休憩
一年前に骨折をして、たくさん歩くとまだ右足が痛くなる。
しかし、街を歩くということは、もう五千歩だからここで歩くのを終わりましょう、というわけにはいかないということだ。
いつ痛くなるかわからないので、だましだまし歩くしかない。
最近の都会にはちょっとしたベンチとか、座れるほどの幅がある花壇がほとんどない。ああ、だから年配の方々は座れるショッピングカートみたいなものを持っているんだなと納得する。
まだそれを持つまではいかない私は、立ち止まって壁にもたれたり、コーヒースタンドでコーヒーを買って少し休憩する。
痛みとは不思議なもので、止まっているとうそのように消える。これなら全然歩けるな、と思うとまた痛みが生じたり。
そんなときに立ち止まると、空がよく見えたり、街の人々の年齢層や雰囲気が時間帯によって全然違うということが見えてくる。
街には道が血管みたいに張りめぐらされていて、人はそこを血液みたいに流れていく。ときにはさらさら、ときには滞りながら。
それを眺めていると、不思議と自分もまた生きている街の一部だと思えてきて、元気が出てくる。
ゆっくりしか進めないのも、悪いことばかりじゃないなと思う。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
ポートランドのコーヒーショップにて。
友人でもあるオーナーのJoel手づくりのカヌレが絶品なんです。
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