私らしく。

おやつ、みたいなもの#03

吉本ばななさん
思わぬ形で、
遊びが心を整える

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

体や心が疲れたとき、少し立ち止まって休憩したいとき、
そんなときに読むと、ふっと心が軽くなる。
ばななさん流の「おやつ」な一皿を。

吉本ばななさん

  • note

よしもと・ばなな 1964年、東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『はーばーらいと』(晶文社)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

区切り

頭がくらくらするような忙しさの中とか、長いインタビューを受けた後とか、どうにも気持ちが切り替えられないことがある。
そんなとき、猫と遊ぶとすごくすっきりする。
うちの猫はなぜか遊ぶ場所を決めていて、私を見かけるとそこに誘導する。しっぽをぴんと張って、なぜか誇らしげに。
そしてキャットタワーの上に登って、私が手でじゃらしてくれるのを待っている。
決して無視できないくらいにいっしょうけんめい待っているので、その様子がかわいくて遊び始める。
まだやることがいっぱいあるんだけど、と思いながら。

猫は何回同じ遊び(手を出したり引っ込めたりして捕まらないようにするだけ)をしても、決して飽きることはない。でも、こちらがやる気なく遊んでいるとすぐわかる。だからなるべく本気で遊ぶ。ちょうど小さい子と遊ぶときと同じで、同じことを何回くりかえしてもこちらが本気ならあちらも楽しい。
ずっと手を上げて遊んでいるわけだから先に疲れてしまうのは私のほうで、「脇の下が痛い、もうおしまい」と言って猫を撫でて立ち去る。頭を撫でるのが終わりの合図だ。
猫はしっぽをぶんぶん振ってつまらなそうにするんだけれど、私はすっかり頭が切り替わって新しい気持ちで歩き出している。

写真:砂原 文 本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
猫って指をこうして出すとかならずほっぺをこすりつけてくる。
それは、「仲間だね」の合図。

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