普通の人たち
香港についた最初の夜、ショッピングモールや丸テーブルの高級な中華レストランではない街の普通のお店に行きたくて、在住の人に聞いてみた。
おいしそうな麺の店を教えてもらったけれど、口コミを見たら、「不潔」「前はおいしかったけど最近はだめ」などなど、散々なことが大勢からの意見として書いてあった。口コミは全てではないが、真正のクレーマーでもないかぎり、旅人たちがどうしても書かずにいられない気持ちになったわけだから参考にはなる。
あきらめて近くのてきとうな食堂に入った。
窓の外には、家に向かう人たちのホッとした顔の数々。おしゃれなわけでも、高価な服を着ているわけでもない、ごく普通のいろんな年齢の人たち。テイクアウトの袋を提げていたり、友だちとおしゃべりしていたり。
眺めながら注文したのは、手づくりのふかふかの皮の野菜まんと、大きな焼き小籠包と、辛すぎない担々麺。高級感はないけれど毎日食べることができそうな優しい味で旅疲れの胃にしみた。
となりでは会社帰りのおじさまがひとりで辛い鍋を食べていた。
お店の人たちも楽しそうにてきぱきと働いている。
人の営みっていいなあ、みんな地上で毎日生きているんだなあ。
そんな気持ちが湧いてきて、幸せになった。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
東南アジアの旅先での風景。屋台のお仕事をしながら休憩中にミルクもあげて。のどかな優しい日常の時間が流れていました。
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