レモンの苦味
イタリアの南のほうに行くと、リモンチェッロという食後酒がひんぱんに出てくる。レモンの皮と砂糖でできているそのお酒はアルコール度数も高くすごく甘いけれど、奥の方に心地よい苦味があり、消化によいそうだ。
たいていは自家製で、その家特有のレシピで作られている。レモンの皮の剥き方、皮の裏の白いところをどのくらい入れるか、砂糖の量、どのくらい発酵させるか、家によって違うという。
ちょうど日本における梅酒みたいな感じなのだろうか。
満腹になってしまいデザートを食べられなくなっている私に、ちびちび飲むそのお酒の甘味はすごくいいものだった。
あのお酒のことを思い出すと、少し酔ってホテルまで歩く道の美しさが思い出される。
よく行く近所のピッツェリアにリモンチェッロがあったので、昨今なかなかイタリアに行けないから、懐かしく思って食後に頼んでみた。
ひとくち飲んだら、ものすごく苦くて違う味がした。奥のほうにレモンを感じないわけではないけれど、おかしいなと思ってグラスを置いた。すると店の奥から店の人がすごい勢いで走ってきて「お客さま飲まないでください、そのビン、長く置きすぎてアルコール度数がとんでもないことになっていました!」と言った。
新しくてちゃんとおいしいのをすぐ開けてくれたけれど、日本ではそのくらいオーダーが少ないのか、と淋しく思った。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
写真は、ヨーロッパのマーケットでのワンシーン。
野生み溢れるレモンは豊かな香りがしました。
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