私らしく。

自分らしさのコツ#09

前田有紀さん
心の声に耳を澄ませて。「なりたい自分になる」方法

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私らしい、あの人

「新しい挑戦がしたい」と考えたことはありませんか。しかし、あれこれと想い描いても、なかなか踏み出せない人も多いかもしれません。テレビ局アナウンサーからフラワーアーティストへとダイナミックに人生を方向転換した前田有紀さんの場合は、「好きなことを仕事にできたら、どれだけ人生が変わるんだろう」と想像したことが最初の一歩だったといいます。右も左も分からない花の世界へ飛び込んだ先に“本当の自分”を見つけたという前田さんのまっすぐな言葉には、働き方だけに留まらない、「なりたい自分になる」ためのヒントが詰まっていました。

前田有紀さん

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まえだ・ゆき 10年間アナウンサーとしてテレビ局に勤務した後、花の勉強をするため半年間イギリスへ留学。帰国後、東京の花屋で3年間修行したのち独立。「花の裾野を広げたい」と2018年に移動販売やポップアップを軸としたフラワーブランド『gui(グイ)』を立ち上げ、2021年には東京・神宮前に実店舗のフラワーショップ『NUR(ヌア)』をオープン。著書に『染めの花 フラワーデザイン図鑑』(誠文堂新光社)がある。2022年より“好き”を軸にした生き方を応援するオンライン講習会「好きを仕事に研究会」を主宰。

順風満帆なキャリアを捨て
未知の世界に進んだ理由

スポーツ番組からバラエティーまで、アナウンサーとして幅広く活躍していた前田さん。しかし、仕事が充実すればするほど、不規則な生活が続き、だんだんと「暮らしがおろそかになっていった」といいます。そんな時、始めたのが「自宅の部屋に花を飾ること」でした。

「自然の世界が飛び込んできたようで、部屋が明るくなったんです」

"秒"で進んでいくテレビの世界に身を置く中で、四季の移り変わりをゆっくりと感じられる花や自然の世界へ惹かれていったという前田さん。しかし、当時を振り返ると、その頃はまだアナウンサーから異業種への転職は珍しく、安定した"レール"から外れることの不安や恐怖があったといいます。

幼少期、母親が玄関に飾る季節の花を眺めるのが好きだったことが、花に興味を持つきっかけだったという前田さん。
幼少期、母親が玄関に飾る季節の花を眺めるのが好きだったことが、花に興味を持つきっかけだったという前田さん。

それでも、仕事を通して出会ってきた、アスリートをはじめ"好き"を極めて仕事をしている人たちの目の輝きに刺激を受け、「私も好きなことを仕事にしたら、どれだけ人生が変わるんだろう」と、想像を膨らませていきました。

そして不安よりも好奇心が上回った時、花の世界に飛び込む決断をした前田さん。華やかに着飾っていた日常が一変、顔も手も土だらけになりながら、大きなホースを担いで走り回る日々が始まります。

「それでも、ふと鏡を見た時に『今の方が自分らしい』と思ったんです。そう気づいたら、花の世界で生きていく腹が据わりました」

常識にとらわれず、
「自分軸」で人生を設計する

そんな経験を経た前田さんだからこそ、決断する時は「自分の気持ちをベースに考えること」が大切といいます。

そのため、第一子を妊娠した時も、前田さんは仕事を休むのではなく、「独立・起業」という道を選びました。

「花の仕事がすごく楽しかったし、どうしても手を止めたくなかったんです。一般的には妊娠したら休む人が多いかもしれません。私も、会社員のままだったらそうだったかもしれない。でも、思い切ってやってみたら意外とできることもあるんだなって」

起業し、まずはたくさんの人に花との接点を持ってもらおうと、フラワーブランド『gui』を立ち上げ、移動販売を中心とした活動を始めた。
起業し、まずはたくさんの人に花との接点を持ってもらおうと、フラワーブランド『gui』を立ち上げ、移動販売を中心とした活動を始めた。

割り振られた仕事をこなすという受け身の働き方が、起業してからは何をするにも自分次第。すべて自分で決めて、自分で動く。受動から能動になったことで、考え方や行動まですべてが変わり、「見える景色が鮮やかになった」と話します。

世間のルールや常識にとらわれず、「自分はどうしたいのか・どうありたいか」を自問自答しながら、決断軸を自分に置く。周りと比べることをやめて、勇気を出してレールから一歩外れたことで、「なりたい自分」の姿を見つけた前田さんの言葉には、おだやかな中に揺るがない信念を感じます。

イギリスに留学し、半年間ガーデナーのインターンとして働いていた前田さん。「現地では性別、世代、都会・田舎住まいに関わらず、あらゆる人にとって花や自然が当たり前に身近であることが新鮮だった」と話す。(写真提供:前田さん)
イギリスに留学し、半年間ガーデナーのインターンとして働いていた前田さん。「現地では性別、世代、都会・田舎住まいに関わらず、あらゆる人にとって花や自然が当たり前に身近であることが新鮮だった」と話す。(写真提供:前田さん)
イギリス滞在中はさまざまな庭を巡るガーデンツアーにも参加し、オンもオフも自然に触れる時間を過ごしたそう。(写真提供:前田さん)
イギリス滞在中はさまざまな庭を巡るガーデンツアーにも参加し、オンもオフも自然に触れる時間を過ごしたそう。(写真提供:前田さん)

こうした自分軸を持つための方法として、前田さんは自身の経験を振り返りながら、「まずは『自己分析』をしてみるのがいい」と続けます。

わくわくする未来を想像して
まずは"小さく"始めてみる

前田さん自身も、会社員時代から好きなことや、"こうなったら楽しいな"と思うことをノートに書き出していたのだそう。そうすると、自分の大切にしたい気持ちが可視化されて、「なりたい自分」を知るヒントになるといいます。

そして、先のアナウンサー時代の経験から「都会の生活に花を届けたい」という想いに至った前田さん。そんな想いを叶えるために考えた方法の一つが、好きなブランドや企業とのコラボレーションでした。

webメディア『ほぼ日刊イトイ新聞』と『gui』のコラボレーションで生まれた、ドライフラワーやブリザーブドフラワーを詰め込んだフラワーボックス。(写真提供:前田さん)
webメディア『ほぼ日刊イトイ新聞』と『gui』のコラボレーションで生まれた、ドライフラワーやブリザーブドフラワーを詰め込んだフラワーボックス。(写真提供:前田さん)

「自己分析」の末に「なりたい自分」を知ることで、自ずと次のアクションが見えてくる。起業当初から自ら売り込みや問い合わせをして、コラボレーションを実現していった前田さんは「まずは小さな一歩でも、行動に移すことが大事」だと話します。

「行動しなければ出会えなかった景色がたくさんあるなと、つくづく思います。好きなことを仕事にしたいけど、なかなか一歩が踏み出せずにいる人も多いかもしれません。それでも、まずはわくわくする未来を想像することから始めてみてほしい。すべてはそこから始まると思うんです」

自身の体験をシェアしながら、好きなことを軸に仕事や生き方を変えていきたいと考える人たちの選択肢を広げるお手伝いがしたいと「好きを仕事に研究会」を主宰。セミナーでは徹底的に自己分析を行う。(写真提供:前田さん)
自身の体験をシェアしながら、好きなことを軸に仕事や生き方を変えていきたいと考える人たちの選択肢を広げるお手伝いがしたいと「好きを仕事に研究会」を主宰。セミナーでは徹底的に自己分析を行う。(写真提供:前田さん)

「今は本業以外にもいろいろな肩書きを持っていていい時代。白か黒、0か100ではなく、仕事とは別に週末に好きなことを始めるのもいいし、何か発信してみるのもいい。まずはできることから行動を起こして、『なりたい自分』に少しずつ近づいていけるといいですよね」

自分の「これが好き」という気持ちに耳を傾け、その想いに蓋をせず人生を切り拓いてきた前田さんは今、さらなる挑戦を始めています。それは、花を通じた社会へのアクションです。

もらった恩を還すことで
生まれる"小さな幸せ"

花を仕事にして10年。「これからは花や自然からもらった恩恵を、地域や次世代に還していきたい」と話す前田さん。

そう考えるようになったのは、各地の花農家さんへ足を運び、直接話を聞いたことがきっかけだったそうです。

「皆さん口を揃えて、『気候変動の影響で本来咲く時期に咲かないことが増えてきた』といいます。それは、規格外や季節はずれのため出荷・販売ができず、廃棄せざるを得ない花が増えてしまうということ。そういう声を聞くと、私たちはただ花を仕入れて消費しているだけでいいのかなと、考えさせられました」

前田さんがオーナーを務めるフラワーショップ『NUR』では、「1輪でも飾って楽しめるような花」を中心にセレクト。
前田さんがオーナーを務めるフラワーショップ『NUR』では、「1輪でも飾って楽しめるような花」を中心にセレクト。

こうした想いから、現在は花の販売や装飾に加えて、廃棄される花を少しでも減らして活かすための"フラワーロス"の活動や、花を有効活用する子ども向けのワークショップなどを積極的に行っています。

「農家さんたちが愛情を込めて育てた花をなるべく捨てたくない、捨てる量を減らしたい」との想いから始めたフラワーロスの活動。装飾に使用したものや、販売用としては鮮度が過ぎてしまった花を、児童養護施設や子育て支援施設に寄付している。(写真提供:前田さん)
「農家さんたちが愛情を込めて育てた花をなるべく捨てたくない、捨てる量を減らしたい」との想いから始めたフラワーロスの活動。装飾に使用したものや、販売用としては鮮度が過ぎてしまった花を、児童養護施設や子育て支援施設に寄付している。(写真提供:前田さん)
二児の母でもある前田さんは、自身の経験から「子どもたちがもっと自由に花と触れる機会をつくりたい」と、企業などと連携しながら子ども向けワークショップを開催。「親御さんにも周囲を気にせず楽に息抜きできるような場をつくり続けていきたいです」(写真提供:前田さん)
二児の母でもある前田さんは、自身の経験から「子どもたちがもっと自由に花と触れる機会をつくりたい」と、企業などと連携しながら子ども向けワークショップを開催。「親御さんにも周囲を気にせず楽に息抜きできるような場をつくり続けていきたいです」(写真提供:前田さん)

最後に、前田さんは花を飾ることも、花を通じた社会活動も「"小さな幸せ"を集めるようなこと」だと話してくれました。

一輪の花を飾ることで、大きな変化が起きるわけではないけれど、ひとときだけでも気持ちが安らいだり、誰かを想うやさしい気持ちが芽生えたり。そうした心の作用が、日々の暮らしをちょっと良くしてくれるのだといいます。

将来の自分の姿がすぐに想像できなくても、自分にとって心地よい状態は何かと想いを巡らせてみる。そんなことからも、「なりたい自分になる」ためのヒントが見つかるのかもしれません。

何か新しいことに挑戦したいと思った時、経験のなさや世間の常識、他人と比べて不安を感じるのは誰しもあること。だからといって、せっかく芽生えた"やってみたい"という気持ちに蓋をせずに、まずは小さなことから行動を起こしてみることが、自分の可能性を拡げることにつながるんだね。

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