私らしく。 by 再春館製薬所

鏡リュウジさん
占いと「正しく」向き合えれば、人生の選択肢はもっと広がる

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ストーリー

神社でおみくじや絵馬に願いを託し、テレビの占いコーナーを気にするなど、私たちの生活に溶け込んでいる「占い」。占星術の第一人者で、大学の客員教授の顔も持つ鏡リュウジさんに、「人生を前向きにとらえるツール」としての占いの活用法をうかがいました。

「占い」は非科学的だけど、
実は合理的

占いの発祥は紀元前。鏡さんは「占いを統計学だという人がいますが、これは間違い。占いには、現在の科学で説明できるようなエビデンスはありません」といいます。

「とはいえ、近代科学が正義とされる現代においても、『占い』が一つの文化として根づいていることは事実です。たとえば、大学受験をする学生が絵馬に合格祈願を託したりしますよね」

と、鏡さんの指摘。その理由として、占いには近代科学とは異なる思考法が背後にあると、続けます。

「占いは『非科学』ではありますが、そこには『象徴的思考』ともいえるロジックも働いています。人生の苦しい局面のときに『明けない夜はない』なんていうでしょう?

ここでいう『夜』は、科学的な意味での『夜』ではなく、また、夜が『悪い』ものでもないですよね。でも、人間の中に深く染みついている夜のイメージが、『厳しい時期』のメタファーになっているんですね。こういった『たとえ』をわかりやすくまとめたものが占いなのです」

占星術は星の神々との交信
のちに「自然学」として発達

占いの中でも、鏡さんが専門にされているのが、「占星術」です。

「占星術は、星の神々からのメッセージを受け取る『星の宗教』として古代バビロニアで生まれました。その天体観測がギリシャの数学と結びつき、自然学をベースに発達していきます。実は、16~17世紀までの占星術は、天文学の側面もあったのです」

「占星術の『星の神々からのメッセージを受け取る』というベースとなる思想は、現在もあると思います。一方で、天体と地上世界の深い関わりを説明するべく『自然学』へと発達していったわけです」

でもその後、17世紀に生まれた近代科学で、「星と万物は、物理的なつながりなんてない! ただの連想だ! と人類は気づき、占星術と天文学は分かれてしまったんだって!

西洋の占星術と東洋の漢方
「人間は自然の一部」という
意外な共通観

その流れを汲んだ占星術の「人間と自然の深い関わり」という考えは、意外なことに漢方理念との共通点もあります。

「占星術と漢方理念の根本的な発想は近いですよね。占星術では自然界を『火・地・風・水』の4つのエレメントに分類し、漢方は自然界を『木・火・土・金・水』の五行に分類して考えます。このように、この世界をいくつかの自然元素に『分類する』という発想はまさに同じですよね。

占星術と医学が密接な関係であった時代もありました。西洋の『火・地・風・水』は人体の4つの体液に対応していたのですが、これは漢方医学の『気・血・水』という考え方と似ています。また、占星術と医学を組み合わせたハーブ学でいわれる『ショウガは火星と対応するために体を温める』といった知識も、和漢や薬膳ととても似ていますね」

鏡さんは、占いと神話や医学との結びつきを解説する書籍も多く翻訳・出版。
鏡さんは、占いと神話や医学との結びつきを解説する書籍も多く翻訳・出版。
鏡さん監修『占星医術とハーブ学の世界』。ここで紹介されるハーブ学は、漢方理念にも通ずるものが。
鏡さん監修『占星医術とハーブ学の世界』。ここで紹介されるハーブ学は、漢方理念にも通ずるものが。
西洋の伝統医学においては、漢方理念の「五行」のように、季節、人間の気質、成長段階を4つのエレメントで捉えます。
西洋の伝統医学においては、漢方理念の「五行」のように、季節、人間の気質、成長段階を4つのエレメントで捉えます。

「余談ですが、西洋の伝統的な医学の考えでは、4つの体液のバランスで性格が決まるとされていました。たとえば、黒い胆汁は『メランコリー』といわれ、現代の『憂鬱』という意味の語源に。黒い胆汁が多い人は『憂鬱になりやすい人』といわれながら、また哲学的だともいわれていたんですよ」

ほかにも、西洋の伝統医学と漢方との共通の考え方として、人体を小宇宙として捉えるという発想があるよ! 宇宙の五行の動きが人体に影響を及ぼしているという漢方の発想と根本的には同じだね!

占いは、生きやすくなるための
ライフハック

では、現代社会を生きる私たちに、占いは何かを与えてくれるものなのでしょうか。

「占いのメッセージは、『自分以外の考えを引き出してくれる、第三者から与えられたヒント』と受け止めるべき」と鏡さんはいいます。

「人は無意識的に自分のレンズを通して物事を見ているものです。そこで、占いという『他者のレンズ』を借りることで視野が広がり、自分の生き方や直面している問題を解決するヒントが見つかるかもしれません。『占いは、自分とは違った視点で世界を覗く"レンズ"のようなもの』と考えて、普段の生活に生かしてみるのはどうでしょう。

そんな姿勢で占いに向き合えば、さまざまな視点を持つための訓練にもなり、結果として人生の選択肢をも広げてくれるはず。ちょっと面白い使い方としては自分以外の星座の占いを自分事として読んでみると、新たな気付きもあるかもしれません。自分だけでなく、友人や知人へアドバイスをする時に役立つこともありますよ」

ただし、占いとの付き合い方で少し気をつける点も。

「占いの結果が『絶対違う!』と感じたら、それは自分の中での無意識的な抵抗のあらわれ。

いずれにせよ、心の中に、占い的な『非・常識的な視点』と、科学的な『常識的な視点』を持ち合わせることが、占いと上手に付き合うコツだと思います。タロットカードは『紙なんだから当たるわけない』という前提のもとで、結果の意味を汲み取ってみる、というように。

『善は急げ』と『急がば回れ』などの二面性をあらわしたことわざがあるように、占いに限らず、世の中の真理には必ず裏と表があります。そのことを意識しているだけでも、物事を多面的に捉える訓練になると思います」

占いの結果をそのまま受け取るのではなく、どう解釈し、自分の行動に落とし込むかが重要。
占いの結果をそのまま受け取るのではなく、どう解釈し、自分の行動に落とし込むかが重要。

占星術のベースになっているのは、太陽・月・惑星・小惑星などの天体の位置や動き。それと自分の生まれた日の星を結びつけ、関連する鉱石の色などの要素から「ラッキーカラー」などを導き出すんだって!

天体規模で人生をとらえることで
前向きになれる

さらに、人生に占星術の視点を取り入れることで前向きになれるコツも教えていただきました。

「本来は地球が太陽の周りを回っていますが、占星術では天体が地球の周りを回っていると考えます。太陽は1年、月は28日で地球の周りを一周する、というように。このサイクルは一定なので、この世は『何度も同じことを繰り返している』と、捉えることができます。

占星術的発想だと、『自分にだけ悪いことが起きる』ということはあり得ません。星は必ず巡っていると思えば、辛い経験をした時に『あの織田信長だって、辛い経験をしたかもしれない』と考えることもできますよね。

一方で、全ての天体の動きを組み合わせると、何万年経っても同じ配置にはなりません。だからこそ、すべての経験は『一期一会』と考えることもできます」

悪いことが起こった時には『これは周期だから仕方がない』と受け流す。一方、いまとまったく同じ星の配置が繰り返されないということは、いつどんな時も「自分だけの人生」を生きていると前向きにもなれます。占星術は、人間のもつ普遍性と個別性を同時に表現しているのです。

占いは、世界を見るうえでの新しい視点。人生の選択肢を広げてくれるツールとして活用しよう。

更新

鏡リュウジさん

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かがみ・りゅうじ 1968年、京都府生まれ。国際基督教大学大学院修了。京都文教大学客員教授。平安女学院大学客員教授。
従来の「占い」のイメージを大きく塗り替えた第一人者。累計100万部の『魔法の杖』などポップなものから学術書の翻訳まで幅広く活躍。英国、豪州の占星術学会などでも講演。
主な著書に『占星術の文化誌』(原書房)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)ほか多数。