私らしく。

おやつ、みたいなもの#11

吉本ばななさん
心まで温まる
真冬の体験

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

体や心が疲れたとき、少し立ち止まって休憩したいとき、
そんなときに読むと、ふっと心が軽くなる。
ばななさん流の「おやつ」な一皿を。

吉本ばななさん

  • note

よしもと・ばなな 1964年、東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『はーばーらいと』(晶文社)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

熱く甘い

ヘルシンキに行ったとき、その未知の寒さに私の体全体はびっくりしていた。
ただ寒いというだけで疲れるなんて、知らなかった。
足から登ってくる寒さに全身が危機を感じるのだ。

だからたまにお店に入って冷えを抜かないと、だんだん頭まで働かなくなってくるような感じがした。初めての体験だった。湿気がないからあまり冷えた気がしていないのに、店に入って暖房に触れると、自分の手足耳がこんなにも凍えていたなんて、とびっくりした。
雪も降ってないのに道がコチコチに凍っているというのも初めて経験した。
裸足の犬がそこを散歩しているのを見て、すごいなあと思った。

ほとんど甘いものを食べない私だが、切実に体が欲していたのだろう、旅の間何回かホットチョコレートを飲んだ。
それは日本で飲むのとは違う、直接に胃と心を温める命の飲みものだった。八十代と思われる人たちが、古めかしいカフェで静かにそれを飲んでいるのを見たら、世界共通の何かを感じた。ちょうど日本でおじいちゃんおばあちゃんがぜんざいを食べているのと同じ雰囲気が漂っていたから。
あの気持ちが懐かしくて、寒い日にたまにホットチョコレートを飲んでみるんだけれど、何かが違う。いつかまたあの街で飲みたい。

写真:砂原 文 本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
2020年の新年に訪れた北海道十勝岳。
まっさらな新雪に心洗われるようでした。
ひとつだけ見つけた雪の結晶です。

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