私らしく。

つながる絆#03

FIL
森の恵みが叶える2つの循環と、本当の「満たされる」の意味

relation しあわせの連鎖| # # # #

しあわせの連鎖

「魅力がないと思われるもの、見捨てられているものに新たな価値を生み出すものづくり」をテーマに、穴井俊輔さん・里奈さん夫妻が手がける『FIL(フィル)』。地元・熊本産のスギ材を活かした新しい林業の形は、次世代につながる「循環」で実現する共生活動でした。「心が満たされる」という意味を込めたそのブランド名の背景にある、意外なエピソードについても語っていただきます。

FIL

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フィル 小国杉(おぐにすぎ)を使ったさまざまな製品を開発する株式会社Foreque(フォレック)が運営する、インテリア・ライフスタイルブランド。祖父の時代から続く小国杉の製材所(有限会社穴井木材工場)を営む穴井俊輔さん(左)・里奈さん(右)は、2017年に『FIL』を立ち上げ、スギ材の家具やエッセンシャルオイルなどを制作・販売している。2023年5月には、新たな事業として南小国町にカフェ『喫茶竹の熊』をオープン。

枝葉も皮も循環利用し、
地域と共生し育む「新たな価値」

ここは熊本県北東部の南小国町、竹の熊集落。植林・伐採をおこなう林業の町として、250年も前から森林とともに生きてきた地域です。

穴井俊輔さん・里奈さん夫妻が展開するブランドの一つである『FIL』の特徴は、阿蘇南小国エリアの特産である小国杉を使ったものづくり。森の資源を余すことなく循環利用しています。

代々、穴井家が管理する山。手入れされた森には俊輔さんの祖父や曽祖父が植林した小国杉が。
代々、穴井家が管理する山。手入れされた森には俊輔さんの祖父や曽祖父が植林した小国杉が。

その代表例の小国杉エッセンシャルオイルは、伐採時に廃棄されるスギ材の枝葉を集めて葉から抽出したもの。精油を蒸留したあとの残りかすは、堆肥や地元の製材所の熱エネルギー源として活用。

灰は土壌改良剤として畑にまいたり、釉薬の材料として陶芸家に提供するなど、地域や自然と共生する活動をおこなっています。

価値を見出されなかった葉に光を当てたエッセンシャルオイル。一般的なスギの精油と異なり、柑橘系に近い香りが特徴。
価値を見出されなかった葉に光を当てたエッセンシャルオイル。一般的なスギの精油と異なり、柑橘系に近い香りが特徴。
丸太として製材される際に切り落とされるスギの葉。
丸太として製材される際に切り落とされるスギの葉。

この姿勢はものづくりや活動の内容を決める時にも。『FIL』として「何をするか」よりも「この人となら、何ができるか」とあくまで人ありき。

そうすることで、「自分たちだけではなく、関わるすべての人がともに進んでいけるように」と俊輔さんはいいます。

“足るを知る”の原点は、
イスラエルでの“逆説的”な経験

そうした二人の活動の根底には、20代の時、留学のために訪れたイスラエルでの経験があります。

向かった先の砂漠地帯の集落は、現地でも「大きな木を植えることは、ひとつの国を作る(ほど大変な)こと」といわれる過酷な環境。しかしだからこそ、そこで聞いた言葉に俊輔さんは感銘を受けたといいます。

小国杉について解説する俊輔さん。「製造業といわれることもありますが、林業だと思っています」
小国杉について解説する俊輔さん。「製造業といわれることもありますが、林業だと思っています」

「そこで出会った人々は『自分たちはここで生きていることに意味がある』というんです。だから、決して思い通りにはいかない環境でも、何かを生み出そうとする。そんな人々の姿をみて、できないことなんてないんだなと思いました」(俊輔さん)

和建築の屋根の下地に活用するスギ皮は手作業で剥がす。自然からの恵みは無駄にせず活かしている。
和建築の屋根の下地に活用するスギ皮は手作業で剥がす。自然からの恵みは無駄にせず活かしている。

例えば現地での農作業は、水が豊かな日本と比べて大変なことも多いが、それでもみんなが互いを助けあいながら、限られた資源を次世代につないでいく。そんな姿に、心が満たされるような豊かさを覚えたという穴井さん夫妻。

帰国後、その「満たされる」感覚を南小国でも体験してほしい、と『FIL』を立ち上げました。

海の生態系を支える、南小国の森
「林業の循環」を次の世代に

イスラエルの経験から、二人は改めて南小国の環境に目を向けます。

「ここの集落を流れる小さな川は筑後川となり、やがて海に注ぎ込みます。その際、南小国の森から生まれる有機物が海の豊かな生態系を支えています。環境のためには、この地の森や地域を守らなくてはいけないと気づいたんです」(里奈さん)

山の伏流水と豊富な地下水に恵まれた、南小国ののどかな田園風景。山からの湧き水が田畑をうるおし、川となって海に注ぐ。
山の伏流水と豊富な地下水に恵まれた、南小国ののどかな田園風景。山からの湧き水が田畑をうるおし、川となって海に注ぐ。

林業は環境を守るために欠かせない産業。魚釣りが大好きな夫妻の子どもたちはしっかりと受け止めているようで、最近では林業を継ぎたいというようになったそう。

夫妻の想いは、次の世代にもしっかり引き継がれています。

「ブランドの本質」を体感できる、
あらゆる人が集うカフェをオープン

また俊輔さんは、全国や海外からも南小国を訪れてほしいと、集落に『喫茶竹の熊』というカフェを建設しました。

小国杉と清らかな水をふんだんに活かした設計の『喫茶竹の熊』。目の前に広がる田園風景や水庭を眺めながら、開放的な板の間で料理や飲み物を楽しめる。
小国杉と清らかな水をふんだんに活かした設計の『喫茶竹の熊』。目の前に広がる田園風景や水庭を眺めながら、開放的な板の間で料理や飲み物を楽しめる。

カフェの一部はオープンで壁がなく、あえて照明もつけていないのだとか。

竹の熊集落に建設した『喫茶竹の熊』の上棟式には、大勢の地域住民が集まった。地元の子どもたちも参加し、大人にまじって体験することで、風土愛が育まれる。
竹の熊集落に建設した『喫茶竹の熊』の上棟式には、大勢の地域住民が集まった。地元の子どもたちも参加し、大人にまじって体験することで、風土愛が育まれる。
親子三代が守り育てたスギは、穴井夫妻が手がけた『喫茶竹の熊』の屋根を支える梁に用いた。スギ皮は屋根の下地に。
親子三代が守り育てたスギは、穴井夫妻が手がけた『喫茶竹の熊』の屋根を支える梁に用いた。スギ皮は屋根の下地に。
地元に暮らす16歳の少年も、大工から手ほどきを受け、屋根のこけらを葺く作業にとりかかる。
地元に暮らす16歳の少年も、大工から手ほどきを受け、屋根のこけらを葺く作業にとりかかる。

「電気がない、だからこそ"足るを知る"ような発見をしてほしい。自分たちが海外でもらった感動を、この場所で伝えていきたいです」

喫茶竹の熊

南小国の美しい田園風景の中にあるカフェ。建築・器・料理に至るまで、穴井さんらが製材した小国杉をふんだんに活用。四季折々の眺めと、地域の旬の食材で作る食事や飲み物が楽しめる。

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