私らしく。

おやつ、みたいなもの#20

吉本ばななさん
異国を知る
おやつの味

column 心のおやつ| # #

心のおやつ

体や心が疲れたとき、少し立ち止まって休憩したいとき、
そんなときに読むと、ふっと心が軽くなる。
ばななさん流の「おやつ」な一皿を。

吉本ばななさん

  • note

よしもと・ばなな 1964年、東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『はーばーらいと』(晶文社)など。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

異国の甘み

ちょっとごまの香りがして、あと、花みたいな甘い香りがして、ほろほろっと崩れる感じはちょうど和三盆みたい。でも違う。
そのお菓子を味見したとき、そう思った。
そっけないプラスチックの容れものに入ったそのお菓子を、私はアブダビの小さなスーク(市場)で買った。全く知らない味だった。

アラビアンコーヒーにはカルダモンとかクローブとかローズウォーターが入っている。だから飲むとすっきりさっぱりして気分がいい。小さいカップで何杯も飲む。もっと欲しいときはカップを差し出し、いらないときはカップを横に振る。大人の男の人たちがそれをやっているのが、なんだかかわいかった。
カップは小さいが砂糖たっぷりが基本のエスプレッソと違って、アラブの彼らは砂糖を入れない。その代わりにデーツを食べる。暑い砂漠の世界ではそれらは完璧に理にかなっているのだろう。湿気の多い国に住む私たちが日本茶やお抹茶であんこを食べるのと同じくらいデーツはそのへんにいくらでもあって、熟れると勝手にドライフルーツになって目の前に垂れ下がってきてくれる。なんて優しい。

違う文化には違う味の幸せがあることを、久しぶりに吸収した感じがした。

写真:砂原 文 本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
旅先で出会った10月の秋薔薇。夕暮れの柔らかい光の中、静かに咲いている様子に心惹かれました。

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