私らしく。

おやつ、みたいなもの#12

吉本ばななさん
台湾屋台、
葱餅の秘密

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

体や心が疲れたとき、少し立ち止まって休憩したいとき、
そんなときに読むと、ふっと心が軽くなる。
ばななさん流の「おやつ」な一皿を。

吉本ばななさん

  • note

よしもと・ばなな 1964年、東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『はーばーらいと』(晶文社)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

葱餅の秘密

台北から少し離れた街に泊まりがけで遊びに行ったとき、その街の名物がそこで採れる葱で作った葱餅だと聞き、屋台村に出かけた。
葱餅とか鶏の揚げたのとか豆花とかって、台湾ではレストランで食べるものではない。スナックというか軽食というか、そんな感じで屋台もしくは屋台のような小さなお店で売っているものだ。さっと買って歩きながら食べる。

夜の屋台村はにぎわっていて葱餅の屋台がたくさんあった。でも食いしん坊の私と旅の友たちは、一周してよく見比べてみた。いろいろな店があった。人気がないところ、行列しているところ。葱の量の違い。
中に一軒、どんなに人が並んでいても揚げたてしか給さない店があった。私たちはそこに心を決めて、列に並んだ。
その人気店のご夫婦はいい手際でどんどん葱餅を作り、揚げていく。決して一回に四個以上は揚げない。それもまたおいしさの秘訣だった。
どうせすぐにはけていくんだから、どんどん揚げてストックしたって冷めてしまうことはない。それに伸ばしたての餅を多少の時間並べたってそんなにへたってしまうことはないくらいの硬めの生地だ。なのに、決して妥協しないでおいしいものを作り続けるその力に敬意を感じた。
信じられないくらいおいしかったその味は、ご夫婦の努力の味だった。

写真:砂原 文 本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに、写真家・砂原文さんの写真をお届けします。
女性が元気に働いている夜市。
美味しいものがたくさん並んでいました!

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