私らしく。 by 再春館製薬所

小堀夏佳さん
旬野菜を食べることも、SDGsへの取り組みに

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ストーリー

おいしく、安く、いいことづくしの旬野菜。でもいまは一年中同じ野菜が出回り、旬がわかりにくくなっています。旬野菜とSDGsの知られざる関係や、夏に旬を迎える野菜のレシピなどを、前回に続き、野菜バイヤーの小堀夏佳さんにうかがいます。

健康リスクの可能性も含む
「旬以外」の野菜

前編で、生命エネルギーにあふれる在来種野菜への想いを語ってくれた小堀夏佳さん。さらに小堀さんが私たちに伝えたいのは、「野菜は旬のものを食べる」ことなのだそうです。
漢方の考えでも、旬の野菜はその季節に高まった「生命エネルギーの凝縮」ととらえ、体への働きかけも理にかなっているとされています。

「もちろんそれもあります。旬の野菜は栄養価が高いですし。しかも、それだけではなく、農薬のリスクや肥料が少なく済むんです」

「たとえば鍋の需要で冬が旬と思われている春菊は、万葉の時代から春の季語として使われていて、本来は春のやわらかい新芽を食べるものです。ほうれん草・小松菜、・水菜などの葉野菜も一年中出回っていますが、旬は秋から冬。夏に食べることを、あまり私はおすすめしていないんですよね」

「味だけでなく、香りや食感など五感全体を使って旬の野菜を愉しんでみてほしい」

小堀さんはその理由を、本来の時季以外に育てることが、人体にもさまざまなリスクを及ぼす可能性があるからだと話します。

「病気が出やすいので必要以上に農薬の量が増えたり、肥料も余分に与える必要があります。大量に与えた肥料は『硝酸態窒素』として野菜に残り、体に悪い影響を与えることも知られています。
だから、旬の野菜を本来の時季に食べることは、生命エネルギーを味方につけ、体にもいい──と、うれしいことづくしなんです」

旬野菜を食べることは
SDGsにもつながっている

さらに、いろいろな野菜が一年中スーパーに並び、旬がわかりづらくなっている現状の背景には、環境問題も潜んでいるといいます。

「通年で温泉熱を活用し、野菜や果物の促成栽培を行っている大分県の農園などもありますが、それはかなり珍しい例。冬に夏野菜を育てるのは、石油を使ってビニールハウスを加温する必要があり、環境にも負荷をかけることになります。
それだけに、本来の生育環境の中で太陽の恵みを受けて育った旬野菜こそ、意識的に食べてもらいたいんです」

また、オイシックスに勤めていた頃は「不揃いの野菜たち」と銘打ち、規格外の野菜の販売でヒットを飛ばした小堀さん。いまも「せっかく収穫した旬野菜をなるべく無駄にしたくない」という想いは人一倍強いそうです。

「せっかくの旬野菜が、見栄えが良くないだけの理由で流通に乗らないとしたら、もったいない。店側も『規格外でも売れるんだな』とわかれば、それらが出回るようになります。“価格破壊”という言葉がありますが、私が起こしたいのは、“規格破壊”なんです」

フードロスなどの問題も取りざたされているいま、「規格外の野菜でもいいから買いたい」という私たちの意思表示は、小さな一歩につながっていくかもしれません。

旬野菜の力を借りる季節の養生

野菜の旬は、人の体のサイクルにもかなっている、と小堀さん。そこから私たち人間も自然界の一部であることが改めて感じられます。

「春が旬の野菜は、ベビーリーフやスプラウトなど、新芽のものや、苦味のある山菜。発芽したての野菜は生命エネルギーにあふれ、苦味のある野菜にはデトックス効果があって、冬が終わったあとの体を元気にしてくれます。

夏はきゅうりやトマト・ピーマン・なすなどの実ものが知られていますよね。水分が多く、カリウムが豊富で、体の余分な熱を逃がし、利尿作用もあります。

みずみずしく、目にも鮮やかな旬を迎えた夏野菜。見るからにパワーをもらえそう。

秋はしょうがやねぎ・れんこんなど、体を温め、風邪予防にもなる野菜。また、さつまいもやくるみ・栗など『動物が冬に備えて蓄えるもの』もおいしい季節です。

そして冬は大根、ごぼうなど、体を温める根ものや、ほうれん草・小松菜・青梗菜などの葉もの。薬膳で百合根は肺を潤す効果があるとされていて、お正月だけでなく、冬の間、積極的に食べてほしいものです。シチューにすると、とってもおいしいんですよ」

野菜の仕事を始め、旬の野菜を食べるようになってから、小堀さん自身体調もよくなったそう。
「髪や肌の調子もいいし、20代の頃よりずっと元気。自分の力で自然に育とうとする旬の野菜には自然治癒力が備わっていて、私もその恩恵を受けているな、と感じるんです」

旬の野菜を飽きるほど
食べたあとに待つ「感動」

では、もし夏に冬野菜以外の葉野菜を食べたいときは、何を選べばいいのでしょう。
「ツルムラサキやモロヘイヤ、空芯菜・おかひじき・大葉などをぜひ積極的に食べてほしいです。夏の間、これらの葉野菜を飽きるくらいに食べていると、秋の到来が恋しくなります(笑)。そしていよいよ小松菜の季節になったとき、『小松菜っておいしい~!』と感動が倍増しますよ」

夏の万能選手「おかひじき」を
五感で味わう

ここで紹介するおかひじきも、どのスーパーや市場でも置いている野菜ではないかもしれません。でも、「売っていなければ、売り場の人に聞いてください」と小堀さんはいいます。

「市場やスーパーを変えていくのは消費者。声を上げれば反映されることも多く、そんな身近なことが市民活動だと思うんです。それが在来種野菜なら、その野菜を絶滅させないことにもつながります」

ほうれん草と同じアカザ科の野菜でミネラル類がたっぷりのおかひじきはシャキシャキした食感で味にクセがない。「どんな食材にも合う協調性のある子」という小堀さんの表現に、野菜への深い愛情を感じます。

ゆでて冷蔵庫に入れておけば、味噌汁や納豆などにちょこちょこと使えて便利なおかひじき。小堀さんはおむすびをつくることも多いそう。

「塩を入れた熱湯で20秒ほどゆでたおかひじきを氷水にとり、シャキッとさせます。細かく刻み、ちりめんじゃこ、刻んだ梅、白ごまとともにごはんに混ぜて握ればできあがり。分量はすべてお好みで」

梅干しの酸味も夏の食欲を増進する「おかひじきのおむすび」
梅干しの酸味も夏の食欲を増進する「おかひじきのおむすび」
シャキッとした独特の食感を愉しむには、さっとゆでたあと、氷水で冷やすのがポイント。
シャキッとした独特の食感を愉しむには、さっとゆでたあと、氷水で冷やすのがポイント。
身近な夏野菜を使った「なすのくるくる」。縦5ミリ幅に切ったなすを、油を引いたフライパンに並べて焼く。水大さじ1ほどを加え、ふたをして蒸し焼きに。焼きあがったら冷まし、大葉、貝割れ大根をのせて巻き、酢じょうゆでいただく。
身近な夏野菜を使った「なすのくるくる」。縦5ミリ幅に切ったなすを、油を引いたフライパンに並べて焼く。水大さじ1ほどを加え、ふたをして蒸し焼きに。焼きあがったら冷まし、大葉、貝割れ大根をのせて巻き、酢じょうゆでいただく。
蒸し焼きにして粗熱を取ったなすに野菜をのせ、端からくるくる巻くだけ。この日使ったのは愛知の「天狗なす」、大分の温泉の地熱で栽培している植木農園の大葉と貝割れ大根。「冷蔵庫で冷やしてもおいしい。なすの包容力で、何を巻いてもおいしく仕上がります」
蒸し焼きにして粗熱を取ったなすに野菜をのせ、端からくるくる巻くだけ。この日使ったのは愛知の「天狗なす」、大分の温泉の地熱で栽培している植木農園の大葉と貝割れ大根。「冷蔵庫で冷やしてもおいしい。なすの包容力で、何を巻いてもおいしく仕上がります」

野菜の生命エネルギーを
さらに愉しめる新芽栽培

野菜の生命エネルギーを別の形で愉しむおすすめの方法が、「めでベジ」=新芽栽培だそう。
「愛でる」「芽でる」の意味を込めた、小堀さんらしいネーミングです。

「豆苗などの再生栽培はよく知られていますが、大根やにんじんも、ヘタの部分を水につけておくと新芽が出てきます。黄緑色の小さな芽が出てきたときの感動といったら! 刻んで味噌汁に入れたり薬味に使えて便利です」

豆皿などでマメに水を取り替えて栽培すると見た目も可愛い。写真は熊本の在来種野菜「五木の赤大根」の新芽。「捨ててしまうはずのヘタから新芽が出てくると、命の力を感じ、元気をもらえるんです」

土を使わず、キッチンで手軽に育てられるのも始めやすいところ。食べるだけでなく、目でも野菜のエネルギーを感じることができます。

旬野菜を食べることで健康になったり、新芽の姿を見て元気になれるのも、私たち人間が自然の営みとつながっているから。
自然環境を守ることにもつながり、そんな循環に気づくことで、毎日の食卓はさらに楽しいものになりそうです。

photo:WADA Yuya
text:MAENAKA Yoko(BEAM)
edit:JIMBO Akiko

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小堀夏佳さん

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こぼり・なつか 1974年、東京都生まれ。大学卒業後、銀行勤務を経てオイシックス(株)の初代野菜バイヤーに。数々のヒット野菜を生み、2020年よりフリーとなる。独自のセレクトによる野菜セットの販売、卸事業やメニュー開発、啓蒙活動など幅広く活躍。