冷たいお茶
台湾に住む友だち夫婦とその赤ちゃんと漢方街に行って、漢方鍋の素や酸梅湯のキットや愛玉子の素になる乾燥した実を探したときのことだった。
夏の午後でとても暑くて、歩いているうちにだんだん頭がぼうっとしてくるほどだった。買い物を終えて喉が渇いていたので、中国茶の飲める茶館に入った。
古い建物をリノベーションして作ったすてきなお店で、あまりにも暑かったので全員が冷たいお茶と小さなお菓子を注文した。
台湾の湿気がある暑い午後には、冷たい中国茶がものすごく合う。
たいてい小さなお菓子がついてくるので、中国茶で胃を痛めることもないのが、理にかなっているなと思う。
冷たいお茶が喉を通っていく幸せににこにこしていた私たちは、赤ちゃんがコップをじっと見ているのに気づいた。もちろん水筒に入った持参のジュースをストローで飲んでいたのだけれど、それとは別にじっとコップの中の水を見ていた。
「もしかして、飲みたいんじゃ、飲めるんじゃ」全員がそう言って、お母さんが赤ちゃんの口にコップを添えた。
すると、赤ちゃんは自分でコップから水を飲んだ。こぼしながら、でもおいしそうに。
「初めてだ!すごい!」と言って、パパはその動画を撮りはじめた。赤ちゃんはそんな親たちの気も知らず、ごくごく水を飲んでいた。初めての瞬間を見ることができて、私も胸がいっぱいになった。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
ハワイ・モロカイ島、嵐が去った後の夕方の風景。丸い雨粒たちが小さな生き物のようでした。
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