私らしく。 by 再春館製薬所

+botanical ubu
信号がなく、人より牛の数が多い。小さな村のときめくものづくり

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ストーリー

わずか人口1300人ほどの熊本県産山(うぶやま)村で、ユニークな村の産品づくりに取り組む「+botanical ubu(プラス ボタニカル ウブ)」。植物を使った商品をつくってみようと、街から移住してきた3人の女性が集まってできたグループです。ものづくりでも暮らしの中でも、それぞれができることを生かして助け合う3人の姿を紹介します。

産山村のどこが好き?
阿蘇とくじゅう連山の自然に囲まれた村に移り住んだ3人に聞いてみると、まあ、止まらないこと。

「草原に風が渡るのが海みたいでね」
「霧が向こうからふぁーってくる」
「夜は星がありすぎて星座を結べないくらい」

武本多恵さんは家屋がわずか3軒という集落で、無農薬野菜やワイン用のブドウを自家栽培し、牛小屋を改装した創作料理レストランをご主人と営んでいます。
玉利和代さんは農薬・化学肥料・除草剤は使わずに、食べられる花やハーブを育てる名人。
石川順子さんは、身近な野草を使って芳香蒸留水や天然香水をつくっています。

それぞれが移住して5年から10年がたつ頃、「やりたいことはあるけど、何からどう手をつけたらいいんだろう」という思いが行ったり来たり、なかなか一歩踏み出せなかったそうです。

2020年、産山村の特産品開発を担当する産山村役場企画振興課の高橋明美さんが、「起業・ものづくり塾をやるけど、来てみらん?」と3人に声をかけました。

左から石川順子さん、玉利和代さん、武本多恵さん。ブルーマロウなどのハーブ、村の風土に適した固定種の野菜を育てる。「生葉とドライは香りも甘みもちがうね」と語らうのが楽しい。

「私が行ってもいいのかな?」と恐る恐るやってきた彼女たちは、同じテーブルに。知っていて、話したことはありましたが、深く話すのは初めてでした。

「私たちの共通点って、乾燥させた植物を使ってものをつくることだよね。何か一緒にできそう。とりあえず、名前どうする?」

意気投合し、「+botanical ubu(プラス ボタニカル ウブ)」というグループが誕生。
3人で話すうちに、やりたいことが言葉になっていきました。植物を使って産山村のイメージが湧くものをつくる、それが私たちの「ときめくものづくり」だよね、と。

「共同作業は苦手」でも
3人ならうまくいく

初めての商品企画、パッケージやロゴのデザインに試行錯誤を重ねること、半年余り。

多恵さんはドライ野菜をオイルに漬けて楽しむドレッシング、和代さんは花と果実とハーブのお茶、順子さんは日本固有の植物を漬けてお酒をつくるキットを商品化しました。

育てたエディブルフラワー(食べられる花)を丁寧に瓶詰めする和代さん。花やハーブを詰めた瓶を並べる姿は野草博士のようにも見えます。

多恵さんは、このグループで活動を始める前の自分をこう振り返ります。

「東京ではサボテンすら枯らしていた私に、野菜やハーブを育てる未来がくるなんて想像もしなかった。村で畑を始めて、あなたおいしいよね、って植物に語りかけるうちに信頼関係ができたみたい。次はこれ、と畑から言われる気がして。いま、私って変身してる途中なんだな、と感じるようになりました」

3人は活動2年目に、花やハーブを花束のように束ねた「ブーケティー®」を発売。熊本市内のレストランに卸し、産山村のふるさと納税返礼品にも採用されるなど、少しずつ世に広がっていきました。

自然栽培で力強く育った花やハーブを束ねた「ブーケティー」。味や香りはもちろん、お湯を注いだ時に広がる花々の美しさに心がときめくお茶です。

「もともと、共同作業なんて得意じゃないタイプ」だった彼女たちが、なぜうまくいったのでしょう。出会った時期が、女性として心身の変化が起きやすい50歳前後だったのは幸運でした。

「もう無理はきかないし、何もかも一人でやるのは限界があるから、苦手なことは得意な人に頼った方がいいと気づいて」と語る和代さん。苦手な企画書づくりは多恵さんに任せたそう。

多恵さんは「和代さんは、困ってるから手伝ってと、ちゃんと言える人。かと思えば、商品の見本を持ち歩いてイベント出店の話とか引っ張ってくる、うちの敏腕営業だよね」と笑います。

順子さんは調合した天然香水に、香りからインスパイアされた言葉を添えています。産山村の自然の不思議を感じさせる「甘露」「踊る龍」「天涯」など。

どこかミステリアスな雰囲気の順子さんは、「3人それぞれ好き勝手にしたいことをしてるから、ほどよい距離感で一緒にいられるんですよね」とポツリ。

多恵さんいわく、「順子さんは、香りと言葉の創作表現を掘り下げるうちに、自分の世界が花開いちゃったのよね」。

多恵さんとご主人が週末だけ開くレストラン「aso うぶやまキュッフェ」では、多恵さんが育てた野菜を使ったメニューを提供しています。

お互いの思いや個性のちがいを尊重し合いながら、誰かがしんどい時にはさっと手を貸す。ものづくりも暮らしも、自然に助け合えるようになりました。

夫とけんかして家出したい時は滝を見に行くんだよね、そんなこぼれ話も。
移住してから、いまなお時折感じる小さな不安や寂しさは、「おばあちゃんになってもこうしていたいね」と3人で笑いながら手を動かしていると、どこかにいってしまうとか。

住人が考える
小さな村の理想の在り方

夢に向かって踏み出したのは、彼女たちだけではありません。起業・ものづくり塾を担当した明美さんは、「正直なところ、驚きました」と話します。

水や農産物といった産山村産の恵みを使って、「ここにしかないものをつくりたい」と思いを温めてきた人たちがこんなにたくさんいたなんて、村に生まれ育ったのに知らなかった、と気づいたそう。

左から、明美さん、和代さん、多恵さん、順子さん。「明美さんがいなかったら、私たちは商品なんて形にできなかった。ひそかに、4人目のメンバーかな」。

「産山村は平成の市町村合併の波に乗らず、小さな村として自立して生きていくと村人たちが決めたんですね。彼らの背中を少しでも押すことができたら。無理をして大きくならなくてもいいので、自分がやりたいことで稼ぎながら、楽しく暮らせる小さな村のままであり続けてほしいんです」

ほんの少し勇気を出して、やりたいことを声に出してみることで、知恵を貸してくれる仲間や、いいね! と支援してくれる人との出会いが広がっていきます。

思いの種をまくことで、自分と周りを取り巻く景色は豊かに実っていく。きっと誰もができるはずと、小さな村が教えてくれるようです。

更新

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プラスボタニカルウブ 植物を使って産山村のイメージが伝わるものをつくる3人のグループ。同村の産品開発の活動と商品群は2024年度にグッドデザイン賞を受賞。商品の情報は「産山産」のホームページでも見ることができます。