監修:日本東洋医学会 専門医・日本医師会 認定産業医・元日本神経学会神経内科学会 専門医
田頭秀悟
オンライン診療を専門とする脳神経内科医・日本東洋医学会専門医。西洋医学の枠に捉われず、東洋医学の叡智も駆使することで、患者さんの健康管理をサポート。オンライン診療では漢方薬なども活用している。「患者本人」を、根本的治療を施せる唯一の存在と捉え、病気の克服を支える「主体的医療」の普及に努めている。
「最近イライラしやすくなった」「どことなく気持ちが落ちつかない」など、なんとなく心身の不調を感じている方は多いのではないでしょうか。
そんなときは、入浴によるリラックスタイムで心身の調整を行いましょう。
今回は、入浴するメリット、入浴に最適な温度、おすすめの入浴剤などについてご紹介します。もやもやとした心をリフレッシュしたい方は、ぜひご覧ください。
入浴するメリットは、おもに以下の5つです。
入浴すると体温が上がり、新陳代謝が高まります。新陳代謝とは古くなった細胞が新しい細胞と入れ替わり、常に一定の体内状態を保つために身体の中で働き続けているしくみ全体のことです。新陳代謝が高まれば、身体の中に溜まった老廃物や疲労物質が体外へと排出されやすくなるほか、血液によって身体の隅々まで酸素や栄養素が運ばれるため、身体がスッキリして疲れなどが和らぎます。
また、身体が温まると血管が広がり、血行が促進されることによって筋肉や関節部の緊張がほぐれます。パソコン作業などによって肩や腰の痛みに悩んでいる方もいるでしょうが、これらの痛みは筋肉が緊張しておこることが多いため、入浴によって改善する可能性が高いといえます。
このほか、入浴すると自律神経のうちの副交感神経の働きが優位になります。副交感神経の働きが優位になるとリラックス効果を感じやすく、凝り固まった心身が解けていくため、気持ちが楽になるでしょう。
自律神経には、交感神経と副交感神経の大きく2種類があります。ストレスによって交感神経が活性化すると筋肉が緊張して血管の幅が狭まり、リラックスして副交感神経が活性化すると、筋肉が緩まって血管の幅が広がる傾向があります。
入浴により、新陳代謝が高まる仕組みは前述しましたが、そのメリットはほかにもあります。まず、新陳代謝が上がると、お肌の調子が良くなります。
新陳代謝が上がった状態は、運動前のウォーミングアップをしたときと近い状態だともいわれています。運動習慣のない方も、定期的な入浴習慣を持つことで安定的な身体の状態を維持しやすくなるでしょう。
人は眠りにつくときに深部体温(脳や内臓といった身体内部の温度)が下がり、この働きがスムーズな入眠と快適な睡眠に大きく関わっています。何もしなくても夜になれば、ある程度、深部体温は下がり眠くなりますが、入浴によって就寝前に深部体温をちょっと上げておくことで、就寝時の深部体温の低下を身体に感じやすくさせるのです。その結果、入浴は入眠をスムーズにし、良質な睡眠を得ることが可能となります。
できれば入浴は、就寝する1~2時間前に済ませておきましょう。良質な睡眠には、皮膚温度が高く、深部体温が低くなることが理想です。入浴することによって皮膚の血流を増加させ、皮膚から熱を放散させて深部体温を下げることによっても、夜はぐっすり寝ることができます。
同じ入浴でも、半身浴にするとより健康効果が高いといわれています。半身浴をすれば、いわゆる「お肌のデトックス効果」も得られやすくなるでしょう。
医師 田頭秀悟からのコメント
デトックスは正式な医学用語ではありませんが、「解毒」を意味する言葉で、体内に溜まった毒素を放出することを目指した健康美容法のことです。
東洋医学の中には、「頭寒足熱」という考えがあります。これは、上半身よりも下半身を中心に温めると健康効果が高いという経験則であり、昔から伝承されている健康の知恵です。お風呂で半身浴をすれば、簡単に「頭寒足熱」を実践できます。
半身浴にすることで、体温がじんわり高まり、汗をかきやすくなります。汗は老廃物を体外へ排出する役目がありますし、上半身が冷えて下半身が温まる状態(頭寒)になると足の筋肉によるポンプ作用が活性化し、全身の血液循環がめぐりやすくなります。
その結果、体内にたまった毒素や老廃物を排出しやすくなると考えられています。半身浴によってサウナのように効果的に身体を温めれば、そのような効果が得られやすくなるでしょう。
このほか、マッサージをプラスするのもおすすめです。足首や膝などのリンパ節を中心に、詰まったリンパを流すようにもみほぐしましょう。痛みがある場合はリンパの流れが詰まっている可能性がありますが、続けることで流れがスムーズになり、デトックス効果の高まりが期待できます。
医師 田頭秀悟からのコメント
半身浴の具体的な方法としては、肩まで浸かるのではなく、おへその辺りより下の、下半身だけ湯に浸かるようにします。人間は足元や下半身が冷えやすい傾向があります。下半身が温まってくると、頭寒足熱状態になりますので、血流も良くなり、健康にもつながりやすいでしょう。
お湯の温度については、その日の体調や季節、住んでいるところによってそれぞれ違ってきますので、ご自身で一番気持ち良く、長く入っていられる温度で入るようにしてください。
半身浴の時間は長ければ長いほど良いとされていますが、ひとつの目安は20分程度です。もちろん、寒くて辛い場合はいったん肩まで浸かって短時間全身を温め、また再び半身浴の状態に戻っても問題ありません。
これを何度か繰り返していると、次第に上半身を外気にさらしていても全身がポカポカして平気に感じられるようになっていきます。
半身浴をしていて湯の温度が下がったら、追い炊きをしたり、追い炊きの機能が無いお風呂なら、お湯をある程度まで抜いて熱い湯を入れたりして、調節するようにしましょう。湯船から出る間際には、お湯の温度を上げ、しっかり温まってから出るのがおすすめです。
入浴する際は、温度設定に注意しましょう。疲労の解消やリラックス効果などの温熱効果は、体温より高い温度で、一定の時間入浴しなければ意味がありません。
肩まで浸かる場合は、お湯の温度は体温よりも高い38~40℃ほどが理想で、入浴時間は10分程度が目安です。熱いお湯が好きという方や、長風呂が好きという方もいますが、前述した健康効果を得るためにはあまりおすすめできません。
たとえば、42℃以上のお湯につかると交感神経が優位になります。交感神経は強い緊張状態になったときに働く神経であり、シャキッとしたいときには効果的ですが、リラックス効果は得られません。また、長く入浴すると体温が上がりすぎて、湯あたりしてしまうこともあります。
なお、目的によってお湯の適温は変わります。
以下の表を参考にしながら、体調に気をつけて入浴を楽しんでくださいね。
目的 | 適温と入浴方法 |
---|---|
良質な睡眠を 得たいとき |
38~40℃のぬるめのお湯に、ゆっくりつかる。 |
ストレスを 緩和したいとき |
40℃以下のお湯に、ゆっくりつかる。 |
入浴後、 ひと仕事するとき |
42~43℃の熱いお湯に短時間だけつかる。 |
お肌の調子を 整えたいとき |
40℃前後の、ややぬるめのお湯につかる。お肌がふやける前に出る。 |
入浴効果をもっと有意義にしたい方は、入浴剤を使ってみましょう。
入浴剤は種類が豊富です。炭酸ガスが発生するもの、お湯にとろみがつくもの、綺麗な色や良い香りがするものなど、種類ごとに特徴があります。
たとえば、炭酸ガスが発生する入浴剤は入浴による血行促進効果をサポートするといわれていますし、自分の好きな香りの入浴剤を使えば、よりリラックス効果を得られるでしょう。
また、入浴剤によって含まれている成分は異なります。
クエン酸が含まれた入浴剤はピーリング効果があり、不要な角質や皮脂、毛穴汚れを綺麗に除去するといわれています。クエン酸を使うことで弱酸性の環境にすることができ、菌の繁殖を防ぐため、体臭予防にも効果が期待されています。
生薬類が含まれた入浴剤は、入浴による温熱効果を高める働きがあります。身体の冷えや血行不良の改善に効果が期待できるため、健康や美容の維持に効果的といえるでしょう。
このほか、入浴剤には保湿成分が配合されたものもあります。保湿成分によってしっとりと潤いのあるお肌になるため、おうち時間を使って自分磨きをしたいと考えている方にもぴったりでしょう。
なお、入浴剤を選ぶ際は配合されている成分に注目して選びましょう。成分が強く、お肌に合わない場合もあるので、使用感などを調べてから購入することをおすすめします。
入浴には多くのメリットがあります。身体の不調を改善する効果が期待できるほか、イライラ、もやもやした気持ちをリセットするのにも効果的です。
入浴剤などを入れれば、より入浴タイムが楽しくなります。好きな香りの入浴剤をいくつも集めて、その日の気分によって変えてみるのも良いかもしれませんよ。
ご紹介した目的別の入浴方法を参考にしつつ、入浴タイムを楽しんでみてくださいね。
監修:日本東洋医学会 専門医・日本医師会 認定産業医・元日本神経学会神経内科学会 専門医
田頭秀悟
オンライン診療を専門とする脳神経内科医・日本東洋医学会専門医。西洋医学の枠に捉われず、東洋医学の叡智も駆使することで、患者さんの健康管理をサポート。オンライン診療では漢方薬なども活用している。「患者本人」を、根本的治療を施せる唯一の存在と捉え、病気の克服を支える「主体的医療」の普及に努めている。
※この記事は、正しい情報発信を行うために、医師に監修を依頼しております。商品について医師が推薦を行うものではありません。
医師 田頭秀悟からのコメント
入浴で体を温めると、副交感神経が活発になり、全身の血管が広がりやすくなります。血管が広がると、心臓が全身に血液を送り出す際の抵抗が弱まるため、心臓の働きが活発になり、血流やリンパの流れが改善します。
血流の改善は冷えの解消にも効果的なので、慢性的に冷えに悩んでいる方にも入浴はおすすめです。