私らしく。 by 再春館製薬所

白央篤司さん
自分の料理に飽きてしまった時、しんどい時の、復活レシピ2品

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ストーリー

楽しいばかりではない毎日のごはんづくり。料理をするのがつらくてたまらない日だってあります。今回は、食にまつわる日常を書いたエッセイが人気の白央篤司さんに、そんな時の対処法を尋ねてみました。

「家事としての料理って楽しい日もあるけど、しんどい日もある」。料理の楽しさや食への愛を綴(つづ)った料理本は山ほどあるけれど、コラムニストの白央篤司さんが綴る本には泣き言や弱音ばかり。

2人暮らしの炊事担当になったらいままで楽しかった料理がとたんに"任務"になってつらくなったと赤裸々に嘆けば、牛カルビで胃もたれした時には加齢とともにあらわれた胃腸の変化に「老化は平等って、本当だったんだ」と肩を落とす。

フードライターという仕事をしながら、食にまつわる日常をありのまま綴ったエッセイが読者の大きな共感を呼んでいます。

使い込んだ味わいのあるガラス棚と、さわやかな色彩の器との組み合わせ。下段には、日常使いの土ものの皿が収められていました。

1975年生まれの白央さんは、出版社で雑誌編集者として勤めた後、30歳でフードライターになります。1999年にレシピサイト「クックパッド」がスタートして6年後のこと。

レシピが紙からネットへと移る黎明期(れいめいき)に、ウェブマガジン「メシ通」から声がかかり、リポーターとしてウェブ編集にも携わるようになります。

簡単なだけのレシピは
ウェブで注目されない

「いざやってみたら、食雑誌でウケることがウェブだと全くウケないんです。インターネットの中では、家庭料理の何が求められているのかわからなくて」

しかしその後、白央さんはスープ作家・有賀薫さんの「かんたん豆乳スープ」を取材して、初めて"バズる"を体験します。バズるとはSNS上で話題になって、多くの人から注目、拡散されるという意味。

カップ1杯の豆乳と卵1個を電子レンジでチンして、最後に麺つゆを加えるだけ。レシピは瞬く間に拡散されて、日本中を駆けめぐりました。

「これくらい簡単でなおかつ面白い、やってみたいと思わせるものじゃないとウケない。これは面白い時代がきたと思いました」

冷凍技術が向上したこともあり、「便利な冷凍野菜を使わない手はありません。高騰している時だからなおさらです」と白央さん。

ウェブ記事だと閲覧数や拡散された数が瞬時に集計されます。白央さんはその"数"で日々鍛錬しているうちに、ネットでレシピを探しているのは料理をつくるのが好きな人だけじゃない、つくるのがつらいという人や、おいしさよりも手間が少ない方がいいと考える人たちもいることを知ります。

「料理をつくりたくない日は、たまにはケンタッキーだっていいじゃない。共感を得るのは自分の気持ちをどうやって楽にするかという話。共感のないただ簡単なだけのレシピだと全く反応がない。"おいしそう"の次に"楽しそう"がないとだめなんです。フリーになって10年くらい、40代になってようやくわかるようになってきました」

心がつらい時に
あえて料理をつくるなら

30代の終わりから始めた「料理をつくって、SNSにあげること」が仕事につながっていき、いまでは暮らしと食を題材にした食エッセイや料理本の著書が12冊。人気コラムニストとして活躍しています。

そんな白央さんにズバリ聞いてみました。「日々の料理に飽きてしまった時、何をつくりますか?」

心がつらい時は料理をしないとキッパリ。外に食べに行ってセルフメンテナンスすることが何より大事と言います。
あえてつくるなら、その日の気力を養う料理を。郷土料理もその一つです。

「各地の定番メシって簡単な上プリミティブ(原始的)なパワーがあって、元気をくれるんです。その土地の情景を思い浮かべると気分転換にもなりますし。心に溜(た)まった垢(あか)落としみたいな気分になります」

中でもおすすめは山形のひっぱりうどんです。納豆とサバの水煮缶、刻んだ白ネギ、卵を麺つゆで和えてつけ汁にして、熱々のうどんをからめて食べる、山形人のソウルフード。

見ためは地味ですが、ちゃんとタンパク質もとれて栄養満点。サバ缶を常備して定期的に食べたくなるくらい! 一度食べたらやみつきになるおいしさです。

さらにもう一品、気力を養う料理は「飽きた日のレトルトカレー」。ここで肝心なのはレトルトで"済ます"のではなく"楽しむ"日にすること。

そんな日のために白央さんはスパイス感の強いレトルトカレーを選んで常備しています。冷凍野菜と市販の温泉卵を足したら、仕上げにカルダモンパウダーをひとふりで、思いのほかスパイス感がアップします。

「飽きがくる時って、気持ちが萎(な)えていることが多いんです。そういう時、私はスパイスでリフレッシュ。食欲を刺激して元気になります」

誰にだって日々のごはんづくりが、たまらなくつらい時があります。調子のいい日もそうじゃない日もあるのだから、そんな自分を受け入れて、「無理せず、なるたけラクに、そこそこおいしく」。これ白央さんのモットーです。

栄養たっぷりの郷土料理
「山形のひっぱりうどん」

【材料とつくり方(1人分)】
うどん1玉をゆでている間に、つけ汁を用意。器に納豆1/2パック、サバ水煮缶のサバ1切れ、小口切りした白ネギ、卵1個を割り入れ、麺つゆを注いでよく混ぜる。
うどんがゆであがったら、よく混ぜたつけ汁につけながらいただく。
うどんを引っ張るようにとりだすからひっぱりうどん。うどんの上にのせたぶっかけもおすすめ。

スパイスで一段上の味に
「飽きた日のレトルトカレー」

【材料とつくり方(1人分)】
冷凍インゲンをひとつかみゆで、ミニトマト2個は一口大にカット。
白ご飯の上に温めたレトルトカレーを盛りつけたら、野菜と温泉卵をのせて、カルダモンパウダーをひとふり。黒こしょうひとひきでさらにスパイス感がアップ。
冷凍のブロッコリーとインゲン、そして新宿中村屋の「インドカリーベジタブル」は欠かせない白央家の常備品。

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白央篤司さん

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はくおう・あつし 日本の郷土料理やローカルフードのほか、「暮らしと食」をテーマに企画、執筆。食生活の整え方と楽しみ方をゆるく唱えるエッセイが人気。最新刊は『はじめての胃もたれ 食とココロの更新記』(太田出版)。