてきたと感じるまでは、それなりに時間がかかったそうです。

「身体にいいといわれるものを1回取り入れただけではなかなか変わらないですよね。漢方薬も即効性があるものもあるけれど、基本的には長期間かけて改善していくものです。食事は効き目がより穏やかなので、1年くらいはかかりました」

せっかく温めても身体を冷ますものを食べると効果は弱まってしまう。例えば、キュウリやナスなどの夏野菜は身体を冷ます食材。温めるだけでなく冷まさない工夫も大切だよ。

湿気の多い町でわかったこと
周りの環境で人の身体も変わる

冷え改善をきっかけに薬膳を生活に取り入れ始めた山田さん。他にも、東京に住みながら畑を借りて野菜をつくったり、ぬか漬けを始めたり、その頃から少しずつ食事を大切にするように。そして、結婚を機に葉山に移住します。それまでは縁もゆかりもなかった場所でしたが、住んでみると自然が多く、葉山での暮らしは山田さんに合ったそうです。しかし、生活していくうちに葉山ならではの、ある特徴に気付きます。

自宅近くの畑で育てた野菜や自家製の調味料を販売している。※毎週月曜日のみ。
自宅近くの畑で育てた野菜や自家製の調味料を販売している。※毎週月曜日のみ。

「海が近くて山もあるので、葉山は特に湿気が多いんです。だから、普段から身体の水分を出すような食べ物をより意識しています。水はけをよくしてくれるのは黒豆、小豆などの豆類やハトムギ茶、麦茶などもいいですね。特にお茶は毎日取り入れやすいのでおすすめです」

そもそも日本自体、海に囲まれていて森林が多いので、湿度の高い国といわれています。そのため、日本人はもともと身体に水がたまりやすく、冷えにつながったり胃腸の働きが悪い人が多いのだそうです。
寒いところに長時間いると身体が冷えるように、身体は常に外からの影響を受けるもの。そう考えると、生活している場所によって食習慣を変化させるというのはとても自然なことだと感じます。

「その前提を知っていれば、氷が入った冷たい水はあまり飲まない方がいいというのもわかりますよね。それも立派な薬膳の考え方なんです」

水はけをよくしてくれる食材で、特におすすめしたいのが黒豆。
「黒い食材」は身体に精をつけてくれるものが多いから、滋養強壮や月経不順、老化防止などにも効果的だよ。昆布やノリなどの海藻類にも同様に、余分な水を出してくれる作用が。普段の食事にも取り入れやすそうだね。

山田さんが毎朝5粒食べているという黒豆の黒酢漬け。炒(い)った黒豆を黒酢に漬けるだけという簡単さ。黒豆は身体に精をつけ、黒酢は血行をよくしてくれる。
山田さんが毎朝5粒食べているという黒豆の黒酢漬け。炒(い)った黒豆を黒酢に漬けるだけという簡単さ。黒豆は身体に精をつけ、黒酢は血行をよくしてくれる。

一見薬膳に見えない料理や習慣でも、ひもといていくとそこには薬膳の知恵が生かされている。そう思うと、意外と簡単に始められるのかもしれないという気がしてきます。

「例えば、きんぴらごぼうは、ごぼうと唐辛子を組み合わせますよね。ごぼうは身体を冷やす食材で、唐辛子は身体を温める食材。ごぼうだけだと身体が冷えてしまうので、唐辛子でバランスを取っているんですね。薬膳が日本に伝わったのも奈良時代ごろといわれているので、普段の生活に自然と取り込まれているものは多いんじゃないかなと思います。それに、何より和食だと無理なく取り入れられますよね」

昔から食べ継がれている和食を見直してみて、薬膳との関わりを調べてみるのも楽しいかもしれません。
あまり難しく考えず、できることを着実に続けることが薬膳生活の第一歩になりそうです。

冷え改善に効く
生姜の薬膳レシピ

材料もつくるのも
とってもシンプルな生姜粥

生姜粥の写真

【材料(2人分)】
米......... 1/2合
生姜......... 8g
水......... 360cc(※好みで水の量を増やしても。より軟らかいお粥になります)

【つくり方】
❶ 米をざるで洗って30分浸水する。(水360cc)
❷ ❶を鍋に入れて、千切りにした生姜を加え中火にかける。フツフツ沸いてきたら1回混ぜて、弱火にして40分ほどコトコト煮たら完成。

お好みで塩をかけても。生姜をニンニクやニラなどに変えてバリエーションをつくると、楽しく続けられるのでおすすめです。

もう1ランク本格的に
〝乾姜〟(かんきょう)

薬膳の食材で、生姜を蒸して干した"乾姜(かんきょう)"があります。乾姜は、通常の生姜よりもさらに作用が強く、身体を内側から温めてくれるので、しつこい冷えにおすすめです。

【材料】
生姜

【つくり方】
❶ 生姜を繊維を断ち切って5mm厚さに切る。
❷ クッキングペーパー、さらしなどを敷いて重ならないように並べる。
❸ 蒸し器で20〜30分、茶色になるまで蒸す。ざるなどにのせてカラカラに乾くまで干す。

お粥などの煮込み料理や煮出して生姜湯などに。

古家1681

  • 古民家を利用した山田さんのご自宅兼アトリエ。料理教室を開催するほか、暮らしのはかり売り「三和土(たたき)」では、畑で育てた野菜や自家製の発酵調味料などを販売しています。最新情報はWEBサイトやInstagramでご確認ください。

    神奈川県三浦郡葉山町一色1681
    Tel:046-876-9170 
    Fax : 046-876-9170

    「三和土」
    毎週月曜日10時〜夕方
    https://www.instagram.com/coya1681/
    料理教室情報
    https://tabegoto.square.site
    https://www.instagram.com/nami_yamada.tabegoto/?hl=ja

    古家1681

文:竹ノ上ひとみ 写真:関めぐみ 監修:田野岡亮太(再春館製薬所)

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山田奈美さん

  • instagram

やまだ・なみ 編集者・ライターを経て2010年より神奈川県葉山町に古家1681を構え、薬膳を伝える活動を始める。「和食薬膳教室」「発酵教室」などの料理教室を開催。毎週月曜日には軒先で自家製の調味料や野菜も販売している。『かんたんでおいしい 砂糖なしおやつ』(小学館)、『いつもの食材と調味料で体が整うごはん』(ナツメ社)、『二十四節気を愉しむ 季節の保存食』(マイナビ出版)など著書多数。