私らしく。 by 再春館製薬所

不調を整える薬膳ごはん入門 #03

有井博さん
季節に応じて身体を整える。むくみ解消に効く冬瓜のスープ

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「なんとなく調子が悪い」。そんな身体の声はついおろそかにしてしまいがち。でも、毎日をもっと軽やかに過ごすには、小さい不調も早めにケアしたいですよね。心と身体をいたわる食養生法【薬膳】を学ぶシリーズ第3回。今回は「彩膳中華 杏ZU」の有井博さんに季節の薬膳についてお話を伺いました。

2千年以上前の人たちは
健康寿命が100歳だった?

「名古屋の丸の内って、実は薬の街なんですよ。この辺りには製薬会社がものすごくたくさんあって。なぜかというと、日本を代表する植物学者が昔住んでたんですね。薬草園やお花畑もあって、自然が豊かな場所だったそうです」

教えてくれたのは、この街で25年間にわたって薬膳料理の店「彩膳中華 杏ZU」を営む有井博さんです。オープン当初の看板メニューは餃子。一般的な中華料理店でした。しかし3年ほど営業を続けていくうちに、世の中の食に対する考え方に変化を感じるようになります。

「歴史ある薬膳の考え方を若い人にもきちんと伝えていきたい」と有井さん。お店では入門から資格の取れる講座まで幅広く開催しています。

「オフィス街ということもあるのか、不調を抱えているお客さんが多かったんです。あとは世の中的にも健康への意識が高まっているなというのは感じていて。これから食に求められるものってなんだろう? というのは考えていました」

たまたま見ていた料理雑誌で薬膳講座の情報を見つけた有井さんはすぐに参加。勉強をしてみると、その面白さにのめりこんでいったと言います。
「薬膳を学ぶ上でバイブルといわれている『黄帝内経素問(こうていだいけいそもん)』という中国最古の医学書があるんですけど、それが書かれたのっていまから2300年くらい前なんです。でも読んでみると、現代の人にも当てはまることばかり書いてある」

「時々読み直すんですけど、何度読んでも面白いです」と有井さん。入門者に優しい漫画版も出版されています。

本の冒頭部分は
「昔の人は心身共にすこやかで100年の寿命を全うできたと聞くが、なぜ今時の人は50歳で衰えるのか......」「近頃の若い者は、酒を果汁のように飲み、身体に疲労を重ね......」
と始まります。

「何千年も前の人たちも、健康的に長生きしたいという気持ちは同じだったんだと思うと面白いですよね。こういう考えから薬膳がうまれて、誰かのために食事がつくられていた。それがまだ現代も生きていて見直されているってすごいことだと思うんです」

有井さんは薬膳を学んでいくうちに「飽食、ぜいたく、美食の時代だからこそみんな体調を崩してしまっているのでは」と思うようになります。もちろん、世の中の風潮がそれをもてはやした時代だったともいえるでしょう。

有井さんは、「いま一度食の本質を見直していくべきなのではないか——」と、提供する料理が変わっていったのだそうです。

「昔の中国の人たちは、食べ物が身体を整えてくれる働きをもっていることを知っていました。だから、体調を崩したらまずは食事で対処する。食って本来そういう役割があるわけですよね」

現在「杏ZU」では、中華料理をベースにした薬膳料理がいただけます。季節の食材を生かしたメニューは自家製の塩こうじや天然塩などを使用していて、どれも優しい味わいです。

ランチでいただける油淋鶏セット。たれには、気のめぐりをよくしてくれるショウガとネギ、消化を助けてくれる山査子(さんざし)が使われています。通常のものと大豆ミートを使用したものと2種類から選べます。

不調にならないよう
予防できるのも薬膳

有井さんが料理をつくる上で一番大切にしていることは「季節」だと言います。しかし私たちは、「いまの季節は?」と問われても、はっきりとは答えられないのではないでしょうか。真夏や真冬のようにわかりやすい季節ばかりではなく、季節の変わり目って、春? 夏? いまはどっちだろう? って思いますよね。

「春といっても、始まり、真ん中、終わりと三つに分けられます。春の始まりは立春。2月なんですね。この時季は体感としてはまだ寒いですよね。でも、植物に目をやればつぼみをつけ始めていたり、市場にいけば春の野菜が出ている。つまり『これから来る春の準備をしましょう』というのを自然が教えてくれているんです」

『黄帝内経素問』には「夏、日が長い季節は遅めに寝て朝は早く起きる」など自然のリズムに合わせて生活をすることが繰り返し説かれているんだ。日々を快適に過ごすためには、「食べ物だけ」に気を付けるのではなく、生活全体を整えることが大切なんだね。

不調に合わせて食材や調理方法を取り入れる薬膳もありますが、有井さんが実践しているのは予防の薬膳。これからやって来る季節にむけて、体調を整える食事を提案しています。

5月上旬(本記事公開時期)。これから暑さが増し、梅雨から初夏へと移り変わろうとしている時季です。
おすすめの食材を聞いてみました。
「梅雨の時季は湿気が多くなりますよね。すると、身体の中にも水分がたまり、むくみやすくなる。むくみには冬瓜(とうがん)がおすすめです。冬瓜は清熱利湿(せいねつりしつ)といって、身体の熱を冷まして余分な水分を取り除いてくれる作用があるんですね。梅雨のジメジメ、夏の蒸し暑さにピッタリの食材です」

教えていただいた冬瓜のスープ(レシピは記事下部に掲載)の材料。冬瓜は皮やワタに成分が多いため、一緒に煮るのがおすすめなのだそう。中国では中薬(ちゅうやく。中国伝統の薬)の材料にもなっています。
クチナシやハトムギも体内の余分な水分を取り除いてくれる食材。冬瓜と合わせることで、より効果が期待できます。

むくみには原因が二つあって、一つは外から身体が受ける影響。もう一つは腎の機能の低下による代謝の悪化によるもの。梅雨の季節だけ症状が出る人と一年中の人とでは、対処が変わってくるんだ。自分はどっちなのかを観察することも大切だね。

「日々をすこやかに生きるには、季節の移り変わりに意識をむけること。身体の状態を観察すること。まずはそこから」と有井さんは言います。なんだか今日はやたら喉が渇くな、いつもより汗をかくな、といった小さい変化に気付くことが大切なのだそうです。

「日々の食事に季節の食材を取り入れることは一番大切なことです。ただ、昔みたいに路地ものばかりじゃないから、確かに季節がわからなくなることもある。トマトは夏野菜ですけど、いまは一年中売ってますよね。でも、冬に食べるのが絶対駄目かって言ったら、そんなことはない。食べたい日もありますもんね。トマトが身体を冷ますぶん、温めてくれる食材も一緒に食べてバランスをとればいいんです。だから、冬にトマトを食べたい時はどうやって食べるのがいいか? という提案も私たち料理人はしなくちゃいけないのかなって思います」

食べたいものを食べることも心の養生。
長い歴史のある薬膳ですが、「こうでないといけない」と堅く考えず、上手に楽しく取り入れていきたいですね。

湿気と暑さ対策に
冬瓜の薬膳レシピ

むくみ解消に効果的
冬瓜のスープ

【材料(2人分)】
冬瓜(皮・ワタも含む).........10cm角×2個
ショウガ(薄切り).........2枚
水.........2カップ
干ししいたけ.........2個
昆布.........1枚
塩・しょうゆ・ごま油.........適量

【つくり方】
❶ 皮を剥き、ワタを取り除いた冬瓜を沸騰したお湯で15秒ほどゆでる。皮とワタは捨てずにお茶パックなどに入れておく。
❷ ❶と調味料以外の材料を全て鍋に入れ、ゆっくりと煮る。
❸ 冬瓜が軟らかくなったら調味料を入れて味を調える。
❹ 皮とワタは取り除き、器に盛る。彩りで季節の青菜(写真はピーテンドリル)をそえる。
※❷の段階でクチナシの実を入れて一緒に煮たり、仕上げに揚げたハトムギなどをトッピングしてもいい。

彩膳中華 杏ZU

  • 中華料理をベースとした薬膳料理のお店。季節の食材を生かし、天然塩や自家製こうじなどを使用した身体に優しい薬膳料理を提供。資格取得が可能な薬膳講座も定期的に開催。

    愛知県名古屋市中区丸の内1-11-28 田中屋ビル101
    TEL: 052-201-2700
    定休日:月曜

    営業時間:
    11:30~13:30(L.O)14:00 CLOSE
    17:30~20:30(L.O)21:00 CLOSE

文:竹ノ上ひとみ 写真:関めぐみ 監修:田野岡亮太(再春館製薬所)

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有井博さん

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ありい・ひろし ホテルの中国料理人を経て2000年に愛知県名古屋市に「彩膳中華 杏ZU」をオープン。名古屋辻学園調理専門学校にて薬膳講座の講師を務める。国際薬膳調理師。