「お勝手口」図書室

弊社会長・西川通子が、ひとりの女性としての胸の内を綴ったコラムです。
家事の合間にお勝手口で、お馴染みのご近所と、ちょっと立ち話、世間話。
そんな気楽な気持ちでお読みください。

平成21年 11月号

アフリカ

ちょっと前になりましたが。この五月、アフリカへ行ってまいりました。

ちょっと前って、エジプトへ行ったばかりじゃない!
はい、仰せの通り。お怒りもごもっとも。しかし、先のエジプトは世界遺産詣での遊び。今回はマラソンの金メダリスト、高橋尚子さんに乞われて行った… などと減らず口はやめて、正直に白状いたします。

私は再春館製薬所の他に小さな警備会社を営んでおります。地元の皆様のご愛顧によって成長させていただきましたゆえ、幾ばくかでもご恩返しを…そんな想いから、今年で九回目となった陸上競技とウォーキングの集い「笑顔で歩こう! 走ろう!」を催してまいりました。その集いにお招きしたことから高橋さんとのご縁がはじまりました。

高橋さんが昨年現役を引退されたのは、皆様もご承知のことと存じます。その後の身の振り様を少なからず案じていましたが、エジプトから帰ってすぐ、社長をしている息子から声がかかりました。高橋尚子さんが素晴らしい計画を持ってこられた。協力するお約束をしたが、ついては彼女と一緒にアフリカに行ってもらえないだろうか…。アフリカ?!
その名を聞いてちょっとびっくりいたしましたが。計画の内容を聞き進めるうち、私は胸のうちで「ぜひ行こう!」と想いを固くしておりました。

スマイル・アフリカ・プロジェクト――アフリカには靴を履いたことのない子どもたちがたくさんいる。日本の子どもたちが履かなくなった靴を贈って、思い切り走ってもらったら…。素晴らしい! それはいい!
古くなった靴を通しアフリカの子どもらと、走る喜びを分かち合うプランは、オリンピックの金メダルよりもっと輝きを放つはず!
私はさっそく社長に、社員から履かなくなった靴を集める段取りを頼みました。

五月末、社員から集めた百数十足を加え千以上にもなった靴を携え、高橋さんはアフリカへと渡りました。私の同行は乞われたからでなく、高橋さんや社長がしてくれた気遣いの賜物と言うのが相応。もちろん、なんの役に立つわけもなく、邪魔だけはせぬよう心がけ過ごしたのですが。行った場所が場所だけに得てきたものも桁違い。サバンナでは、動物園で見慣れていたはずの動物たちが、動物園のそれらとは別の生き物のような生気を放ち生きておりました。朝焼けも夕焼けも、これまで見たどの光景より心の奥深くへ焼きつく想いがいたしました。アフリカで出会った大自然の輝きは、これまでした感動とは、まったくちがった仕方で、今も私の心を揺すぶりつづけてやみません。

もしかしたら、初めて靴を履いたアフリカの子どもたちも、私に似た感動を覚えていたのかもしれない…。ちょっと考えれば、物見遊山でアフリカを訪れた私の想いと、靴を持たぬ子らの想いを重ねる不遜にすぐ気がつきます。けれども、初めてのものにふれた感動が喜びとなり、希望のかたちをとって笑顔に宿るのは、きっと同じ…。
今そんなふうに思い返していると、またすぐにでもアフリカへ行きたくなって。さて次はどんな理由をつけて… と、頭の中で悪だくみをはじめてしまうのでした。

西川通子

平成21年 7月号

エジプト旅行

この二月、念願かなって、長く憧れていたエジプトの地を訪れることができました。写真でしか見たことのなかったピラミッドを目の当たりにしたときは、ただ唖然とするばかり。今日の進んだ文化でも計り知れぬ英知に描かれ、無数の民の汗によって築かれたモニュメントの壮観は、いともたやすく私に言葉を失わせておりました。

ナイル川クルージングも忘れられません。生水には注意していたのですが、おそらく生野菜に残った水滴が原因。参加者が次々お腹をこわし寝込んでしまったのです。驚いたのは、平均年齢七十数歳のツアー御一行の中で最初に寝込んだのが、お母様と一緒に参加された二十代後半のお嬢さんだったこと。免疫力のちがいだったのでしょう。七十前後と言えば戦後の食糧難も不衛生も体験済み。はからずも培われた免疫力のおかげで持ちこたえることができ、それの無い彼女がまず最初に…ということだったのだと思います。

私はと言えば、やはりひどい腹痛と熱に悩まされましたが、持ち前の意地というか意地汚さのおかげ。モトだけはとらねば!と歯を食いしばり、お手洗いの場所を頭に叩き込んで、とうとう全行程を寝込まず楽しみ切りました。

この旅でひとつ、不思議に感じたことがありました。シーンはピラミッドの前に立ったところへ戻ります。世界遺産と呼ぶにこれほどふさわしいものがあろうか。そうは思ったものの、そばに寄ってみると、あら…。まるで相応の扱いを受けていないというか、風化が著しく、今にも朽ち果てそうにすら見えるのです。一人のガイドさんに出会いました。日本語も漢字にも堪能な彼の話を聞くうち、私はとても複雑な気持ちになっておりました。

古代、エジプトは海であり、陸となった後も地は塩を帯びていた。ナイルがたびたび氾濫しそれを洗い流してくれたおかげで、ピラミッドは塩の侵食を免れ、風化の速度はとても緩やかだった。現代に入り、急増する電力需要をまかなうためダムがつくられた。それによってナイルは氾濫しなくなった。豊富な電力はエジプトの発展に大きく貢献した。しかし塩は洗われず、太陽に干されて濃さを増し、ピラミッドの風化に拍車をかけている…。

自然の恵みとはなんなのでしょうか。ダムはナイルという自然の恵みを活かしたもの。しかし、それによって、ピラミッドの風化を遅らせるという恵みは受けられなくなってしまったのです。ダムが良いか悪いか、ということではないのでしょう。今日、自然の恵みと言えば、人に福を授ける一方のように発音されている気がしますが。エジプトで見聞きしたことは、授かることで失うものがあること、なにを選びどう活かすかが、これからは、これまで以上に問われることを指し示しているように思えて仕方ありませんでした。

感動したこと、キツかったこと、考えさせられてしまったことが、同じくらいずつ入り混じり、ふり返るたび思い出がちがった色に見える…。初めてのエジプト旅行を終え、今私は頭の中で、この旅が教えてくれたことを考える旅に出ております。

西川通子

平成21年 春号

花の力

私は七月、夏の生まれですが。本当はちがうんじゃないかしら…そう思うくらい、春が大好きです。おそらく周りの誰より春の訪れに敏感。そう言うと聞こえはいいのですが。感じる、というより教えてもらうのです。日ごろから仲良くしている、木や草や花たちに。

幹の艶やか、葉の色鮮やか、芽の吹き具合、つぼみのふくらみ加減。どんなに微かでも、それが春の兆しであるなら見逃すことはございません。いそいそとヒルトップの庭に降り、梅は咲いたぞ桜はまだか、チューリップはどう?バラの剪定はもう終わった?…と、一輪でも多くきれいにの一心で手入れにいそしんでおります。

そんな最中、思いがけずうれしいお申し出が。懇意にしている地元の会社が、蘭の展覧会を開いたとのこと。少しお手伝いをした、そのお駄賃代わりに、会場に飾った蘭の一部をくださるというのです。うれしや。自分たちで運びさえすればいただけるとは!これは一大事とばかり、さっそく社長に、ちょっと手伝って!と相談を持ちかけました。

運ぶのにどれくらいかかるだろう、なんとか一晩で…そんな皮算用をしながら会場へ向かったのですが、案ずるより産むが易し。慣れぬ力仕事に苦労するはずが、作業は驚くほどスムーズに進んで、夜も更けぬうち、すべてを終えてしまったのです。設営担当のプロの皆様も、これにはびっくり。こんなに手早く済むなんてと感謝の言葉を頂戴し、指示しただけの私まで、なんだか良いことをしたような気分になってしまいました。

翌朝、会社の玄関や食堂の一隅に蘭の花鉢を飾りつけました。昨夜見た会場を参考に、古木をあしらい華やかに並べていきました。出勤してきた社員たちは、手の込んだ細工のような蘭の花々を見てとても喜んでくれました。

余った鉢は、縁あって経営に携わっている病院に持ち込み、玄関脇に飾りつけたのですが。患者様たちの喜びようは社員たちの比ではなく、病室から歩いて見にこられるはもちろん、車椅子に乗ってこられる方、中には一目見たい一心でベッドに寝たままお越しくださる方までいらっしゃるほど。患者様から聞かれたのか、お見舞いに来るご家族の数も普段よりだいぶ増えて、玄関の辺りは、いつ通ってもたくさんの人でいっぱいでした。

運んで喜ばれ、飾って喜ばれ。いただいた蘭でこれほど喜ばれるなんて私もなかなか…そんな自惚れがなかったと言えば嘘になってしまいますが、私は知っておりました。すべては花の力、花の成せる業なのです。私に一大事と思わせたのも、社員に労を厭わず精を出させてしまうのも、見る人を思わず微笑ませてしまうのも。

誰に言われたわけでもなく、季節が巡りくるたび咲く花々。その愛くるしさに、人は飽きず魅せられ、癒され、微笑みます。世の中がいかように変わろうとも、変わることがないであろう花の力。万分の一でよい、私もそんな力を持つことができたら…。蘭の花が終わり、もうあと数日で桜の花に会えそうなヒルトップの庭で、一人そんなことを想いながら、なぜだか少し笑ってしまいました。

西川通子

平成21年 正月号

健脚

皆様に申し上げるのも、たぶんはじめてだと思うのですが。かねてより私は胸の奥で、夢の木を一本大切に育ててまいりました。

元気なうちに一人旅をして、世界遺産を観てまわりたい…。

還暦を迎えたあたりからでしょうか。その木は急に伸びを早め太さを増して、みるみるうちに心の森いちばんの大樹へ育ちました。昨年の暮れ、もう胸のうちに納まりきらぬと感じたとき、私はえいやっ!行動を起こしました。世界遺産のうち、第一に観るべきと決めていた地へ飛ぶ航空券を買ったのです。

なんと旺盛な行動力!けれども、我ながら快挙と自賛していられたのは、ほんの束の間でした。気がついたのです、まだ誰にも相談していなかった…。

恐る恐る古参社員に夢の木の話をし。その流れで「ツアーは申し込み済み」と切符を見せたところ、案の定その顔には、あきれてモノも言えぬの思いがありあり。ツアーの内容をあらためた後、「もうキャンセルできませんからね!」と言い放たれてしまいました。家族の反応もおおむね同じようで。買ってしまったんだから仕方ない…という言葉には、いつまでこんな勝手を!? 快挙が一気に暴挙へと成り下がり、いささかならず気が滅入りましたが、それもまた束の間。すぐ気を取り直し、おかげで旅が公認のものになったと、晴れ晴れした思いさえ感じていたのですから、始末に負えぬとはこのこと。しかし、身勝手な思い込みも、やはり長つづきしませんでした。新たな問題が、なんと足もとから見つかったのです。

エジプトのピラミッドの前に立つにも、あるいは、ペルーのマチュピチュ遺跡を目指すにも、欠くべからざるもの。それは、砂漠や険しい山道をものともしない健脚にほかなりません。そう気がついて我が身を振り返ってみると、そこにあったのは六十五歳相応の、健脚とはとても言えぬ並の足ますゆえ、実質的には中の下の、そのまた下あたりの働きしかできぬと見るのが妥当でしょう。

困った!飛行機に乗る日に間にあうか!?

かくして、隠居同然の身にあっても忙しい暮れの時間をやりくりし、歩いて、走って、屈伸して、世界遺産をめざすにたる足づくり-

夢を見る、かなえるために努力する。思い返せば私の人生はこの一つ事の繰り返しでした。そして、夢の間に間にした数限りない失敗にも折れず歩いてこられたのは、なにがあっても挫けなかった“心の健脚”のおかげ。健脚が高じ失敗を呼んできたことも重々承知しておりますが。こと私に限っては、遅れをとるより先走り、立ちすくむより勇み足。この性分に従い歩き、つまずくたびに足もとを確かめ、また歩きはじめるよりほかない…。

歩を緩め、立ち止まったとき浮かんだ思いは、以前のような勢いにあふれてはいませんでしたが。今の私の身の丈にはちょうどあっている…。そんなふうに感じながら、歩き慣れた師走の道を、一歩、また一歩と、足もとを固めるように歩きつづけました。

本年もなにとぞよろしくお願い申し上げます。

西川通子

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