私らしく。 by 再春館製薬所

要一郎さんのほんのり脱力術#01

麻生要一郎さん
献立がちょっと変な組み合わせになったって

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頑張りすぎもよくないのにな──。頭ではわかっていても、つい欲張ったり、肩に力が入ったりしがちですよね。心にほんの少しの余裕があれば、自分にも周囲にも優しくできるのかもしれません。おだやかなまなざしで日々の生活を楽しんでいらっしゃる人気の料理家・執筆家・麻生要一郎さんに、脱力のヒントを教えていただきます。

料理家・執筆家の麻生要一郎と申します。
皆さんの忙しい日々に、ほんの少し力が抜けるようなエッセイを毎月お届けしていきたいと思っています。

「今夜は何をつくろうか?」
夕方になると、皆さん、そんなことを考えるのではないでしょうか?

今回は、献立についての話です。

料理家といっても、毎日の献立を考えることは楽しくもあり、おっくうでもある。
わが家は、パートナーと二人暮らしと言いながら、同じマンションの中で内装デザイン事務所を構えている家族のような友人や、近所の友達も交じえて食卓を囲んでいる。

買い物に出かけた時に献立がピンとひらめいたらよいのだけれど、そうでもないと食料品売り場でカートを押しながら、ぐるぐると売り場を回り続けることになってしまう。

ありがたいことに最近は、執筆業が忙しくて締め切りに追われ、1日の時間割をきちんと組み立てなければ、仕事が終わらない日々が続いている。

今日、原稿が仕上がっていないといけないという日に、「ちょっと気分転換を兼ねて、買い出しに行ってから」と出かけてしまうと......。

「ついでにあの店に」「ここまで来たのだから、足を延ばしてあの店でパンを買って帰ろう!」なんてしているうちに、1時間で戻るつもりが3時間も経過してしまい、ソファーに座って愛猫チョビと一眠りしてしまったら、もう1日が終わってしまうのだ。

そこで、思案の末、あまり好きではない食材の買いだめをしようと心に決めた。
週の初めに食材をたくさん買い込んできて、日々買い出しに行かないようにと自らを家に封じてみたのである。

いままで僕は、その日浮かんだメニューをつくるということを実践してきたから、基本、買い出しは毎日派。エビフライが頭に浮かんだなら、その日は必ずエビフライにする、それが一番。

しかし、買いだめ式だと、そううまくはいかないもの。
週の後半に冷蔵庫を開けてみると、残っていたひき肉と鶏肉が気になってしまい、賞味期限の近い牛乳と豆腐もどうにかしないといけないという呪縛に取りつかれてしまった。

ひき肉と豆腐なら麻婆(マーボー)豆腐、鶏肉と牛乳はシチューを思い浮かべた。
全く相いれない組み合わせ。
頭ではわかっていても、手を動かしているうちに、やっぱり麻婆豆腐とシチューが出来上がってしまった。
友人たちに、わが家の食卓にはよく「グラタンと刺身が並んでいる」と言われるが、それよりもっと変わった組み合わせではないだろうか。

さすがに食卓に集う面々も、「おぉ、この組み合わせは......」と絶句。
僕も、つくり終えた時には、この二つの料理を一緒に並べることを一瞬ためらったのだが、「まぁいっか、家族で囲む食卓だし」と思い直したのだ。

何もあんばいのよいことばかりを目指さなくても、時に組み合わせが変でも、何か一味足りなくったって、一緒に囲む時間こそが何よりのごちそうなのだから。

さて、今夜は何をつくろうか。

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麻生要一郎さん

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あそう・よういちろう 1977年、茨城県水戸市生まれ。日々無理なくつくれる手軽なレシピの提案やエッセイを執筆。広いキッチンのあるスタジオでは、気の置けない友人たちを招いて食卓を囲んでいる。著書に『僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22』(オレンジページ)などがある。