「お勝手口」図書室

弊社会長・西川通子が、ひとりの女性としての胸の内を綴ったコラムです。
家事の合間にお勝手口で、お馴染みのご近所と、ちょっと立ち話、世間話。
そんな気楽な気持ちでお読みください。

平成31年 4月号

一生もの

それが春だったかどうか、定かに思い出せないのですが。

私が再春館製薬所の経営をお引き受けしたのは、ざっと数えて今から四十年ほど前のこと。当時医療用に使われるばかりだったコラーゲンを、日本で初めて配合した初代クリーム20に出会ったのも、そのときでした。

いかに心を込めようが手を尽くそうが、肝心の商品に“なくてはならない”と言われるだけのものがなければ、商いは上手くいかない、長つづきしない。

そう信じ込んでいた私は、初めて使ったクリーム20の肌ざわりに確かな手ごたえを感じていました。これはいい、これならきっと!

その後、使われたお客様の声を聞き、お求めに応えるよう磨き上げを繰り返し、仕上がり具合を確かめては、またお客様へお届けする…ということをつづけていくうち、少しずつですが、うれしい声が聞こえてくるようになりました。

「クリーム20が手放せない。なくなったら困るから、しっかり頑張ってね!」。

見込んだ通り、クリーム20を“なくてはならない”と思ってくださるお客様の数は日に日に増えていきました。けれども。そのとき私はすでに、次なる夢を見ておりました。

お母様が六十歳辺り、お嬢様は三十二、三歳辺り。なにげないお喋りの途中、お嬢様の笑顔に目をやったお母様が、こうおっしゃいます。「あなたもそろそろ、ドモホルンリンクルのお年頃ね」。

母が娘に信頼できぬものを薦める、という話は聞いたことがございません。そこに名前が挙がるのは、母が見極めた間違いのないものである証。

つまり私は、「私に」を超え「私たちにとってなくてはならないもの」と認められ、母から娘へと受け継がれつづけていくものに、クリーム20を柱としたドモホルンリンクル一揃えを育てあげたいと願っていたのでした。

一陣の風のように、舞い上がってはすぐに消え去るベストセラーでは決してなく。流行り廃りの波を乗り越え、間違いのない一生ものという銘をひたすら深くしていくロングセラーが、私がドモホルンリンクルに託した夢でした。

ですから、しばらく前、その年いちばん売れたクリームの栄に浴したこともございましたが、うれしく想いこそすれ、これで大願成就という気は一つもいたしませんでした。

けれども。会社から一歩二歩三歩と退きつづけている近ごろ、ドモホルンリンクルを巡る景色はと、遠目に眺めてみると、母から娘への話が私が思っていた以上に、あちこちに咲いているのが見てとれました。

中にはお孫さんまで使っているとか、お嬢様が「これいいわよ!」とお母様へ薦められたという、思ってもみなかったうれしい話も、ちらほら以上に咲いておりました。

これでよし。そう思いました。これで夢がかなったと思ったのではございません。よしとしたのは、この向きで進んでいけば、いずれは夢見た「間違いない一生もの」と広くお認めいただける日がやってくると信じられる気持ちがしたからです。

夢見た日から数えて、ざっと四十年。この先いかほどかかるかはわかりませぬが、きっとかなうと思えた日が春だったことを、今にもほころびそうな桜の蕾の姿とともに、今度は忘れぬようにしようと思っていました。

西川通子

平成31年 1月号

五冊目

あけましておめでとうございます。

お世話になるばかりの皆様へのご挨拶に、本年も…とお願いの言葉をつづけるのは、念押しをするようで品がないかも…。ふとそう思い、よそうかとも思っていたのですが、いざ書きだすと生来のくどさが顔を出し、書かずにいられぬ気がつのって仕方ありません。こらえて溜め込んだウップンを、新年早々周りにまき散らすのも、いまさらですが年甲斐がないと思い定めて、行を改め書かせていただきます。

本年も再春館製薬所を、ドモホルンリンクルを、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

「つむぎ」にお越しの際は、おついでの気持ちで、こちらにもぜひお立ち寄りくださいませ。時間つぶしにも足りぬほどのお喋りしかできませんが、それでも皆様の気が、ほんの少し晴れたり和んだりするよう心掛けてまいります。

さて、時間つぶしにも足りぬ…と言ったばかりの口で申し上げるのはなんですが。ここしばらくのお勝手口をまとめた本が出来上がりました。なんと、これで五冊目とか。書き始めたのは二十数年前。よくもまあ長々と、とるに足らぬ無駄話をしつづけてきたものと、あきれるような想いばかりがいたしております。

振り返って、なにをどう書きつけてきたかは、ほとんど思い出せないのですが。一つ、書き始めたときの気持ちだけは忘れることなく、今もそのまま、この胸に残っております。

今も一世一代の傑作と信じて疑わぬドモホルンリンクルを、同じ気持ちで愛してくださるお客様のことを、とても他人とは思えませんでした。この想いだけでも、なんたる無礼とお叱りを受けて当たり前なのですが、あつかましさの極みはここから。

上に座するお客様には、きちんと裃を着た言葉でお話するが筋。そう心得てはいながら、どうしても気さくにお話がしたい、あわよくば「いいものをつくってくれたわね、ありがとう!」とおほめをいただきたいという想い抑えきれず。どうすれば…と思案したあげく思いついたのが、懐かしいお勝手口で、奥様方や御用聞きの人がしていた世間話にかこつければ、多少はひざをくずしても…。

思い返しても、なんたる浅知恵と恥じ入るばかり。けれども、お客様のそばへ寄りたい一心に免じていただけたのか、今日までこうして、戯れ言を言うように書きつけるのをお許しいただいていることを、口にはせねど心ひそかに、有り難き幸せと感じております。

まだ書くのか、いつまで書くのか。そう聞かれれば、気の向くままに、気の済むまではなどと、たわけた返事しか思いつきませんが。願わくば、勝手な口の利き様をこらえて、消え去る気配なき気まぐれ婆のお喋りに、今しばらくお付き合いいただければ、それにまさる喜びはございません。

西川通子

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