私らしく。 by 再春館製薬所

要一郎さんのほんのり脱力術#02

麻生要一郎さん
「やることリスト」を習慣にしてみたら

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連載

頑張りすぎもよくないのにな——。頭ではわかっていても、つい欲張ったり、肩に力が入ったりしがちですよね。心にほんの少しの余裕があれば、自分にも周囲にも優しくできるのかもしれません。おだやかなまなざしで日々の生活を楽しんでいらっしゃる人気の料理家・執筆家・麻生要一郎さんに、脱力のヒントを教えていただきます。

料理家・執筆家の麻生要一郎と申します。
皆さんの忙しい日々に、ほんの少し力が抜けるようなエッセイを毎月お届けしていきたいと思っています。

今回は、日々のリストづくりについての話です。

仕事もプライベートも、ささいなことまできちんと行き届いて、何かをうっかり忘れたということがない写真家の前康輔君が、写真のこと以外は何も考えたくないから、やることを全てリスト化しているというのを教えてもらった。

僕も、一緒に話を聞いていた友人も、いろいろなことをよく忘れ、これは大事な書類だと言われればなくさぬようにと心がけ、普段と違うところに挟めて、そのまま行方知れずにしてしまう。
そういう場合、必要な時には絶対に見つからず、もうどうでもいいというタイミングで見つかったりする。

「前君の言う通りに日々のリストをつくり、日常の小さなことでも一つずつクリアしていけば、達成感が得られる」
「実践していけば、プライベートも仕事も無駄がなくなるに違いない」
と思った帰り道、使いやすそうなメモ帳を探して文房具屋に立ち寄った。

メモ帳を一冊選んで、これで何でもサクサクこなせるはずだと思い込んで帰宅。
夕食の支度をして、いろいろな雑務をしているうちにその日は終わり、メモ帳を買ったことなどすっかり忘れていた。

翌日、打ち合わせに出かけた際に、バッグの中にメモ帳を見つけた。
あれだけやる気になっていたというのに、忘れてしまうのだから始末が悪い。

「やることリストをつくらねば!」と、急いで帰宅して机に向かう。
しかし改めて見てみると、このメモ帳に見覚えがあるなと引き出しを開けると、使いかけの全く同じメモ帳が何冊かあって、早速無駄を発見した。

まあ、どうせ同じならば使いかけのものから使おうと手にとって、今日やり残したことと明日やること、買い出しするものなどを書いていった。
書いただけで全てが達成されたような気がして、これで明日は効率がよくなるはずだと思い、満足げに床についた。

しかし人生はそんなに甘くないものである。

すっきり目覚めて、意気揚々と買い出しに出かけ、バッグの中でメモ帳を探してみると、どこにも入っていない。
書いただけで満足して、机の上にそのまま忘れてきたのだ。

忘れないためのメモ帳を、忘れるようでは元も子もない。
仕方がないから記憶を頼りに、カゴに食材を入れ、ドラッグストアに立ち寄り、銀行と郵便局にも立ち寄った。
まあさすがに昨日書いたばかりだから、結構覚えているものだと自己満足。
帰宅してからリストを整理しようと思い、優雅にコーヒーを片手にいざリストを眺めれば、買い忘れが随分あった。

あれも忘れたこれも忘れたと、ああ、またあの道のりをたどるのかと、がっかりしながらメモを片手に再び出かけた。
今度は間違いなく全部がそろったことによって、しっかりとした達成感を得られた。

それを繰り返しているうち、どうにか日々のリストを書くのが習慣化していった。
雑誌の取材などでも、リストを書いたノートを得意げに披露したりもした。

しかし、忙しいスケジュールが続く時ほど、リストを書くこと、それを確認することを忘れてしまうのは、もう仕方がないと諦めている。

メモ帳を毎回ちぎるのも無駄な気がしたので、いまは打ち合わせ用のノートに記すようにしている。
しかし、それでもまだ何かを払い忘れたり、送るのをついうっかり忘れたりしている。

今週は大きな撮影が続いていて、久しぶりにノートを開いたら、先週のリストが未達成のままそこに残っていた。

しかし、以前はあれやらなきゃいけないなあと、いつも考えてはもやもやしていたのが、ノートに書くだけで頭や心からはちゃんと離れているものだと思った。
少し心が軽くなっている。

皆さまもぜひ、日々のリストや気がかりなことを書き出すことやってみてくださいね。

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麻生要一郎さん

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あそう・よういちろう 1977年、茨城県水戸市生まれ。日々無理なくつくれる手軽なレシピの提案やエッセイを執筆。広いキッチンのあるスタジオでは、気の置けない友人たちを招いて食卓を囲んでいる。著書に『僕が食べてきた思い出、忘れられない味 私的名店案内22』(オレンジページ)などがある。