夏の思い出
岩手に実家がある友だちが、お誕生日祝いに丸ごとのすいかを送ってくれた。
栽培者はすいか名人で、すいかができるとすぐに近所の人たちで売り切れてしまうから、東京まで回ってくることはないという。
ものすごく楽しみに待っていたら、大きくて重いすいかがやってきた。冷蔵庫に入り切らない。
とりあえず半分に切って、四分の一食べて、四分の一を冷蔵庫に入れて、あとは保冷剤で冷やして冷蔵庫の空きを待った。近年、丸ごとの大きなすいかなんて食べたことがなかったから、この感覚を忘れていた。
熊本から知人が小玉スイカを二個送ってくれたときでさえ、冷蔵庫の空きがなくてドキドキしたというのに!
しかし夏の真っ盛りだったので、私たちは驚くほどたくさんすいかを食べた。水を飲むように。そのすいかはほんとうにおいしかった。甘くてみずみずしくて、皮のきわまで味がした。名人ってほんとうにいるんだね、と家族で言い合った。
結局最後の四分の一を冷蔵庫に入れることができて、向いのお宅にもおすそ分けして、食べ切った。
夫が最後の最後に、「あ、でも、冷蔵庫に入れていても今日が限界だったと思う、だって、上のところが半透明になってて、カブト虫にあげたすいかの匂いがちょっとだけしてるもん」と言った。そんな記憶が夫婦で共有されているのもどうかと思うが、その半透明のところは確かに甘みが消えつつあった。ほんとうだね、と言いながら食べ切ったすがすがしさは格別のものだった。
写真:砂原 文
本連載は、吉本ばななさんのエッセイとともに写真家・砂原 文さんの写真をお届けします。
ハワイから帰る飛行機から見た空模様。さっきまでの楽しい時間が蘇りました。
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