ある絵を見て、こんなふうに言った人がいます。
「線が曲がっても、キャンバスからはみ出しても、色が混ざっていたって、いいんですね。絵を見る目が開いた! って気持ちがしたんです」
その絵は、知的障がいがある人が描いた作品でした。なぜ、そんなに心が揺さぶられたのですかと聞くと、「だって、それまでは一枚に上手に収まった絵が、いい絵だと思ってたから」という言葉が返ってきました。
昨今、知的障がいのある人たちによる作品が、バスのラッピング車両や駅の壁面、百貨店のディスプレーなどに展開される機会が増えています。日常の風景のなかで、ふと目を留めたことはありませんか。彼らは日々どんなふうに暮らし、創作しているのか知りたくて、会いに行きました。
童話モチーフの切り絵と花の絵画
それぞれの創作風景
東京銀座のギャラリーで会ったのは、輪島楓(かえで)さん。知的障がいを伴う自閉症があって、特別支援学校に通う高校3年生です。金沢にある自宅は、兄の貫太さんと楓さんにとってアトリエのようなもの。同じく障がいのある貫太さんが描くさまざまな人の絵や、楓さんの切り絵があふれているのだとか。
楓さんは切り絵に使うハサミと色紙、スケッチブックを持ってきてくれました。ページをめくると、虹、ユニコーン、妖精を思わせる切り絵が、玉手箱からこぼれるように現れます。見ているだけで楽しくなる色、かたち。
イメージの源について聞くと、「シンデレラとか人魚姫とか好きな童話がいっぱいあって」と楓さん。
「おうちでやるみたいに、切っても貼ってもいいよ」と母・満貴子さんが声を掛けると、楓さんは色紙に、すいっとハサミを入れました。いつの間にか、耳にはイヤホン。お気に入りのアニメソングが流れているようです。
これが集中のコツ。瞬く間に赤いリボンが生まれ、机に切り落とされた色紙にも、楓さんの手のリズムがまだ息をしています。
さらにもう一人、鳥取に住む福井将宏(まさひろ)さんを訪ねました。
重度の自閉症から、人とコミュニケーションを取るのが苦手といった特性があります。将宏さんが毎週金曜日に通うのは、障がいのある人がアートを仕事にするための就労スペースとギャラリーを併設した「アートスペースからふる」。ここで、花を描くのが習慣です。
この日、選んだのは梅。いつもの赤い取っ手のバケツ、細い溝が並ぶパレット、太筆を取って自分の席へ。赤のアクリル絵の具を搾り出し、慎重に水加減をして、勢いよく丸を描き始めました。
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。紙がもげても筆を進めます。
「うーん、ううーん」とうなりながら、調子が乗ってきた感じ。絵の具が垂れ、混ざり、紙の外に飛び出しながら、およそ10分で、「できましたっ!」。
二つの会社が
手を取り合った根本とは
実は、貫太さん・楓さんきょうだいや将宏さんは、ヘラルボニーという企業と契約を結ぶ「作家」です。この謎めいた社名は、創業した松田崇弥(たかや)さん・文登(ふみと)さんの兄で、自閉症のある翔太さんが自由帳に書いていた言葉が基になっています。
「異彩を、放て。」をミッションに、障がいのある作家が描くアート作品をネクタイやバッグなどのファッション、インテリアの商品などに採用し、製造販売をしています。
また、さまざまな企業が彼らの作品を取り入れる架け橋となり、作品が正当に評価され、その報酬が作家の自立を支える力となる——そんな新しい循環を生み出しています。
社会の中にある「障がい」のイメージを変えたり、福祉を起点に新しい文化の創出を目指すクリエイティブカンパニーです。いまでは創業した岩手県のみならず、国内外で大きな反響を呼んでいます。
このたび、ヘラルボニーと再春館製薬所が協業し、楓さんの作品「アオの世界」と、将宏さんの作品「チューリップ」のタオルハンカチをつくりました。
協業の根本には、再春館製薬所の創業者にもダウン症の家族がいるという必然があったのです。
「私たちは40年ほど前から、知的障がいのある人がその人らしく働ける場づくりをしてきたという歩みもあるので、ヘラルボニーの志に共感しました。同じように熊本から、社会を一歩ずつ変えていきたくて」と、協業を進めてきた再春館製薬所の野口雅彦は語ります。
代表の松田崇弥さんは、契約する作家に会いに何度も足を運ぶそうです。
「貫太さん・楓さんきょうだいも、将宏さんも、会うたびに作品と人に魅せられるんですよね。知的障がいという先入観を取っ払って、まず彼らの作品を素直に感じてもらえたら」
自分の作品が
2人にもたらした変化
契約作家となることで、貫太さんと楓さんの暮らしはどう変わったのでしょう。母・満貴子さんに尋ねると、昔のことを話してくださいました。
「貫太と楓が幼い頃、自宅は2人が夢中になって描いた絵や工作だらけで、途方に暮れていました。何かに生かせないものかと、絵をプリントした手拭いを自作したら、『すごくいいね!』と周囲の人たちに喜んでもらえて。
2人が楽しむことを伸ばしてあげたいと思うようになりました。あれから10年。絵がきっかけになって、閉じこもりがちだった金沢から出て、東京や盛岡に行ける日が来るとは。しかも、タオルハンカチになって、たくさんの方に手に取ってもらえるなんて......」
鳥取にいる将宏さんの母・妙子さんは、手のひらにのせたタオルハンカチをそっと開いた瞬間、「ひゃあ、かわいい、うれしい!」と小さく叫びました。
原画であれば部屋に掛けたままになりますが、ポケットに入るタオルハンカチは、いつどこへでも一緒にお出かけできるもの。将宏さんが描く花の色や形は、手に取るたび、心を朗らかにしてくれます。
つい、誰かに見せたくなって、「これって何の絵? 誰が描いたの?」なんておしゃべりが始まりそう。
こうして、将宏さんの絵が世の中に広がっていくことを、妙子さんはどう感じているのでしょうか。
「将宏を取り巻く世界は小さくて、家族と福祉施設の皆さん、近所のコンビニ店員さんくらいしか人と接する機会がありません。わが子なのに、目を合わせることも難しいし、何を見てどう感じているのかもわからない。
せっかく生まれてきたのにずっとこのままなのかなと、さみしく思っていました。でも、彼を全く知らない人たちが絵に出合ってくださることで、『ここに福井将宏という人がいますよ!』っていう声が遠くまで届くようになったんです」
終始明るい笑顔で話していた妙子さんの目には、かすかに光る涙が。
絵は、見るのも描くのも自由です。それなのに、私たちは、わかりやすさや正しさといったものさしにとらわれてしまうことがあります。
「素」の自分になって、心にまっすぐ飛び込んでくるものを、ただ純粋に美しいと感じることができたら。
「好きなものは好き」と、自分が見える世界を信じられたら。
誰の評価も気にせず、はみ出していい、常識にとらわれなくてもいい。目の前にあるいまを、夢中で生きてごらん——。2人のタオルハンカチが、そう語りかけてくれるようです。
アートタオルハンカチ
入手方法のご案内
現在、再春館製薬所では「母の日ギフト」として、ドモホルンリンクルとタオルハンカチがセットになった特別なギフトをご案内しております。 大切な方への贈りものにはもちろん、ご自身へのプレゼントとしても、ぜひご活用ください。会員登録がない方もお求めいただけます。
※「母の日ギフト」のご案内は2026年5月31日(日)まで。以降も引き続きギフトセットをご用意しております。
また、商品をご愛用中のお客様は、お手持ちのポイントとの交換でもタオルハンカチをお受け取りいただけます。
※ポイント交換は、商品購入時に限らせていただいております。
ヘラルボニーの契約作家である楓さん、将宏さんと共につくったタオルハンカチが、皆さまの毎日に心地よくなじむものとなりますように。
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