異国の甘み
ちょっとごまの香りがして、あと、花みたいな甘い香りがして、ほろほろっと崩れる感じはちょうど和三盆みたい。でも違う。
そのお菓子を味見したとき、そう思った。
そっけないプラスチックの容れものに入ったそのお菓子を、私はアブダビの小さなスーク(市場)で買った。全く知らない味だった。
アラビアンコーヒーにはカルダモンとかクローブとかローズウォーターが入っている。だから飲むとすっきりさっぱりして気分がいい。小さいカップで何杯も飲む。もっと欲しいときはカップを差し出し、いらないときはカップを横に振る。大人の男の人たちがそれをやっているのが、なんだかかわいかった。
カップは小さいが砂糖たっぷりが基本のエスプレッソと違って、アラブの彼らは砂糖を入れない。その代わりにデーツを食べる。暑い砂漠の世界ではそれらは完璧に理にかなっているのだろう。湿気の多い国に住む私たちが日本茶やお抹茶であんこを食べるのと同じくらいデーツはそのへんにいくらでもあって、熟れると勝手にドライフルーツになって目の前に垂れ下がってきてくれる。なんて優しい。
違う文化には違う味の幸せがあることを、久しぶりに吸収した感じがした。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
旅先で出会った10月の秋薔薇。夕暮れの柔らかい光の中、静かに咲いている様子に心惹かれました。
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