私らしく。 by 再春館製薬所

タイムトラベル専門書店utouto
時間を旅する書店で“私の時間”を取り戻す

story ストーリー| # # # # #

ストーリー

効率や「タイパ」ばかりが追い求められる現代。スマホを見ながら“時間が溶ける”感覚に、ふとむなしさを覚えることはありませんか? 昨年秋、大正時代の蔵に現れた「タイムトラベル専門書店utouto(うとうと)」は、ふっと立ち止まりたい人にこそ訪れてほしい、ちょっと不思議な専門店。一瞬を深く味わい、人生の時間を“増やす”ヒントを探しに訪れました。

ある日とつぜん時空の裂け目からあらわれます。
Open : sometime, Place : somewhere ——
SF小説の一節のような言葉を掲げ、日本各地に突如現れては消える"ポップアップ型書店"として活動してきた『タイムトラベル専門書店utouto(うとうと)』。

本や文房具、雑貨や絵など、広い意味で「時間」を感じる商品を取り扱う、いわば"時間のセレクトショップ"です。

存在自体が幻のようなこの書店が、昨年秋、ついに東京で固定店舗をオープンしました。
場所は、江戸初期から続く名主·蓮沼家の屋敷を改装した複合施設「板橋ととと」の一角です。

時間を宿す蔵にひらかれた
新たな時空の入り口

書店を営むのは、文筆家·ラジオパーソナリティーで 店長の藤岡みなみさん、俳優で文具を担当する比留川(ひるかわ)香さん、絵本作家で"作り物"を担う、なかいかおりさん。

高校時代から親交を深めてきた3人は、2019年から移動書店として各地をめぐるなか、ある時知人からこの場所を紹介されたといいます。

まさに運命の出合いだった、と藤岡さんは振り返ります。

「3人で初めてここを訪れたのが、2年ほど前。大きな門をくぐると、大正から令和まで、幾層もの時間が重なり合っているように感じられました。大正5年に建てられたという納屋蔵には110年分ほどの時間が詰まっていて。"ここで店をやれ"と、導かれているような感覚がありました」

人と人、過去と現在、未来をつなぎたい —— 。
そんな願いを込め、長年使われていなかった蔵や屋敷一帯を再生し、街へとひらいたのが、20代目当主である蓮沼さんです。

ご縁がつながり、3人の時間もまた、大きく動き始めました。

取材当日は、店長の藤岡さん(写真左)、文具担当の比留川さん(写真右)のお二人にお話を伺いました。
基本的に、常駐スタッフがいない無人書店。現金は使えず、セルフレジで会計をおこなうスタイルも、どこか近未来SFの世界を思わせます。
『utouto』のある東ノ蔵は、北区·王子に本店を構える自家製焼き菓子とスペシャルティコーヒーの店「apollon」とシェアしています。本や文具を購入したあとは、コーヒーを片手に時間旅行を楽しんでみてください。

閉ざされた門の向こうで
止まっていた時間が動き始めた

タイムトラベル専門書店初の固定店舗がオープンしたのは、2025年11月。開店後の様子を、比留川さんが語ります。

「開店してまだ半年ほどですが、それまで約50年、屋敷の門は閉ざされたままだったそうです。止まっていた時計の針が急に動き出したような感覚で、いまもどきどきしています。『あの門の中はどうなっているんだろう』とのぞきに来られるご近所の方も多いんですよ」

長年、閉ざされていた重厚な薬医門。複合施設「板橋ととと」の入り口は、まるで「こちら」と「あちら」の時代を隔てる境界のように、強い存在感を放っています。

選書を担当する藤岡さんは、"タイムトラベル"を表現の軸に据える文筆家でもあります。
店内にはSFに限らず、歴史や未来、「時間」という概念にまつわる本、記憶を紡ぐ日記やエッセイ、自主制作本などが並びます。

「大家さんのご厚意で蔵に眠っていた什器(じゅうき)を使わせていただいて、そのおかげで、さまざまな時間の厚みを感じられる空間になりました」

蔵に残されていた古い机や箪笥(たんす)は丁寧に磨かれ、本棚や陳列棚として新たな役割を担います。
古い建物や道具と選書が響き合うことで、この場所に積み重なってきた歴史や魅力が、新たな文脈として立ち上がります。

改装前は2階建てだった蔵を吹き抜けにし、大きな窓から庭を望む、開放的な空間に生まれ変わりました。大正時代から残る梁(はり)や柱も見どころです。時間をテーマにしたなかいさんの水彩画も、展示·販売。
昭和の時代を感じさせるレコードプレーヤー内蔵の足付きステレオセットが、文具の陳列台として活用されています。
大家さんの祖父が愛用していた仕事机は、店内で手紙を書くスペースとしていまも大切に使われています。

江戸時代の桐箪笥、昭和の足踏みミシン、現在の埼玉県飯能産の木材……。異なる時代の気配が混在するこの空間は、それ自体が一つの物語のようです。

「この店の見どころ」と藤岡さんがうれしそうに語るのは、店内中央にある、大正2年製の小さな引き出し棚。

「この蔵より3歳年長の、特別古い引き出しに、 伴名練さんの 『百年文通』を置いています。大正時代の引き出しに手紙を入れると100年前に届く。そんなSF小説なんです。
本の世界をなぞるように配置できることで、直接言葉で説明しなくても、伝えたいメッセージが何倍にも増幅される気がします」

また、店舗を構えてからは、ミヒャエル·エンデの名作『モモ』が、より手に取られるようになったといいます。

「ここでコーヒーを飲んだり、古い柱や天井をぼんやり眺めたりするうちに、『モモ』に出てくるような"時間泥棒"の存在に改めて気づいたり、奪われた時間を取り戻したくなるのかもしれませんね」

言葉を書き留めることで
時間は行き来できるものになる

文具担当の比留川さんが一つ一つ試して選んだ万年筆やノート。
時間をテーマにした雑貨には、 忙しい日常に「読点」を打ち、いまこの瞬間を味わってほしいという願いが込められています。

「メモや日記を読み返すと、過去の自分に再会できますよね。書くという行為は、いまを留め、過去に戻り、未来へ手渡す……まさに"タイムトラベル"だと思うんです」

比留川さんイチ押しの栞「LastLine BOOKMARK」。読んでいた最後の行をそっと留めてくれる。「栞も、現在から未来の自分へのメッセージと言えそうです」。
最短1分から30分までそろったポップな砂時計。カラフルな容器に合わせた色砂が落ちる動きで、流れる時間を可視化するアイテム。
パスポートをイメージした手帳『タイムトラベルパスポート』。店内には、なかいさんが制作したイミグレーション·スタンプ台も設置されており(タイミングにより種類が変わります)、訪れるたびに旅の記録を重ねていけます。

店内には手紙にまつわる雑貨や書籍も充実し、奥にはゆっくりと手紙を書けるスペースも用意されています。

「タイムトラベル便」と名付けられた2種のオリジナル·レターセットも展開。
未来の自分へ宛てた手紙を書く「時をかけるコース」と、見知らぬ読書好きと本を紹介し合う「空をかけるコース」。店内のポストに投函すると、"時空を越えて"手紙が届けられる仕組みです。

積み重ねた時間が
かけがえのない価値に変わる

「日記や読書は、過去からのメッセージ」「手紙は、未来へ言葉を届ける旅」 …… 。
そんなふうに、時間を捉え直していくと、何げない瞬間にも、意味や価値が宿っていることに気づかされます。

「時間も年齢も、重ねるほどに物語が生まれ、価値が増していく。これは、時間に対する感性を磨くなかで実感してきたこと。この建物も、古さそのものに価値がありますよね。私たち3人も15歳から20年以上の付き合いですが、いまが一番、楽しく過ごせている気がします。これから歳を重ねるほどに、もっと面白いことができる、そんな予感がするんです」

宝探しのように、過去·現在·未来を行き来しながら、自分なりの時間の味わい方を見つける。それも、この店ならではの楽しみ方です。

忙しさに心がすり減ってしまいそうな時、人付き合いやスマホに"時間泥棒"されそうな時は、この場所にひらかれた"時空の裂け目"をそっとのぞいてみてください。

お気に入りの一冊から自分宛てのメッセージを受け取る。万年筆を手に、自分のための言葉をゆっくりと綴(つづ)る。

そんなふうに、気ままに時間を味わいつくすことが、「時間」と「私」を取り戻すきっかけになるかもしれません。

文:藤田三瑚 写真:松本のりこ

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タイムトラベル専門書店utouto

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2019年から、移動書店として各地で開店してきた「utouto」が、2025年に初の固定店舗を東京・板橋区にオープン。時間をテーマにした書籍やアイテムの販売のほか、過去や未来への旅を想起させ、現在を深く味わうためのトークイベントやワークショップなども開催。