熱く甘い
ヘルシンキに行ったとき、その未知の寒さに私の体全体はびっくりしていた。
ただ寒いというだけで疲れるなんて、知らなかった。
足から登ってくる寒さに全身が危機を感じるのだ。
だからたまにお店に入って冷えを抜かないと、だんだん頭まで働かなくなってくるような感じがした。初めての体験だった。湿気がないからあまり冷えた気がしていないのに、店に入って暖房に触れると、自分の手足耳がこんなにも凍えていたなんて、とびっくりした。
雪も降ってないのに道がコチコチに凍っているというのも初めて経験した。
裸足の犬がそこを散歩しているのを見て、すごいなあと思った。
ほとんど甘いものを食べない私だが、切実に体が欲していたのだろう、旅の間何回かホットチョコレートを飲んだ。
それは日本で飲むのとは違う、直接に胃と心を温める命の飲みものだった。八十代と思われる人たちが、古めかしいカフェで静かにそれを飲んでいるのを見たら、世界共通の何かを感じた。ちょうど日本でおじいちゃんおばあちゃんがぜんざいを食べているのと同じ雰囲気が漂っていたから。
あの気持ちが懐かしくて、寒い日にたまにホットチョコレートを飲んでみるんだけれど、何かが違う。いつかまたあの街で飲みたい。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
2020年の新年に訪れた北海道十勝岳。
まっさらな新雪に心洗われるようでした。
ひとつだけ見つけた雪の結晶です。
更新