私らしく。

自然の力を、もっと身近に#12

石川えりこさん
絵本作家の思い出スケッチ。あまいよ秋の干し柿づくり

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自然のかけら

家族や親戚が集まって、わいわいと過ごした幼い頃の楽しい記憶。めぐる季節と日常風景を情感豊かに描く絵本作家・石川えりこさんに、そんな秋の思い出についてお話ししていただきました。干し柿づくりや町の様子を描いた、石川さんのイラストと共にご覧ください。

石川えりこさん

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いしかわ・えりこ 1955年福岡県嘉麻市生まれ。幼少期の体験を基に描いた『ボタ山であそんだころ』(福音館書店)で第46回講談社出版文化賞絵本賞受賞。『てんきのいい日はつくしとり』『しぶがき ほしがき あまいかき』(全て福音館書店)、『かんけり』(アリス館)、『庭にくるとり』(ポプラ社)、『ほんやねこ』『カイト』(全て講談社)など著書多数。

福岡の実家の目の前に、側溝なんですけどきれいな水が流れる「川」があって、お父さんが作ってくれた木の船を浮かべたり、水まきしたりして遊んでたんです。

八百屋のおばちゃんは里芋を洗い、魚屋のケン坊兄ちゃんはイカの皮や中骨みたいなやつを流したりして、昔はそんなに厳しく言われなかったから、みんないろんな使い方をしてましたね。

そうだ、メダカもいたんです。うちのおじいちゃんがろうけつ染めの仕上げをするのも、この川でした。いま私は東京の八王子に住んでいるんですけど、やっぱり水の近くがいいなって、川べりのマンションに決めたんですね。

7階からは川が見えて、木立が見えて、広い空がある。ベランダにブルーベリーを置いてたら、ヒヨドリとかセキレイとかいっぱい来るんですよ。季節が見えると、ほっとします。

おばあちゃんが教えてくれた
季節ごとの手仕事

実家の庭には、おじいちゃんが植えた柿とか栗、ポポー、杏(あんず)とか果物の木がいっぱいで。ブドウに凝ってたらしい頃には、テーブルを覆うようにデラウェアやマスカット、巨峰がぶら下がっていました。

育てるのはおじいちゃんで、渋柿を干し柿にするリーダーはおばあちゃん。17歳までカナダで育ったおばあちゃんは、第2次世界大戦の前に「危険だから」って日本に移されたんです。敵国になってしまった故郷(カナダ)のことは誰にも話せないまま、なんとか日本になじまなきゃって一所懸命だったみたい。

春のつくしのはかま取りや、秋の干し柿づくり、暮れの餅つきも、みんなこの庭でおばあちゃんに教わりました。家族も親戚も、毎年1回のことなのになんとなく役割が決まってて、大ベテランのようにテキパキ動くんです。あれは本当に不思議。

不思議といえば、渋柿を取るタイミングもです。お盆やお祭りなどの年中行事は、何日からこれとこれを準備するっていう段取りがしっかりあるけど、干し柿づくりは、そろそろかね、来週の日曜ぐらいかな、じゃあ竹取りに行こうかね、みたいな話が家族の間でなんとなく始まるんです。

柿の木を見上げるとわかるんでしょうね。みんなも「そろそろなんだね」って疑いもしません。めぐっている季節? 空気? に、なるがまま身を任せてる感じでしたね。

絵本って、子どもの頃の記憶を掘り下げながら描くんですね。すると、風景や色やにおい、家族の声、表情、バスの音とかケン坊兄ちゃんのさばいたおいしそうな魚とか、笑ったこと、うれしかったこと、泣きたくなったことが、映像のようによみがえってくるんです。

描きながら、あぁそっか、私はこうしてできていったんだなって思うんです。(談)

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