私らしく。

おやつ、みたいなもの#02

COLUMN 心のおやつ| #おやつ、みたいなもの

高いところ、ほんとうは好きなんじゃ?

体や心が疲れたとき、
少し立ち止まって休憩したいとき、
そんなときに読むと、ふっと心が軽くなる。
ばななさん流の「おやつ」な一皿を。

吉本ばななさん

よしもと・ばなな 1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版されている。近著に『ミトンとふびん』(新潮社)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

高いところ

ホテルの高層階に泊まると、寝ている間じゅう、なんとなくもぞもぞする。
街の音が下の方から聞こえてくることや、窓の外に地面が見えないこと。ふわふわ浮いたような気分になってくる。
タワーマンションの高層階に住んでいる友だちの家に遊びに行くと、二時間くらいでそわそわして帰りたくなってくる。
それは私が高いところが苦手だからだろう。吊り橋とか、展望台とかに行くと、いつも半泣きになる。

それなのに、どうしてだろう。
たまにどうしても高いところ、見晴らしがいいところに行きたくなる。途中の階段や坂道はやっぱり怖くて、歩いていてもずっとドキドキしているのに、登りきってしまってはるかな空が見えたり、湾全体を見晴らせたり、光と影が景色をしましまに分けているのを見たりすると、心が満たされる。

だから私の旅の写真はやたらに高いところに登っているものが多く、見た人にはいつも「高いところや崖が好きなんですね」と言われる。違うんです、正反対なんです、そう言いながら、少しだけ思う。
いつもなるべく地べたに近いところにいようとするから、たまに鳥のように、ドローンのように、飛翔して俯瞰した世界を見たくなるのかも。
心に栄養をもらえるような見晴らしを求めてしまうのかも。

写真:砂原 文 本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
10年以上通い続けるハワイ・モロカイ島の見晴らし台からの一枚。
早朝、雲からのシャワー(雨)が、海と空の幻想的な境界線を生みました。