アーユルヴェーダは、5000年の歴史をもつインド発祥の伝統医学です。
人間を自然の中の存在・自然と一体である存在ととらえ、自然と調和し、自然の力を取り入れて心身を整える知恵を連綿と積み重ねてきました。
同じ系譜である東洋医学・漢方とは、考え方の根本に似かよったところがあります。
アーユルヴェーダにおいても漢方においても、とりわけ食事は重要な要素です。
食事とは、自然の持つ力を体の中に取り入れる行為。
どんなものを、どんなふうに、どれだけ食べるかによって、人間の体は様々な影響を受けるのです。
この記事では、アーユルヴェーダの食事法について、体質別に詳しく解説していくのでぜひ参考にしてください。
アーユルヴェーダの3つの体質 (ドーシャ)
アーユルヴェーダでは、人それぞれの心や体のあり方を、大きく3つの体質(ドーシャ)に分類して考えます。
3つの体質(ドーシャ)とは、ヴァータ・ピッタ・カパ。
心や体はこれら3つの要素が混じり合って構成されているものと考え、特に優位なものをそのときの体質ととらえます。
それぞれの体質が持つ特徴を見ていきましょう。
いま、自分がどの特徴を強く持っているかも診断してみてください。
①ヴァータ (風) の特徴
ヴァータは風と空の性質で、「移ろいやすさ・アンバランスさ」が特徴です。
ヴァータの体質には、次のような傾向があります。
- 華奢で痩せ型、骨や血管が目立つ。
- 手足が冷えやすく、肌や唇が乾燥しやすい。
- 食べるもの・量が不規則で食欲にムラがある。大食いしても太りにくい。
- 便秘や生理不順になりやすい。
- 眠りが浅い。
- 飽きっぽく気分が変わりやすいが、好奇心旺盛で自由。
- 独創的で想像力がある。
- 初対面の人や新しい環境に順応しやすい。
②ピッタ (火) の特徴
ピッタは火と水の性質で、燃えるような「熱さ」が特徴です。
ピッタの体質には、次のような傾向があります。
- 中肉中背の体型で、筋肉質。
- 肌はきめ細かく、乾燥しにくいがオイリーになりやすい。
- 食欲旺盛で、おなかが空くとイライラする。
- 生理周期は安定的で便通もよいが、調子を崩すと下痢をしやすい。
- 汗をかきやすく、涼しい方が好き。
- 自信があり、リーダーシップに優れる。
- 企画を立て、計画的に行動する。
- ストレスが溜まるとバランスが崩れ、他人を責めやすくなる。
③カパ (地) の特徴
カパは水と地の性質で、「安定感」が特徴です。
カパの体質には、次のような傾向があります。
- 骨格がしっかりしていて、太りやすい。
- 肌がしっとりとして厚く、オイリーでなめらか。
- 食べること・甘いものが好き。
- 水分をたくさんとるとむくみやすい。
- 寝るのが好きで、深くぐっすりと眠れる。
- 話し方や動作がゆっくり、のんびりしている。
- 穏やかで変化を嫌い、安定を好む平和主義。
- 愛情深いが、貪欲で執着心のある一面も。
<体質別>アーユルヴェーダの食事法
アーユルヴェーダでは、体質(ドーシャ)に合った食事法というものがあります。
体質的に足りないものを、食事で補い、バランスをとるのです。
このような考え方は、東洋医学・漢方の考え方と非常に共通する部分があります。
ヴァータ・ピッタ・カパ、それぞれの食事法をみていきましょう。
①ヴァータの食事法
ヴァータは、風と空の性質です。
「冷たい・乾いている・軽やか・移ろいやすい」といった特徴が強いので、反対の性質をもつ、次のような食べ物で補ってバランスをとりましょう。
- 温かいもの
- しっとりとして重たいもの
- 甘いもの、酸っぱいもの、しょっぱいもの
例えば、温かいスープや煮込み料理、鍋料理、甘い果物などがおすすめです。
生野菜よりも温野菜、パンよりもお米、特にリゾットやお粥が体質に合っています。
また、ヴァータの人は「安静・安定」を意識するとよいので、ゆっくりと落ち着いて食事してみてください。きちんと座って、急がず、目の前の食事に集中して味わいましょう。食事をとる時間をできるだけ一定に、規則正しくすることも効果的です。
②ピッタの食事法
ピッタは、火と水の性質です。
「熱い・鋭い」といった特徴が強いので、反対の性質をもつ、次のような食べ物で補ってバランスをとりましょう。
- 冷たいもの
- 乾いているもの
- 甘いもの、苦いもの、渋いもの
例えば、夏野菜や、暖かい場所でとれる果物、シリアルなどがおすすめです。
油っぽいもの・肉類・刺激物などのとりすぎには注意しましょう。冷たいものといっても、アイスや氷といった極端に体を冷やす食べ物ではなく、水分を多く含む野菜や果物がおすすめです。アルコールやカフェインのとりすぎにも気をつけましょう。
また、ピッタの人は「穏やか・落ち着き」を意識するとよいので、イライラしながら食事をしないように意識してみてください。食欲旺盛で食べすぎになりやすいので、量はなるべく控えめにします。
③カパの食事法
カパは、水と地の性質です。
「冷たい・湿っている・重い・遅い」といった特徴が強いので、反対の性質をもつ、次のような食べ物で補ってバランスをとりましょう。
- 温かいもの
- 軽いもの
- 乾いているもの
- 辛いもの、苦いもの、渋いもの
例えば、スパイスを効かせた野菜のスープや蒸し野菜、焼き野菜などがおすすめです。
油分のとりすぎには特に注意して、甘いものやしょっぱいものも控えましょう。
また、カパの人は「軽さ」を意識するとよいので、食べすぎや間食、ダラダラ食べに気をつけることが効果的です。太りやすく、食べものを代謝・消化する力が弱い体質なので、少食を心がけると体調が整います。プチ断食もおすすめです。特に乳製品や砂糖、小麦などを控えると効果が出やすいでしょう。
伝統的に積み重ねられてきたアーユルヴェーダの知識は、私たちが自分自身のことを知り、快適に過ごしたり、幸福を感じたりするための道しるべとなります。管理栄養士でアーユルヴェーダ・ヨガ講師として活動する岡清華さんのお話がとても心に響く、こちらの記事もぜひご覧ください。
岡 清華さん| 「満たされない」焦りから、解放されたきっかけ
食事の際に考慮すべきこと
3つの体質(ドーシャ)に関わらず、アーユルヴェーダでは食事の際に大切にすべきといわれているポイントがあります。日々の食生活で意識してみましょう。
六味をバランスよく食べる
アーユルヴェーダでは、食べ物を6つの味(ラサ)に分類します。
それが、甘味・酸味・塩味・苦味・辛味・渋味です。
まずはこの六味、つまり色々な味の食べ物を、バランスよく食べるように意識してみましょう。
また、六味のそれぞれには、体質(ドーシャ)の要素を増やしたり減らしたりする作用があるとされます。発展的には、自分の体質(ドーシャ)に合わせて、増やしたい性質をもつ味を積極的にとるようにするとよいでしょう。
旬の食材を使う
旬の食材を積極的に食べるよう勧めるのは、アーユルヴェーダでも漢方でも共通のポイントです。
旬の食べ物は生命力にあふれ、多くの場合、人がその季節に必要としているものを含んでいます。旬の食材、それもできれば近くの土地で採れたものを食べるように意識する方法は、シンプルでわかりやすいのでおすすめです。
食べ合わせを意識する
アーユルヴェーダには、食べ合わせの禁忌とされるものがいくつかあります。
反対の性質を持つ食べ物を組み合わせると効果が打ち消されたり、変質したりしてしまう場合があるからです。
例えば、酸味のある果物とヨーグルトは、アーユルヴェーダでは食べ合わせが悪いとされます。牛乳と肉や魚、豆類とチーズや卵なども、一緒にとるのを避けるべき組み合わせです。
規則正しい時間に食事をする
体内時計のリズムを整え、消化を助けるためには、規則正しい時間に食事をしましょう。
日によって食べる時間がバラバラだったり、食べる量に大きな差があったりする食生活はあまり好ましくありません。必ずしも一般的な朝・昼・晩3食の時間にこだわる必要はないので、自分の生活リズムや消化力に合った食事の時間を決めるとよいです。
自分の消化力に見合う量を食べる
アーユルヴェーダでは、食べたものをきちんと消化しきることを非常に重視します。
自分の消化力に見合うだけの量を食べることは、もっとも大切な考え方といえるでしょう。
消化力が弱いのにたくさん食べすぎてしまうと、心身の不調を引き起こします。もちろん単純な食事量だけでなく、重たいものを食べるなら量を少なめにするなどの調整も効果的です。
できたての料理を食べる
忙しい時にはつくり置きや冷凍も便利ですが、やはり、できたての料理はエネルギーに満ちています。
決して凝った料理でなくてもよいので、なるべく調理したての食事を食べるように意識しましょう。
よく噛んでゆっくり食べる
消化力を高めるためには、よく噛んでゆっくり食べることが大切です。
また、目の前の食事にきちんと集中することも意識しましょう。テレビや動画を見ながらうわのそらで食事をすると、心がきちんと満たされません。
まとめ
アーユルヴェーダは、人間が長い時間をかけて見出してきた、経験知に基づく科学です。
その知識や手法を道しるべとして自分の心や体に向き合えば、いま、心身の健康に必要なことに気づきやすくなるでしょう。自分をいたわり、必要なものを補ってバランスをとって生きていく意識をもつと、きっと生活が変わってきます。
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